第17話 商隊の荷運び
第04節 Eランクのクエスト〔1/6〕
◇◆◇ 宏 ◆◇◆
松村に〝大弓使い〟という二つ名が与えられた翌日から。
オレたちは、木札冒険者としての活動を開始した。
とはいっても、木札の報酬は高が知れている。一日働いて、漸く一日分の宿代と食事代を賄える程度だ。オレたちの場合は宿を一部屋しか借りていないことから少しは節約になるが、それでも誰かがサボったら、その分蓄えを食い潰すことになる。柘榴獣石などを換金した結果それなりに余裕が出来ているとはいえ、遊んで暮らせるほどの余裕がある訳ではないのだから。
そういったことから、まずオレたちは請けられる依頼を整理した。すなわち、町中のクエストと町の外に出るクエスト、〔収納魔法〕を必要としないクエストと必要とするクエストに、だ。
町中のクエストで〔収納魔法〕を必要とするのは、鉱物資源等を集積場から処理場へ輸送するクエストなど。町の外で〔収納魔法〕を必要とするクエストは、食用獣の狩りなど。
逆に、町中での「引越しの手伝い」のようなクエストの場合、〔収納魔法〕を活用すればかなり楽にはなるが、別に大八車で出来ないこともない。また町の外でも「薬草収集」などのクエストなら、そもそも〔収納魔法〕を必要とするほどの量にはならない。
だから、基本町中で〔収納魔法〕を必要としないクエストは、五人全員バラバラに受注し、反対に〔収納魔法〕を必要とするクエスト、或いは町の外に出なければならないクエストは複数同時受注して、五人全員で一気に処理する、という方法を採ることにした。
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今日、オレが受注したクエストは、荷運びだ。大規模な商隊が到着し、その積み荷を馬車から集積地に、集積地から各業者の馬車にと運ばなければならない。
そして大規模な商隊の積み荷となると、特定の商品に偏らない。だから大きな荷物と小さな荷物、軽い荷物と重い荷物、乱暴に扱って構わない荷物と繊細に扱わなければならない荷物が混在し、結構神経を使う。なら一括して丁寧に扱おうと考えると、無駄な手間をかけるなと叱られる。乱暴に扱って構わない物は、投げて転がせば時間を省略出来、その分多くの荷物を扱えるという事だ。
また同じ荷物でも複数の業者に引き取ってもらわなければならない物や一括して特定の業者に預ける物、或いはその商隊を率いる隊商の倉庫に仕舞う物と様々だ。こうなると、一つ一つ指示を仰ぐしかないが、何度も聞きに行けば監督の迷惑になる。だから、一発で憶えるのが一番だが、記憶違いでミスをすればまた困ったことになる。結論を言えば、最適解はメモを取る、だ。
この世界では、未だ紙は高価で、識字率も高くない。商人たちにとっては必須技能だから文字も書けるし計算も出来る。メシのタネだから紙とペン、或いは石板と石筆を持ち歩いている。けど、冒険者で字が書けるのはそんなに多くないし、ましてや使い捨て前提でメモ紙を持ち歩いている冒険者など、まずいない。
オレも、日本ではメモやノートなんかはほとんどとらず、だから試験前には武田や飯塚からノートを借りて写していた。けど、指示の内容を一発で憶える自信がない以上、片っ端からメモを取るしか活路は無い。
「おいそこの冒険者。その荷物はそっちじゃないだろう?」
「否、先程マーシーさんが一つはこっちに持って行けって言ってました」
「言ってたか?」
「はい。確認しますか?」
「そうだな」
時々イレギュラーな指示が出ると、記憶だけでは追い付かない。またメモも間違えてる可能性がある以上、他の人工の理解と異なった場合は、面倒でも確認を取る必要がある。
「マーシーさん。確認させてください」
「あぁ? 指示はさっき出しただろう。聞いてなかったのか?」
「聞いていましたが、聞き間違った可能性があります。間違ったまま違う場所に運んでしまうくらいなら、ご迷惑でも再確認させていただきたいと思ってお尋ねしています。この荷物ですが、一つはこっちに運んで構わないんですよね?」
「そうだ。一つはそっちだ。同じことを何度も言わすな」
「有り難うございます。お手数をお掛けして申し訳ありませんでした」
「ヒロ、だったな。指示を一度で把握出来なかった件については、減点するぞ」
「はい、構いません。では失礼します」
どうやらメモに間違いはなかったようだ。
「悪かったな。俺が聞き逃していたようだ。その所為でお前の評価が下がっちまったな」
「否、間違ったまま運び終え、あとで問題になって減点されるよりよっぽどマシです。この程度気にしないでください」
それにしても、指示が細かい。けど、これだけ細かいと、〔収納魔法〕を使ってもあまり役に立ちそうにない。〔収納魔法〕で物を仕舞っても、歩き回る(走り回る)距離が縮む訳ではないし、物の上げ下げをする回数が減る訳でもないのだから。
とはいえある程度慣れてくると、荷物の内容とその行き先を気にする余裕も出来てくる。
ここの荷物は、北のローズヴェルト王国から海路を通じて東のマキア港に陸揚げされた物がほとんどらしい。ローズヴェルト王国とスイザリア王国は、あまり仲が良いとは言えず、最近までは頻繁に局地的な戦闘が行われていたらしい。ローズヴェルト王国は〝魔王〟の国と友好関係にあるらしく、善神を奉じるアザリア教国と友好的な関係にあるスイザリアにとっては不倶戴天と呼べる関係にあるようだ。けど、穀物生産量はスイザリアの三倍以上で、そのことからも民間に於ける交易は無視出来ない量になっているのだそうだ。
今回の物資も、穀物が多く、その大半は南部の教国方面へと輸送されるらしい。
ちなみに、スイザリアとアザリア教国の間には湿地帯があったのだという。但し、水も空気も腐っており、開墾することは出来なかった。けれど、数年前にその湿地帯が文字通り消滅し、更地になったのだそうだ。その地には複数の〝星〟が墜ち、また幾筋もの稲妻が地を穿ち、まるで〝善神〟と〝悪神〟がその地で争ったかのようだと言われているのだそうだ。
その為、更地となり、農耕地として最適な環境になったにもかかわらず、教国はその地を開拓することはおろか通過することも許さず、聖地として認定する動きがあるのだとか。
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閑話休題。
そうこうしているうちに、オレの仕事は終了した。そのクエスト完了通知には、減点評価はされていなかった。
また、オレの書いたメモは、その後武田が整理し、この地方の物資の流通を把握する一助になったようだ。
(2,602文字《2020年07月以降の文字数カウントルールで再カウント》:2018/01/07初稿 2018/07/18投稿予約 2018/07/30 03:00掲載 2021/02/18誤字修正)
・ 前作を読まれた読者の為に:今、カナン暦723年の秋の三の月です。
・ この世界では、「星が落ちること(隕石の落下)」はそう頻繁に起こることではありません。ましてや一地方に、同時に複数の隕石が落下するなど、常識で考えてもあり得ません。なお、〝魔王〟が自分の国の中で呼ばれる二つ名の中には、〝星落し〟というのもありますが、……きっと、無関係ですね。スイザリアで一般には知られていない二つ名ですし。




