第07話 登録前試験 ~試験開始~
第02節 冒険者登録〔3/7〕
◇◆◇ 宏 ◆◇◆
謎の美女の申し出を受けて、冒険者登録する為の試験を受ける。
言葉だけを聞くととても恵まれているように思えるけれど、そもそもあの美女は、それだけの権限を持っているのか? オレたちは一度騙されている。もう少し慎重になるべきじゃないだろうか?
「その危険は確かに残ってますけどね」
言ってみたら、武田の返答。
「でも現実的に考えて、どうなのかなって。
あの美女に見せた、ボクらの〝財産〟って、柘榴獣石と、髙月さんと松村さん、そしてエリスちゃん。これだけなんですよ。だから、あの美女が悪意を向ける価値が無いんです。
そして、ボクらは奴隷……〔契約魔法〕に縛られています。二重〔契約〕を結べるかどうかもわかりませんけど、その為には二つの〔契約〕が相互に矛盾しないという前提条件が必要になるはずです。そうでないと、どちらかの〔契約〕が反応して〝違約紋〟が浮き出てきますから。〝違約紋〟持ちの奴隷なんか、第三者にとっては価値が無いはずです。そしてそもそも、あの美女は〔契約魔法〕は使わない、と宣言してくれていますし。
つまり、最悪は『モビレア市』までの同行者、という扱いで、それ以外に何か問題が生じるとしたら、それはその都度自衛することで回避出来るんです」
そういえば、あの美女の提示した試験内容に、「食糧その他の提供は無い」というのがあった。つまり、本当の意味であの美女側からの持ち出しは無い、という事だ。
むしろ問題になるのは、エリスのことだ。エリスは、俺たちが〔倉庫〕を開閉するのとは無関係に〔倉庫〕に出入り出来るようだ。なら、〔倉庫〕にエリスを匿う、というのも選択肢のひとつだろう。
けど、エリスは以前、「暗い場所に閉じ込められていた」と言っていた。その「暗い場所」と「誰もいない〔倉庫〕」に、どれだけ違いがある?
そう考えると。エリスはちゃんと、外界で俺たちと行動を共にしている方がいいだろう。
それが今回の試験での減点対象になるというのなら、それはそれで仕方があるまい。
「わかった。じゃあ次は、具体的なフォーメーションの検討だな」
◇◆◇ ◆◇◆
馬車を護衛する為の、フォーメーション。
そして今回は、試験を受ける立場という事と、なんだかんだ言ってなお例の美女たちを全面的に信用する訳にはいかないという事から、外界では24時間体制の行動を迫られる。当然、睡眠は〔倉庫〕でだ。とはいえ24時間不休で20日間生活する、などと言ったらその方が異常に思われるので、ローテーションも考えなければならない。
その休憩時間は、人間の睡眠時間として最少と謂われる、2時間。
そしてチーム分けは、
○ オレ(柏木宏)・髙月美奈・飯塚翔
○ 松村雫・武田雄二
とした。近接戦闘班である俺と松村は別チーム、そして女子二人も別々にすることで、女子が全員眠っている時間、というモノを作らないことにする。また武田も(髙月には劣るものの)〔マルチプル・バブル〕を使った索敵が出来る。だから髙月と同じ班にしておくのは勿体無い。
髙月と飯塚を同じ班にしておくと、また際限なくいちゃつきそうだけど、それはまぁ仕方がないと諦める。取り敢えず二人には、空気を読んでもらおう。
ちなみにエリスは、どちらのチームにも入らない。何故ならこれは、仮眠を取る(ことを装う)為のチーム分けだから。エリスは、外界でもちゃんと8時間寝かせるつもり。
そして、オレたちは馬を持っている。王国の厩舎を襲撃した際に接収した馬たちと、その後『ビリィ塩湖地下迷宮』に向かう際に与えられた、騎士用の馬。
だけど、冒険者たちは誰も騎乗しておらず、またオレたちも騎乗したまま戦闘出来る訳ではないので、エリスを乗せる分を除いて馬は出さない。
そういった打ち合わせを終えて、満を持して〔倉庫〕を出た。
