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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第二章:依頼は選んで請けましょう
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第31話 ギルマスに対する疑惑

第06節 徴兵〔5/5〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


 弓使いが、弓を使わなくても戦える。それは、尊敬に(あたい)すること。

 けど、〝大弓使い〟の二つ名を持つ冒険者が、敢えて弓を使わない。それは、疑念を招くこと。


 当たり前のことながら、そんな単純なことにも気付かなかった。

 だけど、俺たち男子一同の合意として、女子に殺人はさせたくない。

 となると。大弓を使う状況を積極的に見つけ、それを使うことで戦況が有利になるように行動し、松村さんがその弓で人を殺す必要がないようにすること。

 その状況は、()だ具体的には思い浮かばないけれど、けどしっかり考えよう。


 そんなことを考えながら、イゴル氏と松村さんの話を聞いていて、ちょっと引っかかったことがあった。


「あの、イゴルさん。イゴルさんは俺たちのことを『数合わせ』って言っていましたけど――」

「あぁ、そのことか。

 本来、徴兵依頼は銅札(Cランク)以上への強制依頼(クエスト)だ。けど、想定以上の銅札(Cランク)冒険者がモビレアから逃げ出したらしくてな。銅札(Cランク)だけじゃぁ足りなくなったんだ。だから鉄札(Dランク)に声がかかったという訳だ」

「……それって、普通の事なんですか?」

「のわきゃねぇって。(いくさ)働きで稼ぎてぇってんなら、冒険者より傭兵やってるよ。だから徴兵されたくねぇって冒険者は、結構多い。

 けど、じゃぁ徴兵拒否して、その後どうする? 町を出なきゃなんなくなるが、その先は? って話になったら、大抵の冒険者は行き先がない。で、パーティメンバーを一人二人犠牲(いけにえ)にすれば、残りは安泰だ、って結論に達するんだ。

 だけど、うちのギルマスは貴族から(にら)まれているからな。ギルマスを困らせる為だけに、そういう弱腰の冒険者に対して貴族たちが声をかけた。町を出ても、自分の領内や影響力を行使出来る領でこれまでと同等の冒険者業が出来るように手を打ってやる、ってな」


「でもそれって、自分の国の戦争なのに、わざわざ戦力を低下させていることになるじゃないですか」

「その責任は、人数を(そろ)えられなかったギルマスが負うべきだ。ってのが、貴族たちの考えだろうな。それに、この戦争は仮に負けても、国が滅ぶ訳でもなければ貴族たちの所領が削られる訳でもないだろうしな」


 最悪だ。よく「眼前の有能な敵より後方の無能な味方のほうがやっかいだ」って言うけれど、完全に足を引っ張りに来ている。


「けど、どうしてギルマスは貴族から睨まれているんでしょうか?」


 武田が、当然の疑問を投げかける。


「それは、二十年前。モビレア郊外に星が()ちたときのことだ。

 あの当時、貴族たちは何かの悪事をしていたらしい。それを突き止め、是正しようと働きかけていたのが、銅札(Cランク)冒険者のマティアス。今のギルマスなんだ」


 平民、それも銅札(Cランク)の冒険者が、貴族の犯罪を糾弾(きゅうだん)する? それは、はっきり言って無謀だ。


「当然、相手にされなかった。どころか、マティアスとその一党は町を追われた。

 けれど、マティアスらは諦めず、町の人たちを動かして、貴族たちを次第に追い詰めて行ったんだ。

 そこまで来ると、貴族たちも黙ってはいられない。マティアスらを排除しようとした矢先、星が墜ちたんだ」


 星が墜ちたのは、貴族が悪事を働いていたから、精霊神が怒った。


 そう言われているのは知っていた。けど、確かにそのタイミングだと、ギルマスらを(まも)る為に星が墜ちたように思える。思ってしまえる。


「星が墜ち、貴族街と行政区を中心に町が壊滅状態になった。一般市民も多くそれに巻き込まれた。

 この混乱の中、町の治安を回復させたのは、当時の冒険者ギルド。マティアスをはじめとする一部の冒険者たちが、積極的に怪我人の収容と治療、炊き出しや寝床の確保、そして瓦礫(がれき)の撤去や警邏(けいら)活動などを行ったんだ。


