第28話 歴史的経緯(前篇)
第06節 徴兵〔2/5〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
マキアのゲリラの背後にいるのは、〝魔王〟の国。
つまりこの出征依頼は、間接的には〝魔王〟との対峙になる、ということですか。だとしたら、確かに断ることは出来ません。
でも、それならば。
「ではギルドマスター。このゲリラたちの成り立ちや、現状に至る経緯などを聞かせていただけないでしょうか?」
何も知らずに、戦場に飛び込みたくはありません。
「それを聞いて、どうする? もしゲリラたちが正義でスイザリアが悪なら、お前たちは〔契約〕に反してでもゲリラたちの味方をするか? それとも、スイザリアに和平を働きかけたりするのか? もっとも、お前たちの言葉に耳を貸す者は、おそらくいないだろうがな」
「わかっています。おそらく何も出来ないだろうことは。
そして、何も知らずにただ命令に従うのが、一番楽だという事も理解しています。
けど、何も考えずただ言われるままに戦うのでは、それこそ奴隷と同じです。
今は何も出来ないかもしれないけれど、正義も悪も今のボクらには大き過ぎて手が出ないのかもしれないけれど、けど今自分がやっていることの意味だけは、ちゃんと知っておきたいんです」
「俺が嘘を吐くかもしれないぞ?」
「『嘘や隠し事の一つや二つ、冒険者なら持っていて当然』、なんですよね?」
それは、ボクらがこのギルドに登録出来ることになったときに、ギルマスが言った言葉です。
「ははっ、違いない」
◆◇◆ ◇◆◇
ギルドマスター・マティアスは、ユウの言葉を感慨深げに聞いていた。
彼らの歳は、今16だという。
当時のアイツは14だったはずだけど、自信過剰で傲慢なところがあった。確かに、その自信に相応しい実力と、傲慢な態度に相応しい能力があったのかもしれないけれど、その分可愛げが無かったことも事実で、一部の職人や冒険者からは蛇蝎の如く嫌われていた。
対してコイツらは、当時のアイツより歳上だけど、どうかすると同年代の他の冒険者より未熟だ。それでいながらその未熟さを自覚して、仲間同士で寄り添いながら、前に進もうと足搔いている。
そして、昨日より今日、今日より明日と、確実に成長している。
コイツらが辿る〝縁〟は、間違いなく〝アイツ〟のところに至るのだろう。なら、コイツらの求める情報は全て開示し、その上でコイツらに判断させよう。
そう、決断した。
「よくわかった。なら説明しよう。
このモビレアの近くに、〝廃都カナン〟と呼ばれる場所があるのを知っているか?」
「はい。不死魔物の跋扈する、野外型迷宮、と聞いています」
「そこは、今から七百年ほど前に滅びた『カナン帝国』の、帝都があった場所だ。帝国の崩壊とともに帝都は炎上し、現在では廃都となっている。
そして帝国が滅びた後、この大陸の西部地方には、南北に二つの大国が生まれた。北の『フェルマール王国』と、南の『リングダッド王国』だ。この二つの国は、大陸西部の覇権を賭けて戦争を始めた。
その戦場となったのは、ここ〝スイザリア地方〟だった。その為、戦乱を嫌った者たちがベスタ山脈を越えて西の海岸線に国を興した。それが『マキア王国』だ。
マキア王国は、然したる産業を持たなかった。だから、戦争を厭って独立したはずなのに、リングダッドと同盟してフェルマールと戦争したりもした。
そんな中、三国の戦争で戦場にされたこの〝スイザリア地方〟で、三国から独立した国家を作る機運が生じ、結果リングダッド王家を放逐してここモビレアを首都とする『スイザリア王国』が建国された。当然、リングダッド王国はそれを認めず、スイザリアとは終わりの無い戦争に突入することになった。
そして、マキアとフェルマールは、それぞれ口実を作ってスイザリアとリングダッドの戦争に介入して来たんだ。
フェルマールは、リングダッドに奪われ、結果スイザリア領となった『南部ベルナンド地方』の奪回の為に。
マキアは、対フェルマール戦争時に締結されたリングダッドとの同盟を理由に。
だがマキアは、その後情勢が悪化するとリングダッドとの同盟を破棄してスイザリアと講和した。もっとも、この時のマキアの振る舞いはスイザリアにとって醜悪にしか映らなかったから、スイザリアの民にとって〝マキア野郎〟という言葉は〝餓狼〟という意味にさえなっている。
そしてそのマキアはスイザリアと『対フェルマール臨時協定』を締結した。これは、スイザリアとマキアはフェルマールと戦う時に限り政治・軍事・経済、あらゆる局面で相互に協力する、というモノだ。
だが、そのマキアは独自にフェルマールと講和して、国境線を確定させた。当時まだスイザリア領だった地域も含めてな。
その後、スイザリアはフェルマールとの戦闘で大敗し、取り敢えず三国間の戦争は終結した。
ここまでが、大体四百年前からおおよそ百年間の出来事だ。何か質問は?」
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
スイザリア、リングダッド、フェルマール、マキア。四ヶ国の、複雑な歴史的背景。
ここまでのところは、マキアの振る舞いが身勝手に見えるけど、「然したる産業を持たない」小国としては仕方のない生存戦略だったのかもしれない。
そして、スイザリアに非がないように語られているのは、やっぱりギルマスもスイザリア人だから?
「否、特に」
「そうか、なら続けよう」
◆◇◆ ◇◆◇
「それから三百年間は、表向き平和な時代だった。獣人族による大規模な反乱に対してはスイザリア・マキア・フェルマールの三国が共同して立ち向かうといったこともあった。
スイザリアとリングダッドは、その後両国の王子と王女が駆け落ち騒ぎを起こしてな。アザリア教国が両国の仲裁に入るという問題に発展したんだ。で、結局二人の仲を認めるにしても、嫁入りか婿取りかでまた問題になった。どちらかがどちらかの下に着く、という事になるからな。で結局、そのどちらでもない、スイザリアの王子はスイザリア王に、リングダッドの王女はリングダッド女王になることで、二重王国体制を敷くことになったんだ。
マキアはフェルマールの最友好国と呼ばれるほどに親密な関係を築き、両国間では頻繁に人の行き来が行われた。
マキアとスイザリアの間では、小規模な武力衝突は数え切れないほどあったものの、大規模な港を有し西大陸とも交易を始めたマキアは、スイザリアにとって良好な交易相手国でもあった。
そしてスイザリアとフェルマールは、建前上仮想敵国でありながら、この三百年間一度も武力衝突もなく、代わりに民間の交流は盛んに行われていたんだ」
(2,753文字:2018/01/17初稿 2018/07/18投稿予約 2018/08/21 03:00掲載予定)
【注:今話で語られている内容については、前作『転生者は魔法学者!?』(n7789da)の第281部分の年表の通りです】




