第10話 登録前試験 ~面接、そして結果~
第02節 冒険者登録〔6/7〕
◇◆◇ 宏 ◆◇◆
まさかこんな異世界で、知り合いの名前を聞くとは思わなかった。それも、「歴史上の偉人」扱いで、だ。勿論、同姓同名の他人、ていう可能性もあるんだろうけれど、多分本人だ。何故なら、オレたちの時と〝状況が一致〟するから。
だけど、だからこそ。この話は後回しでいい。過去の人物だというのなら、その人の話を聞くのは今この瞬間でなければいけないという事はないだろう。
今は、オレたち自身のことに集中しよう。
◇◆◇ ◆◇◆
「で、キミたちはこの、東大陸の地理をどの程度知っている?」
東大陸の地理? そういえばまともに聞いてない。
王国側はエラン先生を随行させるつもりだったから、オレたちがそれを知りたがることで、警戒させる訳にはいかなかった、っていう都合もある。けど、不勉強の誹りは免れないな、これは。
「恥ずかしながら、全く」
「そうか。まずここ、モビレアは、スイザリア王国の副都という地位にある。
モビレアの東に、馬車で大体月が二回巡るくらいの位置に、首都スイザルがある。
スイザルから更に東に行くと、スイザリアと二重王国を構成するリングダッド王国に入る」
二重王国って何だ?
「あぁ、スイザリアとリングダッドは、本質的に別々の国だが、対外的には一つの国として振る舞う。両国の行き来には特別な手形は必要ないし、商品の輸出入にも関税はかからない。
リングダッドに入り、今度は北に進路を取ると、その先にロージス地方と呼ばれる場所に出る。アプアラ王国ロージス領。このアプアラ王国は、キミたちのいう〝サタン〟の国の、事実上の属国だ」
! つまりその先が、俺たちの目的地、ってことになるのか。
「それで? キミたちの目的は〝サタン〟の討伐で、そこへと至る道筋は今見えた。
では、キミたちはどうする?」
このギルマスの言葉に、武田は。
「否。〝魔王〟討伐は、確かに〔契約魔法〕に記されたボクらの最終目的です。けれど、最短距離でそこに辿り着いても、意味は無いと考えます。
戦うにしても、一瞬で返り討ちにされてしまうでしょうし、それ以前にボクらがこの世界に来た意味がありません」
「キミらがこの世界に来た意味。それは?」
「まだ、わかりません。けど、魔術師長は、この召喚魔法を〔縁辿〕と呼んでいました。〝縁を辿る〟。つまり、ボクらには、この世界に何らかの〝縁〟があるんです。むしろ、それを辿ることこそが、ボクらがこの世界に来た、本当の意味なのだと思います」
「その魔術師長の言葉。それが真実である保証は?」
「ありません。けど、そんな必要もありません。
ボクらは、それこそがボクらの意味だとボクら自身で定めました。
ボクらは、〝魔王〟に会う前に、多くの人と出会い、多くの縁を紡ぎ、また既に紡がれていた縁を辿るんです。それは、〔契約魔法〕に反しない、この世界での生き様だと思います」
「よくわかった。
そういう事なら問題はない。
キミらを、モビレア冒険者ギルドで迎え入れよう」
よっしゃぁ!
◇◆◇ ◆◇◆
そしてオレたちは、冒険者ギルドに登録されることになった。
これは言い換えれば、冒険者ギルドが発行する身分証明書を手に入れるという事であり、これは多くの場合、〝奴隷の首輪〟(〝誓約の首輪〟)より重視される。何故ならもし冒険者としての立場が〝奴隷〟としての立場と矛盾するのであれば、〝脱走紋〟(〝違約紋〟)が額に浮き上がるから。〝違約紋〟を持たない〝奴隷〟が〝冒険者〟としての立場を持つ。それ自体が、一つの身分保障になるという事だ。
「ではキミたち、否、お前らは木札の冒険者として登録される。ギルドのルールなどについて、説明は必要か?」
「はい、是非お願いします」
武田が、二つ返事で説明を求めた。オレたちも、大体の概要はわかっている。けど、〝わかっている〟つもりになって確認を怠った結果が、オレたちの〝誓約の首輪〟だ。だから、当然のことでもちゃんと確認しておく必要がある。
「まず依頼は、ランク分けされている。自分のランク以上のクエストを受件することは出来ないし、例えば討伐クエストなどで自分のランク以上の獲物を討伐したとしても、それは評価の対象にはならない。但し、素材や魔石の買い取りは受け付けられる」
ふむむふ。素材や魔石を納品することは出来るけれど、それはあくまで「ギルドによる買取」という扱いでしかない、という事か。
「質問です。ボクらは今、柘榴獣石を所有しています。
これをギルドで買い取ってもらった場合、どういう扱いになりますか?」
「ただの素材の買取扱いだ。商人が宝石商に卸すよりは安値になるが、一方ギルドは買取拒否をしない。
また、宝石魔獣は銅札または銀札のクエストになることが多いが、その時の達成報酬よりは遥かに廉い値段になる。
つまり、お前らが持っている柘榴獣石を高く売りたいのであれば、まずお前たちが銅札または銀札に昇格し、次いで柘榴獣石取得のクエストが発注されるのを待ち、受注と同時に納品する、という形にすべきだろう。まぁそうする為には、どれだけ時間がかかるかはわからんがな」
確かに、今換金したいのに、ランクアップしないと高く売れないというのなら、意味がない。せめて足元を見られている訳じゃない、標準的な価格で買い取ってもらえるのなら、それで御の字だろう。
「話を続けよう。
クエストには、達成条件と期限が定められている。条件を満たせなければ達成とは看做されないし、期限を超過したらやはり不達成と扱われる。
不達成の場合は、基本、クエスト報酬の三倍の罰課金が課せられる。
また、負傷等により達成出来なくなった場合で、別の冒険者により救助された場合。
負傷冒険者の救助は、最低でも銅札のクエストになる。そのクエスト報酬は、救助された冒険者が負担することになる。また、その負傷を〔治療魔法〕等によって治癒された場合、その治療費に相当する金額は、やはり救助された冒険者が負担する。まぁこの場合は、市価で、という事になるが。
そして不達成の理由が、ギルドからの情報が不正確乃至は不十分だったと認められる場合。その不足していた情報に相当する情報を持ち帰っていた場合は、罰課金の一部をその情報料で充当するという形で減額することもあり得る。
更に、失敗クエストのアフターフォローを別の冒険者が請け負った場合、その成功報酬もペナルティーに上乗せされることになる。
これらの罰課金等に関し、もし支払いが出来ないという事になれば、条件次第だが支払いを繰り延べる場合もある。但しこの場合は〔契約魔法〕でその達成を縛り、期間内の支払いが出来なければ、労働奴隷として然るべき相手に売却されることになる。
お前らの場合、罰課金の支払いが不可能となった時点で、冒険者ギルドに対し、或いは騎士王国に対し、〔契約〕に違約することになるから注意するように」
(2,981文字:2017/12/29初稿 2018/06/01投稿予約 2018/07/16 03:00掲載予定)
・ 今回語られた「柘榴獣石を高く売る方法」。これは、宝石以外でも使えます。例えば迷宮で魔物を討伐したとき、それを〔亜空間収納〕に納めておいて、魔物素材の収集依頼があったら受件後即その討伐対象の素材を提出する、など。けど、普通の〔収納魔法〕は長期保存出来ないので、時間が経過したら普通に腐敗してしまいます。だから、解体した後の皮や爪、宝石等だけに使える裏技扱いされており、間引き依頼などに於ける討伐証明部位以外はそれを黙認されます。