◇◆◇ ◆◇◆
「〝ゼロ〟? それはどういう意味ですか?」
「いえ、なんでも。それより、その条件で結構です。
ただ、あたしらの同行者に子供がひとりいるので、この娘のことだけは出来るだけで結構ですので、配慮していただけないでしょうか?」
外界で、再び時間が流れ始める。
そして、松村がエリスのことだけを口にした。
「配慮する、とは約束出来ませんが、出来る限り気にすることにしましょう。
では、もし準備等が必要でしたら少しくらいなら待てますが、無尽蔵に時間がある訳ではありません。どうしますか?」
「馬を一頭、連れてくる時間をくだされば」
「わかりました。あぁ、言い忘れていました。
私の名前は、プリムラと言います。
貴方がたの名前も教えていただけますか?」
◇◆◇ ◆◇◆
オレたちも名乗り、そして試験が開始された。
馬車の護衛。想定される脅威は、魔獣と野獣、そして盗賊。特に最後の、「ヒト型のケダモノ」には注意が必要だ。なんせ見た目で無害な人間と区別がつかない可能性があるからだ。
隊列の前方に松村。そのすぐ後ろに飯塚と武田。
馬車を挟んで後ろが髙月(とエリス)で、最後尾がオレ。
見た目最も無力なのは髙月だから、真ん中で騎乗する体を取るが、実質は〔泡〕を使った索敵に集中してもらう。
飛び道具を使う飯塚と武田は、むしろプリムラさんたちに対するパフォーマンスで、即応態勢を取らせる。但し二人とも弩を一基ずつ保持。
当面何事もなく歩いていた、三日目(92日目)。
「1!」
髙月が、敵影捕捉の1をした。
いきなりのコールに、本来の護衛担当である冒険者たちは訝しんだが、髙月のコールを聞いた武田が伝令として髙月の下に駆け寄る。
「11時の方角、繁みの中。距離は大体200m。3人が潜んでる。うち一人が一旦こっちまで来てから、向こうに戻っていったよ。
その向こう、12時の方角、距離は大体250m。馬車を横転させている。手前に2人、馬車の陰に4人。
多分、トラブルを装って包囲しようとしているんだと思う」
「わかりました。じゃあ30秒後に0で」
武田が戻り、そしてきっかり30秒後、〔倉庫〕を開く。
「合計9人か。俺たちだけで対処出来るかな?」
「先制すれば出来ないことはないと思いますけど、問答無用で襲撃したら、ボクたちの方がならず者になっちゃいます。
ここはプリムラさんたちに報告して、冒険者さんたちと連携しましょう」
「だけど、それだと試験の評価としてはどうなのかな?」
「この場合、独断で行動しない方が高評価だと思うぞ? 特にまだ距離があるからな」
「それから、隊列を変更しよう。柏木が前に出て、俺と武田は後ろに下がる。アンブッシュ組の3人は俺たち二人で対処、前方の6人は柏木と松村、それに冒険者たちで対処してもらう」
「わかった」
打ち合わせを済ませて、俺たちの行動を不審に思った冒険者のリーダーとプリムラさんに事情を説明する。勿論、まだ半信半疑、というより1信9疑くらいだろうけれど。
そこで俺たちのフォーメーションを話し、隠れている賊は飯塚と武田で対処する旨を話した。
さぁ、実戦だ!
(2,962文字:2017/12/27初稿 2018/06/01投稿予約 2018/07/10 03:00掲載予定)
・ 「〝違約紋〟持ちの奴隷に価値はない」と武田雄二くんは言っていますが、一般に〝違約紋〟(〝脱走紋〟)を持つ奴隷には、人権が認められません。よって、非人道的用途には、〝違約紋〟持ちの奴隷は使えます。
・ 彼らは無意識にやってしまいましたが、〔亜空間倉庫〕の魔法は、馬車の前と後ろ、その距離を隔てても「同じ場所」と認識したようです。オープンフィールドに於いて、どれだけの距離を「同じ場所」と認識するのか。それは今後の調査を待つ必要がありそうですが。




