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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第二章:依頼は選んで請けましょう
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第33話 作戦

第07節 人間の悪徳〔2/6〕

◇◆◇ 雄二 ◆◇◆


 ボクらがこの世界に来て200日余りが経過し、東大陸に来てからは4ヶ月近くが経過しました。

 東大陸に来た直後は、残暑真っ盛り、という感じ。けれど今はもう、冬の寒さを感じられます。現地の(こよみ)では「冬の三の月」というそうで、太陰暦すなわち旧暦ですので太陽(グレゴリオ)暦に直すと1月頃、なのでしょうか。


 そしてスイザリアがマキアを攻めるのは、冬から春、と相場は決まっているそうです。何故なら、冬場は北のベルナンド山脈が雪に沈み、南北の往来が出来なくなるからです。その一方でスイザリアとの境界にあるベスタ山脈は、それほど雪が深くならないので、軍隊の行軍に支障はないのだとか。

 それでも、冬場に山脈越えとなると、洒落(しゃれ)にならないほど寒いです。ので、〔火弾〕の応用で石を加熱し、布でくるみました。『温石(おんじゃく)』という訳です。


 実は、断熱圧縮を利用した暖房魔法を研究したんです。〔マルチプル・バブル〕に圧縮空気を保存するという形で、〔プレスド・エアー〕と名付けました。けど、「温度」とは結局、分子の運動速度。〔泡〕の内側の空間を圧縮して熱を生み出しても、〔泡〕で空間を隔絶させてしまっている以上、その熱は外側に伝播(でんぱ)しません。だからこの魔法は、暖房用には使えなかったんです。もっとも、圧縮空気を封入した〔泡〕そのものは、他にも使途(つかいみち)がありますので、完全な無駄にはなりませんでしたが。けど、断熱圧縮を利用した空間加熱や断熱膨張を利用した空間冷却は、もう一工夫する必要がありそうです。


◇◆◇ ◆◇◆


 ベスタの(とうげ)、つまりマキアとの国境付近での野営時。軍議が開かれました。

 ボクらは本来、臨席する資格はありません。けれど、実質的な輜重(しちょう)隊として、一定の信用を得ていた為に、このマキア方面派遣軍内で最大の輸送力を持つボクらをどの部隊に随伴(ずいはん)させるか、という問題から、この軍議に臨席することを許されたのです。当然ながら発言権などはありませんが。

 上意下達という形で、「○○部隊に随伴せよ」と命令されるのが普通でしょうけれど、その場合軍上層部は、ボクらの〔収納魔法〕の特殊性(五人(そろ)わなければ使えない)を誤解してしまう危惧(おそれ)があったので、軍議の場で〔収納魔法〕の実演を迫られたのです。

 ボクらも、五人で輪を作り、その輪の中に〔収納〕した物資を出現させる、というパフォーマンスでそれを示して見せました。


成程(なるほど)。五人揃わなければ使えないにしても、五人揃えば全軍の物資を運ぶことさえ可能なのか」

「確かに、上手く使えば戦況がひっくり返るな。それに物資に兵士を潜ませれば、一軍を敵の(ふところ)に送り込むことも出来る」


 「トロイアの木馬」作戦ですか。けれど、それを期待される可能性は西大陸にいたときから想定しています。


「残念ですが、ボクらの〔収納魔法〕は、生きた人間を運ぶことは出来ません」

「なんだ、使えないな」

「まぁまぁ将軍。本来〔収納魔法〕は、生き物を運べるようには出来ていないのですから。むしろ、攻城兵器を現地で組み立てないで良いというのは、有り難いことではないですか?」

「確かにそうだ。本来なら敵の眼前で組み立てなければならない攻城兵器を、完成した形で輸送出来るというのは有り難いな」


 平衡錘(トレビュ)投石機(シェット)や攻城(やぐら)破城(はじょう)(つい)などといった攻城兵器は大型で、輸送に難があるという弱点があります。

 だから、木材などは現地で調達し、現場で組み立てるのが普通。そういう事情もあり、攻城兵器の投入は決戦時に限られるのです。けれど、当然それを使って攻撃される側は黙って見ているはずはありません。

 攻城兵器が完成すれば攻撃側は手札が増えるけど、組み立て中は、組み立てる為の兵士とそれを守る戦力とが必要になり、城砦に対する攻撃力は低下します。

 しかし、完成形をそのまま輸送出来るのであれば。攻撃力を割かずとも攻城兵器を投入出来るという事だし、輸送に労力を割かずに済むのであれば、小さな村落に対する攻撃にさえ攻城兵器を使用出来ることになります。攻撃側の優位性が、一気に高まるのです。


「敵ゲリラどもは、ロウレスの町を占領してそこを拠点にしているという。

 まずは近隣の村落のゲリラの拠点を潰しながら、ロウレスの町を攻め落とし、次いでカンポリデの丘を攻めてここを抑える。

 カンポリデの丘は、マキア湾の出口に当たる場所でもあるからな。ここを抑えれば、マキア港の(のど)元にナイフを突きつけたようなものだ」

「では、本隊はロウレスの町を東から攻め、第二隊、第三隊は迂回(うかい)してそれぞれ北と西から攻撃しましょう。冒険者旅団(パーティ)(フェイト・)辿(ファインダー)】は、本隊に随伴させます。攻撃のタイミングは……」


 そこから先は、具体的な作戦会議。熱が入り過ぎて、ボクらという異物がそこにいる事もしばらく忘れていたようですが、そのうち思い出したのか退出するように命令されました。


「今回の、ボクらの任務は徹頭徹尾、輜重隊のようです」


 例によって、〔倉庫〕内でのミーティング。


「まぁそうだろうな。鉄札(はんにんまえ)を戦力として期待出来るかと問われたら、『出来る』『出来ない』じゃなく『しない』だろうし。そして、輜重としての有用性が明らかになった以上、小競り合いで損耗させたくはないだろう」

「そうですね。けど、未だ松村さんの問題は残っています」

「あたし?」

「えぇ、〝大弓使い〟としてのネームバリューです。

 二つ名が知られているだけに、何もしないということは出来ない可能性が高いです。

 なら、その〝二つ名〟が実は名前負けだった、と思わせるか、それとも雑兵一人殺すのに〝大弓使い〟は勿体無(もったいな)いと、〝大弓使い〟はそれ自体が一つの攻城兵器に類する、と思わせるか。そのどちらかの方向に持っていければ、松村さんを前線に立たせる心配はなくなるのではないかと思います」


 けど。上手く輜重隊として立ち回り、将軍の立てる作戦が功を奏すれば。ボクらが直接戦わなければならない局面は避けられる。そうなってくれればいいんですけれど。

(2,568文字:2018/01/23初稿 2018/07/18投稿予約 2018/08/31 03:00掲載予定)

【注:「トロイアの木馬」は、ギリシア神話のトロイア戦争の逸話が原典です】

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