第22話 野外クエスト
第04節 Eランクのクエスト〔6/6〕
◇◆◇ 宏 ◆◇◆
今回オレたちが行う依頼は、害獣駆除と薬草摘み。どちらも町の外に出て行うクエストだ。
とはいっても、実はどちらも常設依頼。一日の納品数上限はあるけど、期間指定の「ねばならぬ」クエストではない。
この都市で流通する食用獣は、まがりなりにも牧畜を行っており、必要量の調達は可能だ。けど、それだけでは万一の時に不安が残る為、ヤマイヌやオオカミ、クマ、ヤギ、シカ、ブタ(イノシシ)などを間引きついでに納品することが求められるのだ。
だから「害獣」の〝駆除〟と「食用肉」の〝納品〟は、同じ動物であっても別クエスト扱いされる。勿論それは、〔収納魔法〕の容量の問題でもあり、間引きを専門にする冒険者はその討伐証明部位のみギルドに提出し、食肉の納品を専門にする冒険者は一頭二頭をチームで運んで納品する。冒険者同士で融通し合うのも良くある話。なお、皮や爪の納品がクエストとして提示されることもあり、その場合は一頭で〝害獣駆除〟〝食肉納品〟〝素材納品〟と三つのクエストを消化出来るという事になる。
一方薬草類。こちらも特殊な魔力草類を例外として、常にクエストが提示されている。薬草類も納品数上限はあるものの、一日の上限に達することはほとんどないという。一方魔力草類は時々期間限定のクエストとして提示されるものの、これは期限を超過しても基本大したペナルティーにはならない。期限内に必ず発見・収集出来るなら、逆に冒険者にクエストを提示する必要が無いからだ。そして魔力草類もクエストが提示されていなくても納品は受け付けてもらえる。当然その分安くなるが。
ただ、薬草類は状態の保存が面倒だとも言われる。日本でも、「桜伐る莫迦、梅伐らぬ莫迦」とも言い、同じような樹であってもこまめに剪定した方が良い樹と自然に折れるに任せた方が良い樹、剪定をするにもその時期と方法を選ばなければいけない樹があるように、薬草類もただ毟ってくればいいという訳ではない。根っこから掘り出す必要のあるモノもあれば、葉っぱだけで良い物もある。必要なのは花弁だけだけど保存の為に茎から取る必要のあるモノもあるし、必要なのは種子だけ、というモノもある。取った後で、そのまま枯れさせることで薬効を保存出来るモノもあれば、ドライフラワーにした方が良いモノもある。当然可能な限り自然のままの状態にしておいた方が良いモノもあり、注意が必要だ。
そして知識があれば、そこから更に下処理が求められる場合もある。刃物で刻むモノ、逆に手で千切る方が良いモノもある(玉ねぎは千切ると目に染みる。大根は切っても辛くならない)。或いは茹でた後、干したモノを使うとか。下処理をすれば、納品価格(と評価点)に加算されるが、処理の仕方を間違えた場合収集失敗と看做される。間違った処理をされた薬草など、ゴミにしかならないから。だから多くの冒険者は、下処理はしないで納品する。
けど、オレたちは髙月が孤児院で、出入りの薬草業者から幾つかの薬草の下処理の仕方を学んでいた。だから積極的に下処理をしてから納品する方針だ。ちなみに、下処理に特殊な道具を必要とするものは、孤児院に使用料を支払って借りて行う予定。
◇◆◇ ◆◇◆
〔亜空間倉庫〕内で睡眠を取れ、外界では24時間活動出来るオレたちにとって、野外活動は真骨頂。特に多くの動物は夜行性だから、深夜帯の方が遭遇率が上がる。
動物の狩猟の場合、罠猟か遭遇を期待するかに分かれる。罠猟は安全だが時間がかかり、そもそもオレたちのような素人の罠は見破られる危惧もある。遭遇はそもそも遭遇するかどうかが不明で、その上反撃される危惧もある。どちらも不確定要素はあるが、オレたちは遭遇戦を前提に計画を立てている。
