第27話 出兵依頼
第06節 徴兵〔1/5〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
銅札への昇格試験の内容。それはつまり、騎士王国で魔術師長とエラン先生が美奈たちにやらせようとしたことと同じだと思う。
あの時みたいに、その思惑を隠したまま現場に連れて行き、自分たちの身を守る為という理由で戦い、その結果殺すことになるというのなら、(受け入れられないにしても)仕方がないと納得出来る。けど今回は、はじめから「殺すこと」が目的。しかも、「殺さずに逮捕」では駄目だって言う。
理解は出来る。ギルドマスターの言葉は正しい。むしろ〝騙し討ち〟をした魔術師長やエラン先生より余程誠実だ。けど、美奈たちは、「やりたくない」。
たとえ相手が悪人でも、殺すことを目的にその相手の下に足を運び、殺す為に武器を振るい、命乞いも逃走も許さずその命を刈り取る。そんなことはしたくない。
銅札冒険者になれないと、色々不都合が出ることも事実だけど。
けど、美奈たちは既に、それなりの〝縁〟をこの町で紡いでいる。
場合によってはモビレアの冒険者ギルドから脱退して、一時的に何処かの隊商さんの下に就職し、別の町に移って改めて冒険者登録することも出来るかもしれない。その場合また木札からやり直しになるだろうし、隊商さんにおんぶにだっこしてもらうことになっちゃうから、相応の謝礼を支払えるか、という問題も残るけど。
そうして、鉄札に留まったまま冒険者活動をしていた、196日目。
美奈たちはまた、ギルドマスターの呼び出しを受けた。
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
日を追って寒くなるけど、このモビレアの町は、日を追って戦争色が強まってきます。
あちらこちらで武装した傭兵(戦闘専門で、ギルドには所属しない冒険者)が地元の冒険者や女の子たちとトラブルを起こしたり、依頼もモビレア市近郊に拠点を作った軍施設の下働き的な内容が増えたり。また銅札以上の旅団には出兵動員の強制クエストが発令されたりもしていました。これを聞いて、この時期に昇格しなくて良かったと、胸を撫で下ろしたものです。
ちなみにこの強制クエストは、各パーティから最低2人。3人以上が出征する場合は報酬にボーナスが付くそうです。そして、その戦争の目的は、マキア地方独立を標榜するゲリラの掃討。テロリスト退治と考えると正義の味方ですけど、ボクたちはそのゲリラが跳梁する歴史的背景を知りません。
地球で例えるのなら、「アルカイダ」の掃討は世界平和の為、と思えるけど、第二次世界大戦中の東欧の「パルチザン運動」は悪に対する抵抗運動。でもこれだって、21世紀の日本だから言えること。当時の東欧では「赤軍パルチザン」は無差別テロを行い、結果それを憎み反パルチザン組織に身を投じる地元住民も少なくありませんでしたし、「アルカイダ」も100年後にはもしかしたら「悪のアメリカの支配に抗った英雄的兵団」として世界史の教科書に記載されているかもしれません。
そんなタイミングで。ボクたちはギルドマスターに呼び出されることになったのでした。
◇◆◇ 翔 ◆◇◆
「お呼びだそうですけれど、なんでしょうか?」
「うん、まぁ、言い難い話なんだが。
軍から冒険者に対する志願兵という名目の動員だが、鉄札にまで適用範囲が広がった。当然、強制依頼だ。但し、パーティ内から1人で構わない」
なんと、まぁ。俺たちにも戦争に行けって言うのか。
「拒否することは出来ませんか?」
「お前たちの場合は、二重に不可能だ。
まず、この依頼はモビレア冒険者ギルドに所属している冒険者に対してのものだ。
ギルドは国に所属し、冒険者はギルドに所属している以上、これを回避することは出来ない。
とは言っても、モビレアのギルドを脱退して別の町のギルドに転籍をする、という事で徴兵を回避することは可能だ。実際にそうしてモビレアを離れた冒険者もいる。だが、その場合ギルマスはその冒険者に対して紹介状を持たせることは出来ないから、転籍した先のギルドでは、また木札から始めざるを得ないという事になる。お前たちの場合は、その状況になったらどれだけ苦労するかはモリスの町で経験しているはずだ」
確かに。プリムラさんが善意で声をかけてくれたから、今の俺たちがある。けど、モビレアから逃げ出すという事は、その善意に報いるどころか泥を塗る行為に他ならない。そんな相手にギルマスが紹介状を持たせるなんてことは、考えられない。
「ちなみに、戦争が終わるまで身を隠して、戦争が終わった後モビレアに戻って再登録、なんていうことを目論んでも、当然ながら再登録は認められない。また、徴兵拒否の為に離籍した冒険者のことは近隣のギルドに通達されるから、別の町のギルドで登録することも難しくなるだろう。残る選択肢は、この国を出る、だ」
俺たちの場合、ギルマスの紹介状無しでモビレアを離れたら、それこそ流民とならざるを得ない。そしてその先でプリムラさんのように善意で手を差し伸べてくれる人に出会えなければ、盗賊の真似事などをして過ごさなければならなくなるんだ。
「状況はわかりました。パーティから1人以上、ですか」
「そうだ。お前たちのうち、1人で良い」
……俺たちの中から、1人だけ。でも。
「あ、あの! 全員で、ってのは、駄目ですか?」
口を開いたのは、意外にも美奈だった。
「美奈たちは、一人ひとりでは半人前です。だから、皆で一緒に行動することで、お互いの欠点を補い合っているんです。だから、一人になるのも四人になるのも、嫌です」
「そうですね。それに、ボクらが使う〔収納魔法〕は、五人一緒でないと使えません。だから、一人でも欠けたら、〔収納魔法〕を使えない、半人前以下の冒険者にしかならないんです」
美奈の言葉を、武田が補う。
「ですから。別に5人分の報酬を、なんて贅沢は言いません。五人一グループにしてほしいとか、女子が変なことをされないように最低限の保証が欲しいとか、こちらからも要求がありますから、報酬額は3人分で構いません」
「ユウ、自分から譲歩する条件を提示しない方が良いぞ。交渉の初期に自分から一歩下がったら、相手は二歩踏み込んでくるからな。
だがわかった。鉄札のお前たちまで戦場に送り込むことになるのは、ギルマスである俺の力不足が原因だ。なら、お前たちの立場を最低限守ることはしてやる。
だからお前らも、決して一人も欠けることなく戻ってこい」
「はい!」
「でもギルマス。先程『二重の意味で拒否することは不可能』とおっしゃいましたよね?
では、もう一つの拒絶出来ない意味とは?」
「マキア独立運動。それを後方で支援しているのは、『ドレイク王国』。
お前たちが〝サタン〟と呼ぶ男の国だ。
だから徴兵拒否は、お前たちの〔契約魔法〕にも反してしまうことになる」
(2,913文字:2018/01/17初稿 2018/07/18投稿予約 2018/08/19 03:00掲載予定)
・ この世界では、国境を越える為には、越境理由を明記した『手形』と、本来所属地の身分証明になる『旅券』が必要になります。冒険者にとって、それらを発行するのは、所属するギルドになり、それが無ければ流民扱いされ、関所を通過出来ません(関所外からの越境は出来ないこともない)。




