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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第二章:依頼は選んで請けましょう
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第26話 流通量の異変

第05節 予兆〔4/4〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


 商隊(キャラバン)の護衛依頼(クエスト)は、銅札(Cランク)以上の冒険者に対して発注される。

 これは冒険者ギルドのルールだが、実はこれには抜け道がある。

 商隊の、馬丁(ばてい)(馬の世話をする係)やその行程中の野営地の設営の為の人手(ひとで)、或いは馬車に()り切らない分の輸送といったクエストは、鉄札(Dランク)のクエストとして発注出来るのだ。そして、「商隊と同行している鉄札(Dランク)冒険者が、商隊が襲撃された時、剣を(もっ)て立ち向かう」ことは、冒険者ギルドのルールでは禁じられていない。勿論(もちろん)、戦闘しなかったとか、戦闘時に於いて期待した働きぶりを示さなかったという事になったとしても、それを理由に報酬を減額することは許されないが(逆に戦闘で活躍したという理由で加算することは認められている)。

 これは、商人側にとっては将来有望な冒険者と鉄札(Dランク)のうちから〝縁〟を繋いでおくというメリットがあり(当然銅札(Cランク)のクエストより鉄札(Dランク)のクエストの方が報酬が安いというのも理由の一つ。ただそういう事情だから、この場合常に指名依頼扱いとなる)、冒険者側にとっては将来のお得意様になるかもしれない依頼主(クライアント)と早いうちから〝縁〟を(つむ)いでおくというメリットがあり、それゆえギルドとしては(表立っては否定しているものの)裏では実は奨励している、という特殊なクエストになっている。


 さて。今回俺たちが受注したクエストは。

 数日後に、隣町のアルバニーに到着する商隊にある書状を届ける、というモノだ。帰りは商隊に同行してモビレアまで戻る。その間の野営や糧食は商隊から提供されるという破格(笑)の物だった。……万一復路で盗賊等の襲撃があった場合、そしてそれの撃退に俺たちが一役買ったとしても、それは俺たちが「勝手にやったこと」だから報酬は出ない。一方で只飯(ただめし)()らいで働かなかったら、他の商人やその使用人たちから白い目で見られることは明らか。つまり、「復路は食事と寝床を報酬に、護衛に一役買ってくれ」という依頼だという事が出来る。

 はっきり言って、報酬の額と仕事の内容(明記されていない分を含む)を天秤にかけると、間違いなく割に合わない。けど、これを請けておけば、将来銅札(Cランク)に昇格した時、信頼出来る得意先が一件見つかるともいえる。

 将来への先行投資と考え、俺たちはこのクエストを受注することにした。


◇◆◇ ◆◇◆


 アルバニーまでは、騎乗して二日。なら別に、強行軍で突っ走る必要はない。

 普通に走り、夜は野営し(その時遭遇した野獣(しょくざい)は遠慮なく頂戴して)。


 そしてアルバニーで商隊と合流し、その商隊を率いる隊商(トレーダー)に書状を届け。

 この先は、商隊と同行してモビレアに帰るだけ。何事もなければ、呑気(のんき)なだけのクエストだった。

 けど、そこにキナ臭さを感じたのは、意外にも武田だった。


「変、ですね。この商隊が運んでいるのは、鉄器(ぶき)の他に穀物と干し肉、言い換えれば、〝兵糧(ひょうろう)〟です。穀物は、基本西から東へと流れるのが主流のはず。にもかかわらず、この穀物は東から西に向かっています」


