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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第一章:契約は慎重に結びましょう
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第06話 ミーティング・1 ~こんにゃくとアブラカタブラ~

第02節 異世界言語と魔法〔3/7〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 ミーティングは終わらないよ。

 〝魔王(サタン)〟さんの事、〝キュゥべえ〟さんの事。

 言い換えないといけないから、話について行くだけでも精一杯。でも色々考えないといけないみたい。


 でも、魔法、か。

 『異世界人は魔力に適応し(やす)い』。それはダウトだと考えるべき?


「この世界は、四大(しだい)精霊神が君臨しているという。神の実在が虚構(フィクション)現実(ノンフィクション)かは()いておくけど、ボクたちの世界で考えたら疑問が残る」

「どういう意味だ、武田?」

「簡単なことだよ柏木くん。〝ファミコン〟やネトゲで四大(しだい)だの五行だの六芒(ろくぼう)だの七大属性だのを使うのは、パワーバランスの調整の為だから。どれかの属性を持ったら、そのキャラが無敵になるとか、どれかの属性を持ったら、クリア不可能になるっていうんじゃぁ面白くないでしょう?」

「だけど、四大(しだい)属性っていうのは、昔からあった考え方だよな?」

「逆でしょう。四大(しだい)属性っていうのは〝天動説〟です。だからボクらは〝水兵リーベ〟を学んで四大(しだい)は学びません。そしてそれが、異世界人の優位性に繋がるんじゃないですか?」


 そしたら、ショウくんが口を挟んだ。


「神を学ばず水兵を学ぶ。それが、俺たちのアドバンテージだって考えると、ちょっと皮肉だよな」

「何を言っているんですか。軍に於いて真っ先に学ぶべきは、現場です。軍に入隊したら兵を指揮したいなんて考える新兵は、使い物になりませんよ」

「いや武田、間違っちゃいないが、間違ってないだけに話が思いっきりずれているよな?」


 何で魔法の話から兵隊さんの話になっちゃうんだろう? これだから男の子って……。

 でも、ちょっと気になることもある。


「ねえ、話を戻すけど。

 神様がいないなら、神聖魔法とかはどういう事になるの?

 それに、火属性魔法も『邪悪なモノのみを焼く聖なる炎』って言っていたよね?

 なら、神聖とか邪悪とかっていう概念はあるってことでしょう?」


 上手(うま)い言い換え言葉が思い付かなかったから、そのまま言っちゃったけど、これは盗聴さ(きか)れて困る言葉じゃないよね?


「神聖と邪悪。つまり、善と悪。これは絶対概念じゃないんです。

 〝ゴッド〟の敵に〝ベルゼブブ〟がいるけど、(ベルゼブブ)の別名は〝バアル〟であり、それは決して邪悪な存在じゃありません。

 〝遊戯札〟にとっての〝ベルゼブブ〟は〝黒電話〟だけど、〝黒電話〟にとっての〝ベルゼブブ〟は、〝遊戯札〟なんです。

 そう考えると、『神聖と邪悪』を字義通り受け止めて良いものかは疑問が残ります」


 美奈の質問に、武田くんが(ノートに何かを書きながら)答えてくれた。


「そして、その二つの魔法についてを考えた時。

 ボクたちは、不死魔物(アンデッド)を知りません。そのアンデッドを『地に還す魔法』と言われても、特定の種類の魔物に対して特効というだけなのか、浄化・浄霊の力がその魔法に備わっているのかは、現時点では全くわからないんです。


 そして、火属性の魔法。

 魔法で火を生み出すのなら、それは『燃焼の三要素』を無視しているってことになります」


 そう言いながら、武田くんが今書いていたノートを皆に見せた。


《 燃焼の三要素: 可燃物・助燃物(酸素)・発火温度。

 魔法が炎を生み出すというのなら、魔力は可燃性ガスと酸素の混合気体?

 だけど、だとしたら火属性の炎は、「(まき)に点火する」ことが出来るはず。

 にもかかわらず、それが出来ないというのなら。

 「火属性の炎」は、この世界の人たちが皆「それは炎だ」と思っているだけで、炎でも何でもない可能性がある。 》


 (すご)い。こんな考え方が出来るなんて。

 美奈だけじゃなく、おシズさんやショウくんも、吃驚(びっくり)して武田くんの顔を見つめちゃったわ。


「昔、ボクに色んなことを教えてくれた爺さんが、そういう見方があるって教えてくれたんです。

 ファンタジー小説のように、世界を〝物質(マテリアル)界〟と〝星幽(アストラル)界〟に分けるのなら。

 アストラル界の存在は、物質化しないとマテリアル界に干渉することは出来ないはずだ、って。

 発生プロセスはアストラル界のルールに従っても、どこかでその質量(エネルギー)を物質に変換しなければ、マテリアル界のルールに作用することは出来ない、って。

 その『変換』をするのが魔法だと解釈するのなら、ボクたちの世界にだって魔法が存在する可能性はある、って。だけど、マテリアル界の道具ではアストラル界を認識出来ないから、ボクたちの世界では魔法は無いって言い切って間違いないんだ、って」


