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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第二章:依頼は選んで請けましょう
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第08話 登録前試験 ~試験経過~

第02節 冒険者登録〔4/7〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 それから少し進むと。最初の三人が潜んでいる繁みの脇を通ったの。いきなり襲い掛かって来たらどうしようかとドキドキしたけど、何事もなく通過。

 この時、ショウくんと武田くんが、それぞれ〔マルチプル・バブル〕を繁みに向かって撃ち出したの。多分、この人たちが動き出したらすぐにわかるように。


 そしてその更にすぐ後。隊列の先頭が、横転している馬車を見つけた。美奈が報告した通りの状況だったから、冒険者さんたちも緊張の度合いを一ランク上げたのがわかる。


「すみません。馬車が横転してしまったんで、起こすの手伝ってもらえますか?」


 横転している馬車の前にいる男の人が、プリムラさんを護衛している冒険者の一人に声をかけた。ちなみに、前衛職(おシズさんと柏木くん、そして冒険者さんたち)は全員、既に抜剣している。冒険者さんたちの弓職の人も、弓弦(ゆづる)を引いていないだけで、矢を(つが)えているし。


「手が足りないというのなら、馬車の(かげ)に隠れている男たちに協力を求めればいいんじゃないか?」


 声をかけられた冒険者さんがそう応えると。


畜生(ちくしょう)、ばれてやがる。構わねぇ、やっちまえ!」


 そう言って、剣を抜いた。けど、完全に一手遅い。

 その男が剣を抜き切る前に、おシズさんの刺突(つき)が男の剣を(はじ)き、更に柄を(かえ)して石突(いしづき)で痛打。一瞬で昏倒させた。

 またもう一人に対し、柏木くんが長柄(ポール)戦槌(ハンマー)を振り下ろす。これは避けられてしまったけど、その先には冒険者さんの剣が。

 また馬車の陰から飛び出してきた男に対し、弓職さんの矢が放たれ、向こうがこちらの状況を把握するより先に射抜かれた。


 一瞬で三人(たお)され、向こうは完全に引き(ぎわ)(あやま)ったみたい。あとは乱戦、って言っても、男たちが冒険者さんたちに勝てるはずもなく。そして後ろの繁みに隠れていた三人も、ショウくんと武田くんの(クロスボウ)で射抜かれて。


 1分かからず、襲撃してきた男たち(多分盗賊)は全滅した。


「やるじゃねぇか。というか、今回の殊勲(しゅくん)賞はそっちのお嬢ちゃんだな。

 だけど、あれだけの距離を置いて、どうやってこいつらのことがわかったんだ?」

「えっと、冒険者たるもの、手の内を(さら)しちゃいけないんだよ? だから、ごめんなさい、秘密です」

「はははっ、その通りだ。こっちこそすまんかった。ならこれからも頼りにしているぜ」

「はい!」


 ()められた。期待された。ちょっと嬉しい。


 その後、おシズさんが昏倒させた男と、ショウくんたちが無力化させた三人を引っ立ててきた。


「何故(とど)めを刺さなかった?」

「それを判断するのは、あたしたちの役目じゃないと思いました。プリムラさんか、貴方たちが決断することかと。

 あたしたちは、あくまで『試験』として護衛の役を務めさせていただいていますので、その行動に責任を負える立場じゃありません。だから、取り敢えず無力化して対処を(ゆだ)ねることにしました」


 そう。美奈たちは、結局誰も殺さなかった。隠れ(アンブッシュし)ていた3人を撃った攻撃も、手足に集中し(武田くんの微塵(みじん)は〔帯電〕による電気ダメージも付与していたみたいだけど)、死者は出していません。

 けれど結局、冒険者さんたちはまだ息のある賊に(とど)めを刺し、その持ち物を物色したうえで(死者の持ち物を持ち去るのは、冒険者にとってはむしろマナーなんですって。それが仲間なら形見(かたみ)分けになるし、敵なら戦利品だから)、更に先に進みました。