「そう言えば、西からモビレアに入る穀物の量が随分(ずいぶん)少なくなっているな」


 そう答えたのは、(いま)木札(Eランク)の荷運びのクエストを時々受注する、柏木だった。


「西から入るのが穀物の通常の流通ルートだったのに、西からが止まり東から流入する。普通に考えれば、西で何かが起こって流通に支障を来した、だな。

 だけど、東から西に向かって鉄器(ぶき)が流通する。これを考えると、かなりキナ臭い想像が出来る」

「でも、それだけじゃぁ足りません。もし、想像の通りだとしたら、〝ヒト〟がまだ動いていません」

「それはどうかな。先日の、モリスへ届けた文書。それが、〝ヒト〟の動きを(うなが)すものかもしれない。鉄器(ぶき)の、当面の届け先はどこになっている?」

「全てモビレアで荷卸しされます。常識で考えて、モビレアの月間需要の数倍です」


 流通が、通常と違う動きをする。鉄器(ぶき)と穀物と人間が、一箇所に集まる。

 これは、とある状況が勃発する予兆であるともいえる。


 それは、戦争(いくさ)のはじまり。


 現状の動きの起点は、モビレア。つまり、モビレアが戦争に巻き込まれるか、それとも後方支援拠点となるかという事だ。そしてモビレア公爵領が隣接している国境は、北のフェルマールのみ。だが、フェルマールは20年近く前に滅亡し、今は旧フェルマール貴族による群雄割拠の戦国時代になっていると言われている。なら、それが脅威になるとは思えない。


 ここで着目すべきは、これまで西から届いていた穀物が、届かなくなった点。

 北のローズヴェルト王国からの輸入のはずだが、ローズヴェルト王国に何かが起こったのなら、商業的にはともかく軍事的・政治的には公敵な訳だから、国としても何らかの動きがあるはず。しかしそれは無い。

 では、その中途の街道で、無視し得ぬ武装集団により、通商破壊が行われたとしたら?


 この場合、考えられるのは西のマキア港或いはベスタ(とうげ)。このどちらかを敵対勢力によって抑えられ、それにより西からの流通が止まったと考えるのなら。モビレアを後方支援拠点として、マキア奪回の動きを準備するというのは別に穿(うが)ちすぎとも言えないだろう。


◇◆◇ ◆◇◆


 表面上は何事もなく終わったこのクエスト。そしてそれに伴い俺たちは、銅札(Cランク)への昇格試験を受験する資格を得ることになった。


「で、お前らは銅札(Cランク)への昇格を希望するかね?」

「はい、希望します」

「では、昇格試験の概要を説明しよう。説明を聞いた後、受験を辞退するのはお前らの自由だ」

「わかりました」

「この町のすぐ北。セムスの村のすぐ近くに、犯罪組織『惡神(ザコルス)の使徒』の拠点(アジト)がある。ここを攻め、その構成員全員を殺害せしむること。それが今回の依頼内容になる」

「……無力化して、モビレアに連行する、というのではいけないのですか?」

「全員殺害。それが条件だ。

 銅札(Cランク)となると、敵を殺さなければならない状況に必ず遭遇する。


 人を殺す。それは、人間にとってとてもつらいことだ。特に、手を(くだ)す側が善人なら。

 だが、お前たちが人殺しを躊躇(ためら)った挙句にお前たちが守るべき人が殺されたら、それは間違いなくお前たちの責任だし、お前たちがその手を汚すべき案件で、お前たちが守るべき、無垢なる市民が手を汚さざるを得なくなるのなら、それもまたお前たちの罪だ。

 だから、俺はギルドマスターとして、お前たちに必要に応じて罪を犯す覚悟があるか、その呵責(かしゃく)を生涯背負える覚悟があるかを試さなければならない。

 それが、銅札(Cランク)への昇格試験の本質となる」


 納得は出来た。理解もした。けど。

 俺たちは、それを受け入れられない。だから。


 俺たちは、昇格試験を辞退することにした。

(2,928文字:2018/01/16初稿 2018/07/18投稿予約 2018/08/17 03:00掲載予定)

・ (前作既読の方へ):ここでいう「犯罪組織『惡神(ザコルス)の使徒』」は、前作第三章に登場した『悪神(ザコルス)の使徒』とは別物です。いうなれば、「自称後継者」、パチモンです。

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