第39話 尋問・1
第08節 嵐の女帝〔2/4〕
◇◆◇ 宏 ◆◇◆
「……生きてるか?」
意識を取り戻すと、オレたちは光の差さない牢獄のような場所に監禁されていた。
地面は僅かだが揺れている。なら、ここは船の中?
「あぁ、なんとかな」
何となく口にした言葉に対し、飯塚の声の応えがあった。続けて、
「〝0〟!」
武田の、コール。それに合わせて俺たちも、〔亜空間倉庫〕の開扉を試みたが、何も起こらず。
「……女子は、ここにはいない、という事か」
オレたち五人が一緒に念じなければ開扉出来ない、〔亜空間倉庫〕。それが開かないという事は、声が聞こえる飯塚と武田しか、この場にはいないという事だ。
「オレたちは、どうなった?」
「おそらくは、〝魔王〟の軍勢に捕まったのかと。
で、これから始まるのは尋問か処刑か」
「オレたちはそんな大物じゃないんだがな」
「むしろ大物なら身代金請求の対象になる。そうでないなら生かしておく理由もない、って感じ、か」
「なら、精々大物だと思わせなきゃいけないのか?」
「スイザリアがそれに乗ってくれなきゃどうしようもありませんけどね」
飯塚とくだらない話をしていたら、武田の無慈悲なツッコミ。
どちらにしても、今生きていること自体、そしてこれからどうなるのかも、相手の胸先三寸でしかない。
なら、ここから先は、臨機応変。といえば聞こえは良いけれど、行き当たりばったりしか方法はない。
◇◆◇ ◆◇◆
「おい、お前。ついてこい」
と、あるタイミングでそんな声が聞こえた。
顔を上げると、軍人らしき男がオレを睨んでいる。
「オレ、ですか?」
「そうだ、お前だ」
そして一通り尋問を受けた。
名前、出身地、オレの(〝奴隷の首輪〟を嵌めた)主人のこと。
オレたちが戦争に参加した経緯、ロウレスで殿軍を守って戦った理由。
聞かれたことには、素直に答えた。信じてもらえたかどうかはわからないけれど。
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
柏木くんが軍人さんに連れていかれ、けれどそれほど時間を要せずに戻ってきました。
取り敢えず暴力を振るわれるようなことはなかったみたいだけれど、尋問がこれで終わりだとは思えません。そして、同じように女子のことも気になります。
ボクらの身の回りの物は、下着一枚に至るまで全て没収されており、当然腕時計も取り上げられています。だから、あれからどれだけの時間が、日数が経過したのかもまるでわかりません。
柏木くんは、聞かれたことに全て素直に答えたそうですけれど、どうも信じてはもらえなかったみたいです。例によって〝異世界〟だの〝魔王〟だのといった言葉の意味がわからない、というところから始まって、おそらくはボクらのことをどこかの戦闘奴隷、とでも解釈したのでしょうか?
そして、更に時間が経ち。
主観的には、柏木くんの尋問が終わってから、4時間くらいしたのでしょうか?
改めて、ボクら全員が呼び出されました。
行った先は、艦長室。そこには、一人の女性が座っていました。
「ようこそ、エンデバー号へ。あたしは艦長のサリア・リンドブルム。ドレイク王国で公爵位を持つ貴族でもあるわ。
貴方たちに聞きたいことがあります。けれど一人ひとりに聞いていたんじゃ時間が勿体無いんで、全員揃ったところで質問することにするわ。
だけど、質問されたことに答えるとき以外で口を開かないように。口を開けば、敵対行動と看做します」
艦長が自ら尋問する? その理由を訝しみながら、でも女子が来るのを待ちます。
そして、それほど時間を置かずに女子も艦長室に姿を見せました。
それを見て、
「〝ゼ――」
「口を開くな。そう言ったわよね?」
〔亜空間倉庫〕開扉のコールをしようとしたところ、リンドブルム艦長の冷たい声に遮られました。勿論、〔倉庫〕の開閉にはコールは必要なく、ただ意思のみで済みます。
けど、艦長のその一言は、正しくその〝意思〟を叩き潰したのです。
「あたしは貴方たちに、幾つか質問をします。
その全てに嘘偽りなく答えたら、貴方たちを解放してあげましょう。装備の類も全て返します。
けど、嘘があったら。貴方たちはこのまま、あたしの国に連行し、そこで法の裁きを受けることになるでしょう」
このゲームは、艦長にどのようなメリットがあるのでしょう? それに、発言の真偽をどのように判断するつもりなのでしょう?