◇◆◇ ◆◇◆


 この日から。休憩時や野営時に、美奈たちは冒険者さんたちに声をかけられるようになったの。今までは一歩距離を置いた感じだったのですが、野営の時には共に火を囲むように誘われ(美奈たちも、戻した干し肉と野菜のスープを冒険者さんたちにも振る舞いました)、色々な話をするようになったんだよ。勿論(もちろん)、美奈たちの事情は聞かれなかったし、美奈たちも冒険者さんたちのプライバシーに踏み込むような話題は避けたけど。


 美奈たちと冒険者さんたちで食事を分けていたのは、美奈たちが信用されていなかったから(毒を混ぜられる危険を想定していたみたい)。野営の時も、冒険者さんたちは外周警戒よりも美奈たちの挙動にこそ注意を払っていたみたいでした。


 そしてその後も、襲撃はありました。


「〝1〟、〝0〟。8時の方向、距離150m。人型だけど大型だから人じゃない。数は8」


 野営時は、美奈の索敵能力に期待して、むしろ全員が集まっています。勿論エリスちゃんはお休み中。


「数8なら、俺たちだけじゃ手に余る。美奈、冒険者さんたちを起こしてくれ。

 武田。初手は〔火弾〕。篝火(かがりび)代わりに盛大に燃やしてやれ。あとで〔気圧操作〕で消火すればいい。狙いは敵の真ん中、やや後方。迂回(うかい)されて包囲されるより、炎の壁で退路を断った方がやり易い。

 柏木と松村はセットで行動。開いた空間に俺がクロスボウを撃ちまくる。基本、〝3〟の連打だ。美奈、15秒間隔で〝0〟のコール」


 この地方は、夏場は空気が乾燥するみたい。おかげで美奈が冒険者さんたちに声をかけて、彼らがこちらに来た時には、武田くんの〔火弾〕で樹々が盛大に燃え上がっていたの。そして武田くんは、火に薪をくべるように、〔火弾〕を撃ち込み続けてた。

 ショウくんは、冒険者さんたちの常識ではあり得ない間隔で、手元に置いたクロスボウを連射してる。でも15秒で撃てるのは4射程度だから、最後の一基は予備になってた。

 結局、〔倉庫〕を七回開いて、八回目は必要なかったから、大体2分で戦闘が終了したことになるのかな? 冒険者さんたちの出番は、無かった。戦闘終了後の消火活動も、それほどの労を要さず、って感じ?

 なお、襲ってきた魔物は豚鬼(オーク)で、その肉は食用に足るのだとか。……解体は、したくないから、そのまま〔倉庫〕の凍結室に放り込んで、冒険者登録が出来たら丸ごとギルドに(おろ)すことにします。


 その後も、盗賊(けだもの)による襲撃は3回、野獣(けもの)魔獣(まもの)による襲撃は合計5回。そのほとんどは野営中だったけど、美奈の〔泡〕が最初に捕捉出来たよ。そして夜間の襲撃に対しても、ショウくんのクロスボウ攻撃は高い命中率を誇ってた。あとで聞いたら、〔泡〕を照準器代わりに使用したんですって。〔泡〕は術者には昼夜問わず視認出来るから。


 また、途中で旅の商人さんともすれ違いました。その商人さんは馬車の車軸が壊れて難儀していたのですけど、その状況が最初に遭遇した盗賊たちの時に酷似していたの。だから冒険者さんたちはこの商人さんたちを盗賊だと誤認しかけたんだけど、隠れ(ひそ)んでいる人がいないことを美奈が告げ、事なきを得ました。

 ちなみにこの商人さんのトラブル。美奈たちの手持ちの資材で修理が可能だったので、プリムラさんたちの許可を得て修理してあげました。お礼に幾許(いくばく)かの金貨を頂戴しました(美奈たちの初めての現金収入!)。


 そして、予定より少々早い19日目(107日目)の昼過ぎ。美奈たちは、モビレア市に入ったのでした。

(2,978文字:2017/12/28初稿 2018/06/01投稿予約 2018/07/12 03:00掲載予定)

・ なお、冒険者たちの〔亜空間収納〕では、討伐した魔物の全てを収納することは出来ないので、収納出来なかった分については、彼らと交渉した上で頂戴し、〔倉庫〕に納めています。この際、髙月美奈さんたちの〔収納魔法〕の特殊性の一端(五人全員で発動させる代わりに、容量が桁外れに大きいこと)を開示しています。

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