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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第二章:依頼は選んで請けましょう
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第23話 昇格

第05節 予兆〔1/4〕

◇◆◇ 雄二 ◆◇◆


 ボクたちがこの世界に来てから152日目(冒険者活動を始めてから、44日目)。

 ボクたちの冒険者ランクが、木札(Eランク)から鉄札(Dランク)に昇格しました。


 鉄札(Dランク)依頼(クエスト)は、町の外での活動が中心になります。国境を越えることは出来ませんし、基本的に同一領内に限るとされていますが、隣接する領への遠征くらいは普通にあります。

 とはいっても、町の中での仕事が無い訳ではないですし、それ以前に木札(Eランク)のクエストで縁を(つむ)いだ依頼主(クライアント)との交流は続いています。

 髙月さんは時間を見つけては孤児院に遊びに行き、お土産を持参したり読み書きや縫製(ほうせい)技術を教えたり一緒に遊んだり、逆に薬草の保存や下処理について勉強させてもらったりしています。

 飯塚くんも、引っ越し手伝いのクエストで知り合った革職人のオットーさん一家と交流を続けており、子供たちに読み書き等を教える(かたわ)らオットーさんの技術を盗ませてもらったりしているようです。


 松村さんは、今では宿『青い鈴』の食堂の、非常勤のバーテンダー。ギルドを介さぬ直接契約で、宿から賃金を受け取りお客さんにカクテルを作ってあげたりお酒の飲み方を指導したりしています。

 ちなみに、冒険者に対してギルドを介在させずに依頼することは、別に禁止されていません。ただその場合、契約(報酬や条件等)でトラブルになったとしても、ギルドは仲裁しませんけれど。

 それが、商人などから直接請ける「依頼」と、ギルドを介する「依頼(クエスト)」の違いです。クエストは、複雑な契約内容を分解・平準化し、報酬などの条件を定型化することで、読み書きが出来なかったり商取引のルールを(わきま)えていなかったりする冒険者でも仕事を請けられるようにしたものなのです。それが直接依頼であれば、その契約内容が実は巧妙に偽装された〔奴隷契約〕であったとしても、冒険者側がそれに気付かず契約が成立してしまう危惧(おそれ)がありますが、ギルドを介したクエストであれば初めからその条件は排除されるのです。


 さて、鉄札(Dランク)になると、クエストの難易度は上がります。町の外での活動、という事は、つまり「法施行地外」での行動という事になりますから、法に頼らず身を守れなければ話は始まりません。索敵と防禦(ぼうぎょ)、つまり「戦闘」。「銅札(Cランク)への昇格の条件は、その戦闘力に対する信頼性」だとギルマスは語っていました。24時間野外に身を置くことで、()り切れる緊張の糸。それでもなお戦闘力を維持出来るかが、銅札(Cランク)に昇格出来るかを測る基準なのでしょう。

 ただ、その分クエストごとの報酬は木札(Eランク)の数倍。数日間野外活動したら、木札(Eランク)時代のおおよそひと月分の報酬に相当する報酬を得ることが出来るのです。これは当然、丸腰でもクエストを達成出来る木札(Eランク)時代とは違い、消耗・摩耗する武装・道具・糧食の補修・強化・補充に充てる代金にもなるのですが。


◇◆◇ ◆◇◆


「こりゃぁ、そろそろ買い替えを検討した方が良いな」


 ある日。ボクたちは自分たちの武器を鍛冶師の(もと)に持ち込み、()ぎ直しなどの補修(メンテナンス)をしてもらいました。


「そんなに(まず)いですか?」

「あぁ。そもそもこの鉄の質が良くない。これじゃぁ砥げば砥ぐほどボロボロになる。

 それに、砥ぎ方もなっていない。お嬢ちゃん、包丁を砥いだことはあっても剣を砥いだことはないんじゃないか?」


 まず見せたのは、松村さんの大刀。けれど、遠からず折れると宣告されて、松村さんはちょっと(へこ)んでいます。


「この鉄の場合、下手に砥ぎ直すくらいなら、一回一回火にくべて打ち直した方が早いくらいなんだ。武具の素材と考えるなら、兵の数を(そろ)える為みたいな、質より量、という時にしか使えない。さもなくば、初心者の練習用、か?」


 もしかしたら。王国は、ボクたちの船出の前に新しい武具を渡してくれるつもりだったのかもしれません。


「そっちの槍と(ハンマー)もだ。槍は大して使っていないようだが、槌は結構乱暴に使っているな? 目釘がガタガタだ。ただまぁ、こっちは刃物じゃないから砥ぎ直しの必要はない分、費用は大して掛からないがね」


 それは逆を言うと、松村さんの大刀の補修は、結構高くつくという事。


「こっちは、打ち直しの必要がある。(いや)、この粗悪な鉄では遠からずまた同じ事になるから、新しく買い替えた方が良い。出来ればA・スチール製のものを(すす)めるが、アレは高いから、その辺りは相談に乗れるぞ」

「A・スチールってのは?」

「今はもう()い、北のハティスって街で作られた鉄だ。フェルマールが健在だった時代は、モビレアの鉄の多くがハティスからの輸入物だったんだが、その末期に開発されたその鉄は、それまでの鉄を(はる)かに凌駕(りょうが)する品質を誇っていた。

 そのハティスが燃え落ち、フェルマールが滅びた後、ハティスの鍛冶師から技術を伝えられた少数の職人がモビレアでA・スチールを打っている。けど職人の数が足りないからな。どうしても品薄になってしまうんだ」


 いくら鉄札(Dランク)になって財布に余裕が出来てきたと言っても、まだそんな高級品を買うだけのお金は……、あ。


「では、これに使われる鉄を()かして大刀の(やいば)にすることは出来ますか?」


 と、エラン先生が使っていた〝ゴブリンドロップ〟の長剣を出したのですが。


「……おい、こりゃぁ、神聖鉄(ヒヒイロカネ)合金か? スマンがこいつは俺の手に負えねぇ。王都の鍛冶師ギルドのグランドマスタークラスでないと、熔かすことも出来ないな」


 ……なんてこった。こっちは質が良すぎて手を出せない、なんて。両極端過ぎて笑いがこみ上げてくる。

 とはいえ。王国の宝物庫から失敬(しっけい)した財物を処分すれば、必要な資金を調達出来るけど、このあたりはもう少し考える必要がありそうです。


「松村は、オレたちの決戦兵器なんだから、その戦力の維持と強化は必須だよな」

「だが、飯塚や武田の武装を(おろ)かにしていいってことでもない。先日のイノシシの時のように、あたしたちの近接攻撃力を最大に活かしたいと思ったら、どうしても飯塚が正面を(ヘイトを)受け持つ(とる)必要が出てくる。なら、そのシーンでの飯塚は甲冑スート・オブ・アーマーを着込むべきだろう。

 それに柏木、お前もだ。敵中に単身突撃して長柄(ポール)戦槌(ハンマー)を振り回すお前のスタイルを考えたら、お前の防御力の増強も急務だ。

 いくら〔亜空間倉庫〕があるからって、怪我(けが)をしても構わない訳じゃない。優先順位を考えたら、(よろい)からだろう」


 攻撃力を強化して、交戦時間の短縮を求めるか、それとも防御力を強化して、継戦(けいせん)能力を高めるか。これは実戦・ゲームを問わず、悩みどころです。


(2,891文字:2018/01/15初稿 2018/07/18投稿予約 2018/08/11 03:00掲載予定)

・ 「A・スチール」は、その発案者の名前を取って付けられています。

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