「……お前の爺さん、一体何者だ?」

「ボクの血の繋がった祖父、って訳じゃないですよ。

 ボクの父が経営し(やっ)ている会社の顧問をしていた経営コンサルタント。

 会社の設立からお世話になっていて、ボクが小さい頃は遊び相手にもなってくれました。

 その時、色んなことを教えてくれたんです。

 虚構(フィクション)空想(ファンタジー)だって、真面目に考えれば別の面白さがあるって教えてくれたんです。

 うん、爺さんなら、今頃どこかの世界の魔王(サタン)に生まれ変わっていても、別に驚かないかな?」


 柏木くんの、唖然(あぜん)としたような呟きに、更に驚く答えを返した武田くん。

 「経営コンサルタント」って、凄い真面目なエリートだと思うけど、子供の遊び相手をしたり、その子に魔法とかファンタジーとかの考え方を教えたりって、全然イメージが違う。


 まぁそれはともかく。

 言い換えの所為(せい)であっちこっち脱線して、その脱線話で更に盛り上がるから、全然話が進まないわ。


「武田にばかりいいところを見せられるのは、ちょっと沽券(こけん)にかかわる。

 今度はあたしの番だな。

 〝こんにゃく〟と〝アブラカタブラ〟についてだ」


 おシズさんが、力技で話を元に戻した。うん、〝アブラカタブラ〟って、「呪文」のことだね?


「〝こんにゃく〟の存在を前提に考えると、この世界のボキャブラは案外少ないと思う。

 というか、『I』と言ったら『私』とか『俺』とか『(わらわ)』とか、多くの表現がある、日本語の方がおかしいんだろうけれどね。

 だとすると、〝エスペラント〟と〝アブラカタブラ〟の、二種類の言語があるってことに違和感を(おぼ)える」


 〝エスペラント〟。これは、ショウくんと一緒にショウくんの叔母様に教えてもらったことがある。言葉が違うから誤解が生まれるなら、統一言語を作れば良い、って考えた人たちが作り出したっていう、人工言語。結局人々は、自分たちの母語を優先してエスペラント語は普及しなかったって言うけど。でも魔法が意思疎通を媒介する、この世界の言葉は〝エスペラント〟って言って間違いじゃないと思う。

 ショウくんが柏木くんに、ノートを見せてる。おそらく〝エスペラント〟についてを説明しているんだね。


「そもそも、あたしらは〝エスペラント〟を使えない。〝こんにゃく〟の助けを得て何とか理解出来ているだけだ。なら。

 〝アブラカタブラ〟の『文言』に、意味があるはずがない。

 〝アブラカタブラ〟の要諦(ようてい)は、そこに込められた『意思』だろう」


 なら、呪文を暗記する必要は無いってこと?

 でも、だとすると。結局魔法って、一体何なのかな?

(2,996文字:2017/11/27初稿 2018/03/01投稿予約 2018/04/11 03:00掲載予定)

【注:「ファミコン」は株式会社シャープ他の登録商標ですが、一般的には任天堂株式会社から発売された家庭用ゲーム機を指し、そこから転じて家庭用ゲーム機全般を指すスラングとなっています。なおアメリカでは一般用語(ファミコン=FamilyComputer=家庭用コンピュータ)と解釈されて、任天堂社の商標出願は却下されています(その為アメリカのファミコンの名称は「Nintendo Entertainment System」(略称N.E.S)といいます)】

・ 前作で質問があったので、敢えて注記。「四大(しだい)」は火水風土を意味する名詞であり、「四大(よんだい)」(「四つの大きな」、の意)とは違います。精霊や属性を扱う場合は同一視されるものではありますが。

・ 「水兵リーベ」は、元素周期表の語呂合わせですけど、さすがにこれは皆さんご存知ですよね?

・ 髙月美奈さんの経営コンサルに関する印象は、やっぱり先入観。例えばエロゲメーカーのコンサルが、「エロゲなんてくだらない」って思っていたら、有用なアドバイスは出来なくなりますから。経営者に寄り添うのがコンサルですから、色んなものをそのまま受け入れられるだけの余裕も必要なんです。

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