第11話 冒険者のルール
第02節 冒険者登録〔7/7〕
◇◆◇ 翔 ◆◇◆
依頼に失敗したら、罰課金が課せられる。
負傷による失敗の場合、その治療費も罰課金に上乗せされ、自力での帰還が難しい場合、銅札以上のクエストとして救助のクエストが発注される。場合によっては、救助された後で。
これらの費用は、ギルド側に瑕疵がある場合は一部減額の対象になる(仮令全面的にギルドの事前調査不足が原因でも、全額ギルド負担にはならない。つまり、ギルド側の提示する情報の精度をどの程度信頼するかは冒険者自身の判断という事)。
そして、これらの負債の支払いに関し、一般の冒険者なら〔契約魔法〕で支払いを担保することで、支払いの猶予を受けられる。けど、俺たちの場合は、騎士王国との〔契約〕がある為、ギルドとの〔契約〕は二重〔契約〕になり、この場合即座に〝違約紋〟が反応する、という事だ。言い換えれば、俺たちは一つのクエストにも失敗することが許されない、と考えた方がいい。
「質問です。魔物素材ではない、一般の宝石や財物は、冒険者ギルドで買い取ってもらえますか?」
武田が問う。これは、騎士王国で収奪した財物の換金の可否を問う質問であり、罰課金の支払いに充当する事が出来るか、という意味の質問でもある。
「可能だ。これも宝石商や貴金属商、古物商、美術商などに卸すよりは安値になるが、買い取る事が出来る」
これで、最悪の事態に対する備えが出来たと言える。逆に、騎士王国で押収した財物は、気軽に換金出来なくなった。俺たちが優雅に暮らす為に換金した結果、罰課金の支払いが出来なくなっては意味がないから。
「続けよう。
今度はクエストに成功した場合だ。
クエストに成功したら、当然達成報酬が支払われる。また、これは初級クエストに限られるが、達成時にその品質を依頼者が評価する。例えば、素材の採取系のクエストならその品質や保管の状況。依頼者の作業の代行等の場合は、その振舞いの態度なども評点になる。
その評点次第では、昇格が早まることもあるから、意識するように」
それを聞き、俺も口を開く。今から口にする質問の内容は、はじめから否定されることがわかり切っているもの。ただ、それにギルマス氏がどう答えるかを聞くことが、質問の目的。
「質問です。俺たちは、旅団単位ながら宝石魔獣の討伐に成功しています。また、モリスの町からモビレアまで、試験という形ではありますが護衛任務に成功し、一定の戦闘力を証明出来ていると思います。
にもかかわらず、やはり木札から始めなければならないのですか?」
「お前たちが商人の立場だったら、どう考える?
信頼出来る冒険者と、戦闘力はあるらしいが素性の知れない冒険者。どちらに護衛の依頼を出す?」
「信頼出来る冒険者です」
「そうだ。
では、誰もが嫌がり、けれど誰かがやらなければならない仕事を、率先して引き受ける冒険者と、それを嫌がり、或いは投げやりにその仕事をする冒険者。お前たちが商人なら、どちらを信用する?」
「前者です」
「そうだ。つまり、そういう事だ。
木札のクエストは、基本的に町中で行われる。
町の人はそれを見て、その冒険者を評価する。信用に値する人間か否かを。
それが、評点に反映される。
そして、ギルドランクは、その信用の証だ。
お前たちが商人なら、そこにいる二人の冒険者。両方とも見知らぬ相手なら、どうやって信用に足る相手か否かを見極める?」
「……誰か、信用出来る第三者に保証してもらう、ですか?」
「その通り。その保証が、ギルドランクだ。
だからこそ、ギルドも信用出来ない、或いは見ず知らずの冒険者に対し、高ランクを与えることはしない。
木札から鉄札への昇格基準は、その評点になる。つまり、町の人たちの信用だ。
そして鉄札から銅札への昇格基準は、その冒険者の戦闘力となる。つまり、『戦闘』という局面に於ける信頼度だ。その審査内容は、その時に説明するがな。
お前たちにどの程度の戦闘力があるかは、俺は知らない。けどお前たちは、その戦闘力を披露する前に、町の人の信用を勝ち取ることを考えろ」
ある意味で厳しく、ある意味で妥当だ。
少なくとも、ゲームのように「○件のクエストを達成したら昇格」と言われるより、よっぽど公平と言える。
そして冒険者ギルドは、日本の派遣会社のように、派遣社員の能力と共に派遣先での評判も評価基準に含めているという事だ。
「最後に、冒険者が関わる揉め事について。
冒険者同士の揉め事は基本、自己責任だ。ギルドに仲裁を求めるのなら、相応の対価を請求させてもらう。そしてその解決の為に、決闘やそれに類することを行うというのであれば、有償でその場を提供することも出来る。審判が必要なら、これも有償になるが、ギルドから派遣することも出来るだろう。
また冒険者と一般市民の間のトラブルも、ギルドは基本関知しない。ただ、それを見ている市民が、その冒険者が請けるクエストの評点にそのトラブルを通して得た感想を加減したとしても、それもまた当然のこととなる。評点は、依頼者の主観だからな。
『あの冒険者の顔が悪い』とか、『あの女冒険者は俺の求婚を断った』なんていう理由で減点する依頼者もいるが、それに対してギルドが何かを言うことはない。依頼者を見極めるのも冒険者の資質で、それを学ぶのも木札の冒険者の修行、という事だ」
「依頼者を見極める資質」。だから試験の時、プリムラさんは名乗らなかったのか。ギルド関係者という肩書で俺たちが安易な結論に飛びつかないように。俺たちが、チャンスとリスクを正しく秤にかける事が出来るかという事も、試験項目のひとつだったという事だ。
「他に、何か質問は?」
「冒険者は、ランク以上のクエストを請けられない、高ランク対象のクエストに相当する討伐等を行っても、評価されないという事はわかりました。
では逆に、自分のランク以下のクエストを請けることは出来るのでしょうか?」
「可能だ。勿論、昇格の評価対象にはならないがな。
俺の昔の友人は、外国からの出向だったんだが、本来所属するギルドの紹介状で銀札を認められていた。だが、町の人の信用を得る為に、選んで木札のクエストを受注していた。
奴にとっては、クエスト達成の評価より、町の人の信用を得ることの方が、重要だったんだろうな。ちなみに奴は商人としての資格も持っていたから、別にカネに困っている訳でもなかったようだし」
武田の質問に、ギルマスが答える。確かに、ギルドランクを上げるより、町の人の信用を得ることの方が重要、という観点はあるだろう。
冒険者としてのランクアップは、それなりに重要だ。なんせ、高ランクのクエストは、難易度も高いけど必然的に報酬の額も良い。けど、町の人の信用も、同じくらいに重要だろう。
俺たちがどういう冒険者でありたいか。それを、真剣に考える必要がありそうだ。
(2,945文字:2017/12/29初稿 2018/06/01投稿予約 2018/07/18 03:00掲載予定)
・ 不良依頼主のことを、ギルドが冒険者に何か言うことはない。けれど、事前に訊ねられたら受付嬢は応えます。また聞かれなくても、受付嬢自身が告げた方が良いと感じた冒険者に対しては、それとなく伝えます。つまり、受付嬢との信頼関係の醸成は、木札冒険者が鉄札に昇格する近道でもあるんです。
・ 評価ポイントには、有効期限があります。だから、「最低評価でも数を熟せば昇格出来る」ということにはなりません。
・ 「俺の昔の友人は、(中略)選んで木札のクエストを受注していた」というのは、前作『転生者は魔法学者!?』(n7789da)の未公開エピソードです。




