表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第二章:依頼は選んで請けましょう
84/382

第38話 魔王の軍勢

第08節 嵐の女帝〔1/4〕

◇◆◇ 宏 ◆◇◆


 ロウレス落城から数日が経ち、町の中も一応の落ち着きを取り戻した。


 オレたちは一時、凌辱(りょうじょく)されたり略奪されたりした市民に対し、何らかのケアを、とも思ったけど、それさえ勝者の(おご)りであり、救いにはならないと判断し、何もしないことを選んだ。

 そしてスイザリア軍はこの攻城戦の被害を確認し、次のカンポリデの丘を攻略する為に部隊を再編する。通常の攻城戦に比して被害は僅少(きんしょう)とはいえ、野戦で(こうむ)る損害を上回る犠牲者を出している。人員補充の当てもない以上、残った戦力を有効活用することは、至上の命題なのだから。


 とはいえ、次に攻略する予定の「カンポリデの丘」は、正直何もない、ただの丘陵地帯だ。敵がそこに防衛線を敷いているのであれば攻略に手間取るかもしれないが、その重要性を認識していなければ、無抵抗で占領出来る。

 が、その一方で、占領後そこを野戦陣地、出来れば野戦築城して防衛拠点として機能させなければならない。その点について、物資の輸送が重要な意味を持つのだ。つまり、俺たちの〔亜空間倉庫〕が。

 そして、攻略の計画も立ち、野戦築城に必要な物資(一部は既に組み立て済み)をオレたちの〔倉庫〕に仕舞い込み、近々出陣、というタイミング。この世界に来てから、271日目に。


 〝魔王(サタン)〟の軍勢による、襲撃を迎えることになった。


◇◆◇ ◆◇◆


「なんだ、ありゃぁ!」

飛竜(ドラゴン)、だとぉ?」


 ロウレスの南の空に、大きな影が三つ。

 ファンタジーの象徴たる、ドラゴンの姿。


「じょ、冗談じゃねぇ。〝嵐の女帝〟かよ!」

「〝嵐の女帝〟とは?」


 叫んだ兵士に問うてみると。


「そんなことも知らねぇのか。ドレイク王国の王妃の一人と(もく)されている、海軍提督だ。

 飛竜(ワイバーン)3頭を手足の如く使う、洋上の魔女だ」

「で、でもこの軍のなかには白金札(Sランク)の冒険者もいると聞きます。ならワイバーン相手でも負けることはないのでは?」

「空飛んでいる相手に、どうやって戦うんだ? 竹槍(やり)でも投げるのか?

 白金札(Sランク)の冒険者ならワイバーンに勝てるって言っても、それはあくまで相手が空を飛ばない時だ。巣穴で卵を守っている時とかな。

 こんな、ワイバーンが自由自在に飛べる場所で、地に足付けた人間が勝てるはずがないだろう? お前も早く逃げろ、留まっていても無駄死にするだけだぞ」


 兵士や冒険者は、我先に逃げ出した。南から来ているからと、北門から。

 だからオレたちも、他の兵士たちと一緒に北門に向かった。


 轟音が聞こえ、振り向くと。


 逃げ遅れた兵士たちが、ワイバーンの火炎(ドラゴン)吐息(ブレス)に巻き込まれていた。ブレスに巻き込まれた兵たちの中に、イゴル氏の姿も。

 ……冗談じゃない。確かに、勝てる可能性さえ思い浮かばない。


 出来るのは、逃げることだけ。だから、必死で足を動かした。


 しかし。


◇◆◇ ◆◇◆


 結局オレたちは、逃走する部隊の最後尾となってしまったようだ。というか、オレたちの後から逃げていた連中は皆ドラゴンブレスに呑まれてしまった、というべきか。

 そしてオレたちが北門を抜けた直後。西側から敵兵の集団が攻撃してきた。


 その鎧は、所謂(いわゆる)魚鱗(スケイルメイル)(アーマー)。飛竜の鱗を連想する、白銀の鎧。

 手にある剣は、オレたちの持つ〝ゴブリンドロップ〟の長剣(ブロードソード)に似た、緋色の燐光を放つ魔法剣。


 これが、〝魔王(サタン)〟の国の、正規兵か。

 向こうは完全武装だけど、多分このままでは逃げられない。背を向けたまま力の限り走っても、追い付かれて背中から斬られるだろう。

 なら仕方がない。


 停止し、〔倉庫〕を開いて武装を整える。

 オレは長柄(ポール)戦槌(ハンマー)

