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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第二章:依頼は選んで請けましょう
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第01話 闇の中で出会った少女

第01節 エリスに導かれて〔1/4〕

◇◆◇ 雫 ◆◇◆


 武田の時計によれば、あたしたちがこの世界に来てからもうすぐ87日目になろうとする、深夜。

 『ビリィ塩湖地下迷宮』内の(がけ)から更に地底へと滑落してしまった。


 幸いにも、美奈の〔マルチプル・バブル〕のおかげで誰も怪我をせずに済んだものの、おそらく自力復航は無理。感覚的に100m以上落ちたように思える。

 けれど、今あたしたちのいる空間。ここは所謂(いわゆる)「井戸の底」のようには見えない。鍾乳洞(しょうにゅうどう)とはまた別の洞窟の一角、という印象だ。


 だからまず周囲を確認しようと、柏木が持つ(飯塚がこの世界に持ち込んだ)懐中電灯を点灯させた。


 そして柏木が適当に照らしたその先に。


 3~4歳程度に見える、少女が立っていた。


 全裸で。


◇◆◇ ◆◇◆


「この莫迦野郎! ライトを消せ! っていうかそれを寄越せ!」


 理不尽な叱責だという自覚はある。が、年端もいかないとは言っても少女の全裸を男子に見せるのは、どうかと思う(あたしらの裸は今更どうでも良いが)。


 柏木がまず懐中電灯を消し、それをあたしに渡し、そして男子全員が後ろを向いたのを確認して、改めて懐中電灯を()けてみた。

 が、そこにはいない。

 幻だったのか? と一瞬思った時。


「うわああああっ!」


 と、絹を裂くような男の悲鳴(笑)が(とどろ)いた。


 何事かと思ってそちらに光を向けてみると。


 先程の少女が、飯塚の背中に抱き着いて……というよりしがみついてたのだ。

 更には、致命的ともいえる一言が、少女の口から発せられた。


「……ぱぱ♡」


 ……OK、整理しよう。

 この少女の年齢は、3~4歳。つまり、飯塚が12~4歳の頃に生まれた子供だという事だ。

 あたしたちは皆、飯塚や美奈とは違う中学の出身だ。だからその頃のことはよく知らない。

 けど、二人が付き合い始めたのは、中学の頃だと聞いている。つまり、計算が合う。


「つまり、飯塚は中学の頃に美奈に手を出して、(はら)ませて、生まれた子供を異世界に捨てた、という事か。あたしらはこの世界と〝縁〟があるらしいけど、お前の辿(たど)る〝縁〟は、かつて捨てた娘との〝縁〟か?」

「そう言えば、髙月は飯塚のお母さんに『卒業までは子作り禁止』って言われているんだよな? それはつまり、生徒の立場で子供を産む苦労を知っているから出た言葉、ってことか」

「誤解だ、冤罪(えんざい)だ! 弁護士(みな)を呼べ!」


 あたしの追求と、柏木の追撃で、飯塚は悲鳴を上げた。すると、この場で飯塚の弁護が出来る立場である美奈が。


「ショウくん。ショウくんは、どこの女にこの子を産ませたの? 美奈のことは遊びだったの?」


 まるで、(から)のお鍋をお(たま)でかき混ぜるか、nice boat.しそうな雰囲気で、飯塚に迫る!


「頼むから話を聞け! まずそんな心当たりはないし、美奈以外の女に手を出そうとしたこともない。そもそも異世界に子供を捨てる方法を知っていたら、元の世界に帰るヒントになっているだろう!

 ……いや、ごめん。驚かせちゃったね。

 キミの名前は? どうして俺を『パパ』って呼んだの?」


 飯塚はまずあたしらに言い訳をして(信じられるかどうかは、取り敢えず保留)、それから少女に語り掛けた。


「ぱぱ、じゃない?」

「うん、ごめんね。どうやら俺は、キミのパパじゃないみたいだ」

「でも、ぱぱからままの(にお)いがするよ?」

「ママの匂い?」

「うん。ぱぱの、6番目のままの匂い」

「ろく、って、キミのパパはそんなに何度もママを変えているの?」

「ううん、ママたちは皆仲良し。エリスのままには意地悪だけど」

「エリス? それが君の名前?」

「うん、エリスはエリスだよ?」


 つまり、この娘の名前はエリスで、エリスの母親はどこかの男の(めかけ)? で、エリスの父親はエリスの母を含めて6人以上の奥さんがいて、その6人目の奥さんと飯塚の匂いが似ている、と?