 また、その混乱に乗じて、マティアスらはギルド内の、貴族に内通していた冒険者たちを一挙に処分した。それが例えば今だったら、証拠不十分で手を出せなかったような相手や銀札(Bランク)金札(Aランク)といった上位ランク冒険者、それどころかギルドの幹部職員や当時のギルドマスターさえ、混乱を利用して追放してしまったんだ。まぁ追放された職員や当時のギルマスは、その混乱の最中(さなか)何も出来ずに右往左往していた無能だったから、追放されて当然だと思われたらしいけどな。


 そして混乱が収まり、都市を再建させるという段になって、貴族が影響力を行使出来る対象が、冒険者ギルドの中にいなくなっていたという訳だ」


 天災を利用した大掃除、という訳か。思い切ったことをする。


「ちなみに、うちのギルマス。その当時は〝星の子〟なんて言う二つ名も持っていたらしいぜ」


◇◆◇ ◆◇◆


 けど、貴族がギルマスを敵視するのとは意味が違うけど、俺はギルマスに、一つ疑惑を持っている。


「それは、なんだ?」


 〔倉庫〕内のミーティングで。そのことを()らしてみた。


「色々な、時期と、人物が、重なっているように思うんだ。

 エラン先生の先輩であった冒険者〝飛び剣〟。故郷の町を離れた三年後に、戦争が起こったって話だ。

 ギルマスやプリムラさんの古い友人である〝飛び剣〟。外国からの出向で、銀札(Bランク)だったという。

 そしてモビレアに星が墜ちたのは、『(カンタレラ)戦争』の前年だ。あまりに時期が一致し過ぎている。


 そしてエラン先生は、〝飛び剣〟は『戦争の武勲で』騎士になったらしいって言っていた。

 プリムラさんは、〝飛び剣〟はフェルマールの王族を(かくま)う為に名前を変えたって言っていた。

 ギルマスは、〝魔王(サタン)〟は元フェルマールの騎士で、フェルマールの王女を妃に迎えて国を興したって言っていた」

「……つまり、〝魔王(サタン)〟の正体は、その〝飛び剣〟って冒険者、か?」


「モビレア北部の、隕石の落下孔(クレーター)。あれを最初に見たとき、連想したものがある。マーゲートにあった、〝魔王の爪痕(つめあと)〟だ」

「だとすると……」

「〝飛び剣〟は、故郷を離れた後モビレアに来て、そこでギルマスと会っている。

 モビレア貴族の悪事に関わり、ギルマスを護る為に星を墜とした。

 そして国に帰ってマキアとの戦争で活躍した」


 そう考えると、(いく)つもの謎が解ける。

 もしこの仮説が正しければ。


 ギルマスは、当然〝魔王(サタン)〟の正体を知っている!


「そうなると、ギルマスがボクらの敵か味方かもわからなくなりますね」


 そうだ。俺たちは〝魔王(サタン)〟を討つ為にここにいる、ということをギルマスは知っている。そしてギルマスが〝魔王(サタン)〟を「古い友人」と呼ぶのなら。


「ギルマスは言っていました。『(うそ)や隠し事の一つや二つ、冒険者なら持っていて当然』だって。そしてこれがギルマスの〝隠し事〟なら。

 ボクらはその意味を知る為にも、生きて帰ってくる必要がありますね」


 それだけじゃない。〝飛び剣〟は、異世界人。おそらくは、転生者。

 騎士王国の魔術師長が言っていた、「過去に出会ったことのある異世界人」の一人は、〝飛び剣〟つまり〝魔王(サタン)〟の事だろう。


 もしかしたら、それが「俺たちなら魔王に届く」という、魔術師長らの言葉の根拠だったのかもしれない。

(2,996文字:2018/01/20初稿 2018/07/18投稿予約 2018/08/27 03:00掲載予定)

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