第04話 縁を辿って
第02節 異世界言語と魔法〔1/7〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
そして美奈たちは、衛兵さんに連れられて魔術師長さんのところにやってきたの。それは、美奈たちがこの世界に来た時にその場にいた、初老のおじいさんだったよ。
「漸く話が出来るようになったみたいだね。まずはお礼を言わせてもらおう。よく召喚に応じてくれた」
え? 美奈たちは、「美奈たちの意思で召喚に応じた」の?
「あたしたちがこの世界に転移されるのに、あたしたちの意思は介在していなかったはずですが」
代表して返事をしたのは、おシズさん。美奈たちがそれぞれバラバラに口を開くと、収拾がつかなくなるかもしれないからって、おシズさんに代表してもらうことにしたの。
「そうではない。私が使った召喚術式は、〔縁辿〕と名付けられている。キミたちは、私の召喚に応じるに足る〝縁〟を持っていた。だから今、ここにいる。ここにいるキミたちは、偶然呼ばれたのでもなければ、巻き込まれた訳でもない、という事だ」
美奈たちが、呼ばれた〝縁〟。美奈たちは、それを辿って、この世界にやって来た?
「だから、礼を言わせてもらいたい。まさか五人も、私の召喚に応じてくれるとは思わなかった」
「あたしたちが縁を辿って召喚された、という事はわかりました。正直、その〝縁〟に心当たりはありませんが、そもそも〝縁〟などというものは、目に見えるモノではありませんからね。あたしたちの中に、その宿縁があったというのであれば、時が来たら自ずから知ることになるでしょう。
けれど、それはそれとして、魔術師長殿、貴方があたしたちを召喚したのは、あたしたちのその〝縁〟を辿らせる為、ではありませんよね?」
「そうだな。私たちにも目的があり、その目的とキミたちの〝縁〟に深い関わりがあったから、キミたちが召喚された。キミたちなら必ず〝魔王〟を斃してくれると信じている」
あれ? 今魔術師長さんが〝魔王〟って言った時、一瞬言葉にノイズみたいのが走ったような気がする。どういうこと?
「魔王を斃す。それが目的だというのなら、やはり人選ミスと言わざるを得ません。
見ての通り、あたしたちはどこにでもいる普通の子供です。戦いになど、出たこともないですし、魔法も使えません。ご期待に沿えることは不可能だと思われますが」
「確かに。しかし、異世界人は、魔力に適応し易いのだ。
魔王は稲妻の雨を降らせ、竜をも従える。なら、剣を振り回しても魔王に届くとは思えない。だからこそ、キミたちに助力を請うのだ」
稲妻の雨を降らせ、ドラゴンを従える魔王に立ち向かう? そんなの怖過ぎる。
「そんな魔王に、異世界人なら勝てるとどうしてわかりますか? 『異世界人は魔力に適応し易い』。その言葉の根拠は?」
「実体験だ。私は過去、キミたちの世界から来た人間を二人知っている。二人とも、凄まじい魔力の持ち主で、この国最高を謳われる魔術師であるこの私でさえ真似の出来ない魔法を幾つも使って見せた。
その二人が、キミたちの様に同時にこの世界に来て、共に学んだというのであれば、その二人が特殊な事例である可能性もあるだろう。しかし、二人は全く別の地に降り立ち、偶然この国に集った。なら、その二人が特別だったのではなく、キミたちの世界そのものが力を持っている、と考えるべきだろう」
「でしたら、そのお二人に助力を願えば良かったのではないですか?」
「残念ながら、二人とも既に元の世界に戻っている。だからそれは、無理な話だ」
この世界に呼ばれ、使命を果たし、そして地球に還った人がいる。それは、美奈たちにとっては朗報、かな?
「……お話はわかりました。けど、今この場で答えを出すには、色々と混乱しています。
一旦部屋に戻って、話し合ってから結論を出すという事で宜しいでしょうか?」
「そんなに焦ることはない。キミたちには、まずこの世界で生きる術を学んでもらう。
具体的には、魔法と剣の使い方、そしてこの世界の一般的な知識だ。
その上で、答えを聞かせてくれればいい」
美奈たちの返事を聞く前に、魔法について教えてくれるって言ってる。もしかしたらこの魔術師長さんって、善い人?
「有り難うございます。お話は前向きに検討させていただきます」
「うむ。
では早速だが、魔法の手解きをさせてもらうことにしよう」
◇◆◇ ◆◇◆
異世界と言ったら、やっぱり魔法。美奈だって、ショウくんの読むライトノベルを読ませてもらってるから。興味がないと言ったら嘘になるよ。
でも、魔法を学ぶって、呪文を暗記したり魔力を認識して操作する練習したりするんでしょう? いきなりこの場で始めて良いの?
「高度な魔法は、当然それなりに修業が必要になる。しかし基本となる【生活魔法】や、基礎である【無属性魔法】なら、誰でも使い熟せる。それも、当たり前にだ。
しかしキミたちは、少し前まで魔法が存在しない世界で暮らしていた。『誰でも』『当たり前に』使える魔法であっても、キミたちにとっては未知なるものだろう。
だから、まずは概要からの説明になる。
この世界の魔法は、火水風土の四大精霊神が齎したものだ。
精霊神殿の創世神話には、こう記されている。
《 この世界に精霊神たちが降り立つ前、世界は混沌の中にあった。
それを見兼ねた精霊神たちが世界に降り立ち、この世に秩序と安寧を齎した。 》
と。
この、精霊神様たちの齎した〝秩序〟こそが、魔法だ。
だから、精霊神様たちの秩序から外れた魔法は、〔無属性〕と呼ばれる。
しかし、その秩序を学ぶ為には、それぞれの属性の精霊神様からの加護を得なければならない。けれど、加護を得る為にはそれぞれの精霊神様のことを知る必要があると言われる。深く知る者ほど、大きな加護が得られる、と。また、得られる加護は、最も深く理解している一柱に限る。
ただ、その加護を得るのは、10の歳になる正月と決まっている。
だから、実を言えばキミたちが精霊神の加護を得られるかどうかは、何とも言えないだろう」
……つまり、魔法の勉強はさせるけど、使えるようになるかはわからない、ってこと?
「それでも、異世界人であるキミたちなら、10の歳を超えた今から学び始めても加護を得られると、私は確信している。
だからその為にも、この世界の誰もが使える【生活魔法】を身に付けてほしい」
生活魔法は、〔亜空間収納〕、治癒、解毒、回復、神聖魔法、着火魔法、などがあるみたい。って、あれ?
「着火魔法って、火属性じゃないの?」
つい、声が出ちゃった。
「火属性の魔法が生み出す炎は、邪悪なモノのみを焼く聖なる炎。火属性の魔法で薪に火を熾すことは出来ぬよ」
それは、何か不思議。
そして美奈たちは、生活魔法についてもう少し話を聞いた後で、部屋に戻ることにしたんです。
(2,887文字:2017/11/26初稿 2018/03/01投稿予約 2018/04/07 03:00掲載 2018/06/09誤字修正byぺったん)
*「ぺったん」は、ゆき様作成の誤字脱字報告&修正パッチサイト『誤字ぺったん』(https://gojipettan.com/)により指摘されたモノです。