「つまり、エリスの義理の母親の一人が、飯塚が(もてあそ)んで捨てた女という事か?」

「弄んでねぇ! というか、そっちから離れろ」

「しかし、あと考えられる可能性は、美奈がその6番目の母親、という程度だ。

 美奈。美奈は飯塚と付き合えるのなら援助交際も辞さない、って以前言っていたが、どこかのやり●ん男の愛人にでもなったのか?」

(ううん)、美奈はショウくん一筋だし。それにショウくんは、叔母さまっ子だったから。美奈は叔母さんに嫉妬することはあったけど、他の女の影はこれまでなかったよ?」

「これまで、っていう事は、最近ならあったと?」

「最近は、やっぱりおシズさんの色んな意味で許している雰囲気が気になるかな?」


 うわっ。流れ弾がこっちに飛んできた。


「ま、まぁともかく、お嬢ちゃん、エリスちゃん。彼は、エリスちゃんのパパじゃないからね? でも、エリスちゃんはどこから来たの?」

「ん~、わかんない」

「わかんない、の?」

「うん。今までずっと、暗いところにいたの。何も聞こえなくて、何も見えなかったの。

 だけど最近、近くで(にぎ)やかな声が聞こえるようになったの。

 その声は、凄く楽しそうだったの。

 だから、その声のところに行ってみたくなったの。


 そうしたら、ここにいたの」


 暗いところに閉じ込められていた。それはつまり、幽閉されていたという事?

 そしてそこを出て、声のするところに歩いてきたら、ここだった?


 つまり、それこそ冒険者がこの子を捨てる為に箱詰めして、この崖下に投棄した、という事なんだろうか? だとしたら、決して許されない。


 美奈も同じように思ったんだろう。エリスちゃんに抱き着いて、


「もう大丈夫。これからは、絶対一人にはさせないからね」


 と、頭を()でながら語り掛けていた。


「でも、髙月さん。一人にさせないのは良いことですけど、その前に、その子に服を着せてあげた方がいいんじゃないですか?」


 声を上げたのは、武田。確かにその通りだ。

 そして当然ながら、あたしらは幼児服などを持っていない。

 だから。


「ごめんねエリスちゃん。ほんのちょっと、瞬きするくらいの時間、待っていて?」


 そう言って、あたしたちは〔亜空間倉庫〕の扉を開けた。


◇◆◇ ◆◇◆


 〔倉庫〕内でのミーティングの議題は、取り敢えず「エリス」と名乗った少女の事。勿論(もちろん)、あたしたちの脱出方法も考えなければならないけど、そんなのは後でいい。

 けど、ミーティングを開く前からわかっている。考えるだけ無駄だ、と。

 その一方で、エリスの安全を考えると、全員で不寝番(ふしんばん)をしてでも彼女に危険、どころか恐怖心の一欠片もないように守り抜く必要がある。

 だから、美奈が女児服を縫い終わるのを待って、取り敢えず仮眠をとることにした。

 起きたら、24時間体制でエリスを守らなければならないから。


◇◆◇ ◆◇◆


 仮眠をはじめ、〔倉庫〕内時間で3時間程度が経過したころだろうか?


「うわああああああああああああ!」


 男子の寝所から、またもや飯塚の悲鳴が。


「何が起こった?」


 皆でそこに飛び込むと。


 エリスが、全裸で飯塚に抱き着いたまま、熟睡していたのであった。

(2,764文字:2017/12/24初稿 2018/04/30投稿予約 2018/06/28 03:00掲載 2021/04/08衍字修正)

【注:「空のお鍋をお玉でかき混ぜそうな雰囲気」という表現は、PCゲーム原作のテレビアニメ〔Navel原作『SHUFFLE!』〕の登場人物、芙蓉楓さんの行いを原典としています。なお、ネット上ではこれは「空鍋」と呼ばれていますので、興味がおありの方はこのワードで検索してみてください。

 「nice boat.」は、同じくPCゲーム原作のテレビアニメ〔オーバーフロー原作『School Days』〕の地上波最終話放映回が、あまりにも凄惨なシーンの連続となる為、放送不可能と判断したテレビ局が、番組を差し替えて環境映像を流し続けたことに由来します】

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[一言] 「理不尽な叱責だという自覚はある。が、年端もいかないとは言っても少女の全裸を男子に見せるのは、どうかと思う(あたしらの裸は今更どうでも良いが)。」 3~4歳の少女の裸を見て、どうこう騒ぎす…
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