それを聞きたくて、手を挙げました。口を開くな、と言われていますから、行動で意思を表明するしかないので。
「何かしら?」
「ボクらの発言が嘘か本当か。どのように判断なさるのですか?」
「ん? 女の勘、かな?」
「そんな、いい加減な……」
「嫌なら拒否してもいいわよ? その代わり、その場合は公開処刑という事で、マストから吊るすけど」
つまり、死にたくなければ戯れに付き合え、と。そういう事ですか。
「じゃぁいいわね? まず簡単な質問から。
貴方たちの名前と、出身地を言いなさい」
「ボクの名前はユウ。出身地は、西大陸のキャメロン騎士王国です」
本当のことを言ったら、その方が荒唐無稽。なら、正しくないけど公的な事実のみを告げてみましょう。
「ダウト。西大陸には、貴方たちのような外見的特徴を持つ民はいないわ」
「何故、そう言い切れるのですか?」
「あたしも西大陸・キャメロン騎士王国出身だからよ。厳密には、大陸にはいるけれど、その民はまだ騎士王国と接触していないわ。
それに、その名前も本名じゃないわよね?」
何処まで見抜かれているのでしょうか? でもそれなら。
「わかりました。改めて答えます。
ボクの名前は武田雄二。出身地は〝異世界〟日本国○○県○○市です」
「そう。では武田くん、と呼ぶことにするわ。他の子たちも名乗りなさい」
え? 素直に受け入れられた? 何故?
というか、公爵って貴族の最高位。王族の親戚の爵位です。そんな高位の貴族でありながら、苗字を持つ平民をあっさり受け入れてその苗字で呼ぶ? 訳わかりません。
戸惑いながらも皆も名乗り、そして尋問(?)は続きます。
「そう、縁を辿って。それで貴方たちは、自分たちをこの世界に導いた〝縁〟を見極める為に旅をしている、と」
「はい、そうです」
「ならこの〝ゲーム〟、どっちに転んでも貴方たちの勝ちかもね? というか、負けた方が都合が良い? そうすれば、一足飛びにうちの陛下に謁見出来るものね?」
「否、それでは意味がないと考えます。自分の足で、陛下の許に辿り着かなければ、陛下に謁見する資格はないと思います」
「うんうん、立派な心掛けだわ。そしてその途上で、マキア独立戦争に介入した、と。
マキア王党派から、貴方たちの引き渡し要求が来ているわ。貴方たちの持つ巨大な〔収納魔法〕の所為で、あっさりロウレスの町が陥落したって。
それで、この戦争は、貴方たちの〝縁〟と、どのような関係があったの?」
「それは……、今はわかりません。
ただ単に、冒険者証を維持する為に、強制依頼を受件しただけですから。
それがマキアの人たちにとっては迷惑千万なことだったかもしれませんけれど、でもボクらにとっての意味は、多分あるのだと思います」
(2,996文字:2018/01/28初稿 2018/08/01投稿予約 2018/09/12 03:00掲載 2019/03/06誤字報告により指摘された誤字を反映 2020/02/15誤字修正)
・ 彼らの「身の回りの物は、下着一枚に至るまで全て没収されて」いますけど、代わりの貫頭衣のようなものは与えられています。だからすっぽんぽんではありません(ノーパンだけど)。