狩猟の為の武器としては、飯塚の戦闘投網と弩、武田の投石紐と微塵、そして松村の大弓だ。オレは狩猟に使える武器はないので近接防禦、髙月は戦力外で索敵と薬草採取に専念する。と書くと髙月は役立たずのようにも思えるが、実は一番忙しい。その目は薬草を探し、同時に〔泡〕で周辺を警戒しているのだから。そして。
「〝1〟〝0〟」
敵影捕捉の1と〔倉庫〕開扉の0。
「2時の方角。あのサイズはウサギかな? 2羽いるよ。タイミングを合わせられればショウくんのレーテで文字通り一網打尽かな?」
「おっけ。どっちに向かっている?」
「ウサギたちは進路を6時に向けているから、こっちから見て3時の方角を通過するね」
「了解。あとは俺の〔泡〕でタイミングを計る」
手順を確認してから、外に戻り、そして。
「――よっしゃ! 獲ったど~!」
見事にウサギを2羽ゲット。
けど、実はレーテは陸上の狩りには不向きだという事が、今回のクエストで明らかになった。というのは、モーションが大きい割に投擲速度が遅いので、網が広がる速さを獲物の脱出速度が上回り、あっさり逃げられてしまうのだ。今回のように、獲物が方向転換する前に網が広がれば、〔帯電〕で電気ダメージを上乗せして捕らえる事が出来るのだが。
一方、武田の微塵は、小型獣相手だと威力があり過ぎる。まして電気ダメージを上乗せすると、大型獣でも一撃でほぼ致命傷。クマ相手に、微塵でダメージを与え、飯塚の槍で止めを刺して仕留めることさえ出来た。ただイノシシ相手のとき、微塵は弾かれてしまった為、槍の穂先に微塵を繋ぎ、連接棍として使用することになったが。ちなみに対イノシシ戦では、飯塚がレニガードを構えて正面を受け持ち、左右から俺と武田がそれぞれ長柄戦槌と微塵で殴り、松村の大刀で止めを刺した。何度か〔倉庫〕を開き、怪我の治療をしながらの長期戦になった。一度は飯塚の腹から腸がはみ出るほどの大ダメージを受け、あわやというシーンもあったけど。
シカやヤギは、飯塚のクロスボウと松村の大弓。ただ、二人の射撃は対照的だった。
飯塚は、自分の気配を殺す。そして機械のように無機質に、標的を射抜く。だからこそ、夜間に〔泡〕を使った照準、が本領だった。
対して松村は、気配を自然に同化させる。大木がそこにあっても誰も気にしないように、昼間であっても堂々とその身を晒し、弓を引く。標的は松村に気付いているはずなのに、脅威に曝されていることに気付かない。それこそ、矢が自身の眉間を射抜くまで。
多分これが、「弓道」という武道の行き着く果て。「弓道は精神修行のスポーツだから、実戦には使えない」などと言われているけど、殺気も妄執もなく、執着でも欲望でもなく、自然と一体になって〝生命を戴く〟。
丸四日間。俺たちは野外活動をしていたのだが、その猟果はプリムラさんを呆れさせるほどの量となった。なお、一部の大型獣と薬草はまだ納品していない。大型獣は鉄札のクエストだし、一部の薬草等は〔倉庫〕内で下処理をしている最中だから。
(2,971文字:2018/01/13初稿 2018/07/18投稿予約 2018/08/09 03:00掲載予定)
【注:「獲ったど~」の原典は、お笑い芸人・濱口優氏のキメ台詞です】
・ 例えば菊などを活けるときは、ハサミで切るのではなく水の中で手で折る方が(繊維が解れ、よく水を吸うので)長持ちすると言われます。また桜の剪定は、葉が落ちた直後、防腐剤を塗りながら丁寧に伐らないとあっという間に幹が腐ってしまいます。植物は、それぞれに適した処理の仕方があるのです。




