第04話 迷宮の出口へ
第01節 エリスに導かれて〔4/4〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
外界の時間は、87日目に入りました。
仮眠から醒め、日課の鍛錬を終えてから、ボクらは迷宮の出口を目指します。なお、ボク等がいた場所のすぐ近くに、エラン先生が使っていた〝ゴブリンドロップ〟の長剣も落ちていましたので、回収しました。
ボクらは、崖の上から落ちてきました。だから外に出る為には、上を目指す。……のが、常識でしょう。けど、どうやらこのダンジョンは「空間が歪んでいる」らしいので、その法則は当て嵌まりません。
エリスちゃんの案内で、ボクらは下へ下へと進んでいきました。
と。
「あ、ちょっと待って。美奈の〔泡〕が弾けたよ。この先に何かがいるよ」
髙月さんが、警告を発します。
このダンジョンにいるのは、小鬼と蜥蜴人、それにスライムだそうですが、既にここが『ビリィ塩湖地下迷宮』なのかどうかさえ不明です。なら、想定外の魔物が出現してもおかしくはありません。
そしてゴブリンなら、遠距離からの先制攻撃を敢行してくるでしょう。
髙月さんは〔泡〕の密度を高め、また『レニガード』を構えます。
飯塚くんは弩を、ボクと柏木くんは投擲紐を。
松村さんは、近接防御の為に大刀を構え、髙月さんが警告した場所に近付いていきます。
そこにいたのは、リザードマン。リザードマンは、水辺に棲む鬼系の魔物で、数を以て圧殺する戦いを得意とするそうです。冒険者を相手にするときにその10倍以上の数をぶつけるのが常道だとか。
一体一体はそれほど強くはないものの、鱗で覆われている為中途半端な攻撃は全く通らず、また滑り易い水辺でも確りと足を踏みしめて戦う為、戦いの場所によっては非常に厄介な相手でもあると言います。
ただ今回は、どうやら斥候らしく、その数は3体。勿論未帰還となれば、大軍が押し寄せてくることになるでしょうけれど。
「あのリザードマンが斥候だと考えるのなら、逃がさないことが先決だな。
俺のクロスボウによる先制攻撃で1体を確実に屠り、1体は柏木と松村が速攻でカタを付けてくれ。大刀だと鱗で弾かれる危険もあるが、関節部に対する刺突技なら通るはずだ。
残り1体は、ミナの〔泡〕で牽制しながら、柏木たちを待つ。もし逃げ出すようなら武田の微塵で足を止めろ。だから武田が微塵を用意して、待機だ」
戦術は決定し、それぞれが構えます。
そして、いつもの通り、髙月さんが開戦のコール。
「10!」
コールと同時に発射される矢弾。飯塚くんの安定した命中率を誇るクロスボウの一射は、確実にリザードマンの頭部に命中しました。けど、斃し切れない?
「5! 3!」
次弾装填の5、そして即時発射の3。
飯塚くんは次のクロスボウを手にし、次弾発射。今度こそ、リザードマンが地に沈みました。
一方、柏木くんと松村さんが向ったリザードマン。二人の連携は阿吽の呼吸と呼ぶに相応しく、隙の無いものになっています。
「8!」
髙月さんの、散開の8。柏木くんの背後から、三体目のリザードマンが迫ってきていました。
「7!」
ボクに対する支援行動を促す7。微塵でどちらかの足を止めろ、という事でしょう。
二人の攻撃を受けて傷付いた方か、それとも無傷な方か。
手負いの方は止め易い代わりに無傷な方が自由になります。
無傷な方は止め切れない可能性があるけど上手くいけば二人が有利になります。
一瞬悩んだけど、無傷な方に向けて微塵を投擲。と、同時に微塵に〔帯電〕を付与。水棲の魔物なら、電気耐性は薄いと踏みました。
果たして、微塵は無傷なリザードマンの左脚を強かに打ち据えると同時に、電気ダメージ。一瞬、その動きが止まりました。
その隙を、松村さんが逃すはずがありません。大刀一閃、刃をその喉元に突き立てました。
「5! 3!」
飯塚くんに、第三射を促すコール。これは残念ながら外しましたが、松村さんの背後を襲おうとしたリザードマンの行動を一手封じる効果がありました。そして、その封じた一手に柏木くんの一撃が。
もうあとは詰将棋。柏木くんの一撃でダメージを蓄積し、松村さんの一撃で、最後のリザードマンは事切れたのでした。
◇◆◇ ◆◇◆
「リザードマンの素材は、鱗と爪、そして稀に体内から採取出来る神聖金、か」
「体内に金属を持つ、ってどういうことなのかな?」
「おそらくは生体濃縮、という奴だろう。水俣病の有機水銀と同じだ」
「なら、どこかにオリハルコンの鉱床でもあるのかな?」
「あるんだろうな。けど、ダンジョン内で鉱物採取を行うモノ好きは、そうそういないと思うぞ?」
戦闘終了後、リザードマンの死体を抱えて〔亜空間倉庫〕に入って。
飯塚くん、髙月さん、松村さんがそんな話をしています。
外界の時間は経過しないのだから、ここで解体してもいいのでしょうけれど、気分が落ち着きません。リザードマンの死体は凍結庫に放り込んで、ボクらは探索を続けることにしました。
リザードマンの斥候が未帰還となった以上、いつ本隊が動き出すかわかりません。
エリスちゃんにルートを聞きながら、リザードマンに対する警戒もあり、髙月さんの〔泡〕はかなり遠くまで飛ばされているようです。
と。
「あれ? ちょっと変だよ?」
髙月さんの〔泡〕が、何かを感知したようです。
「この先、道幅が狭くなるんだけどね、その先に広い場所に出るの。
そこの、右側から左側に向けて、何かが動いてる。それも、一体や二体じゃないわ」
さすがに、〔泡〕は動いているものを感知出来ても、それが何なのかまではわかりません。
「その狭くなる場所って、人が二人並んで歩ける程度か? 一人が精いっぱい?
なら、オレが先頭を歩く。髙月、レニガードを貸してくれ」
隊列は、一列縦隊。先頭が柏木くんで、二番目に髙月さんが来る。
これは、髙月さんが小柄な為、万一の時は柏木くんの動ける幅を広く採る為です。そして髙月さんは、柏木くんにレニガードを渡した一方で、柏木くんの長柄戦槌を受け取ります。これも、必要に応じて受け渡しをする為です。
そして柏木くんは、両手でレニガードを構えたまま、広い場所に一歩踏み出しました。
そこにあったものは。
「君たち。何をしているんだい?」
人間の、冒険者たちでした。
(2,743文字:2017/12/26初稿 2018/06/01投稿予約 2018/07/04 03:00掲載予定)