 松村は大刀に〔赤熱〕をかけて。

 飯塚と武田は槍に同じく〔赤熱〕を。

 髙月は四人が作る輪の中で(クロスボウ)を構えて。


 そして、激突。


 けど、正直勝負にならなかった。

 松村の(わざ)は敵兵を圧倒したものの、石突(いしづき)側の打撃では全く(こた)えず、〔赤熱〕された刃であってもその鎧に傷をつけることさえ出来なかった。

 オレの打撃はあっさりいなされ、身を守ることもままならず。

 飯塚と武田は正直相手にもされず、その槍は敵兵の魔剣に断ち斬られて。

 髙月のクロスボウが放つ矢弾(クォレル)も、敵の鎧を射抜けなかった。

 そして敵兵は、武田の〔プレスド・エアー〕のような魔法を無詠唱で使ってきて、オレたちは何度も見えない空気の(かたまり)()ね飛ばされた。


 ダメージを受けたら〔倉庫〕を開き、中で治療と休息を取ってから外界で戦闘を再開した。けれど、〔倉庫〕内でどれだけ時間を過ごしても、外界では時間は経過していない。つまり、外界の状況は決して好転していないのだ。怪我をしたら〔倉庫〕を開く、というサイクルを繰り返すうちに、外界には数秒しかいられなくなり、そして。


 打つ手もなくなったオレたちは、一人また一人と意識を奪われていったのであった。


◆◇◆ ◇◆◇


 ドレイク王国の船、『エンデバー号』の艦長室にて。


 艦長であるその女性は、今回の戦闘の顛末(てんまつ)を確認していた。


 スイザリアからの派遣軍。

 けれど、飛竜たちによる空襲と陸戦隊による襲撃により、ロウレスから駆逐する事が出来た。

 逃走するスイザリア軍の殿軍(しんがり)を守った少年冒険者たちは健闘したものの、大した時間稼ぎにもならず。ただ隊長の判断で、彼らは殺さず意識を奪ったうえで、船倉に転がすことにしたという。殺意無く、ただ純粋に仲間を逃がす為の時間稼ぎを目的にして剣を振るった彼らに、興味が湧いたのだとか。とはいえ勿論(もちろん)武装は解除して。また、彼らは五人一組ながら、攻城兵器そのものを〔亜空間収納〕に仕舞い込むことが出来たという。なら、五人をひとまとめにしておくことは、危険過ぎる。

 だからそれぞれ部屋を分け、男女で階層も分けて軟禁することにした。


 そして、彼らの持ち物を確認する。


 勿論、この他にも〔収納魔法〕で多くの物を隠し持っているのでしょうけれど。

 けど、そこにあったものは。その中で、特に目を()いたものは。


 異世界製の、スマートホン。


 艦長室に備え付けてある充電器(・・・)でスマホの充電をしながら、その内容を確認する。そのスマホが指し示す、年号や時間。動画や画像。そして。


「あの子たちが、こんなに大きくなっているなんて」


 エンデバー号艦長、サリア・リンドブルムは、二度と戻らぬ過去を懐かしみながら一通りスマホを確認し、そしてその一つを取り出して、ボイスレコーダーをタップした。


「拝啓、姉上様。(いいえ)飯塚(いいづか)琴絵(ことえ)様。

 あたしは異世界に生まれ(かわ)ったけど、今も元気です――」


 それは、既に終わった人生の、けれどやり残した後悔の根源。

 愚かな自分の所為(せい)で、無意味な自責の念に(とら)われているであろう前世の最愛の家族に、感謝を(つづ)(ゆる)しを()う言葉。


 それを、可愛い前世の甥っ子たちが、正しく伝えてくれることを祈って。

(2,932文字:2018/01/28初稿 2018/08/01投稿予約 2018/09/10 03:00掲載 2023/02/01こっそり設定変更)

【注:「空飛んでいる相手に、どうやって戦うんだ? 竹槍(やり)でも投げるのか?」という台詞は、大東亜戦争時代B-29に対して竹槍で迎撃する、という戯言(@塾長)を原典としてます。なおマキア地方に竹はありません】

・ 「船」と「艦」の使い分けについて:「艦」は「いくさぶね」、「船」は「艦以外の船」です。エンデバー号は、世界周航を目的に建造された「探査船」ですが、武装し且つ軍籍にあることから、その長は「艦長」です。一応、世界周航中は「船長」と呼ばれていました。なお、英語では「船長」も「艦長」も「Captain」です。ちなみに私掠船(敵国の商船を襲撃することを公に認められた海賊船)も「船の長は艦長」です。

・ サリア・リンドブルム。ドレイク王国公爵(但し同国で公爵位を持つのは全員女性の為、「王妃」の表向きの爵位と看做されている)。ちなみに、〝公爵〟としての序列第五位。前世の名を、水無月(みなづき)麻美(あさみ)といいます。そしてエリスは、彼女と飯塚翔くんの〝縁〟を、『匂い』と認識した模様です。また、飼っているワイバーンの名前は「(すすぐ)」(雄)、「(ユエ)」(雌)、「(はな)」(雌)、といいます。

・ 飯塚(いいづか)(旧姓水無月(みなづき)琴絵(ことえ)。飯塚翔くんの母で、(故)水無月麻美さんの姉。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