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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第一章:契約は慎重に結びましょう
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第40話 強奪

第07節 反撃〔5/5〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 78日目の深夜、というか、79日目の早朝。

 美奈たちがまずやったのは、〔コンシール〕の魔法で音の伝播(でんぱ)を防ぐこと。これで、隠し部屋で今うたた寝している監視員たちに、美奈たちが動いている音は聞こえないはず。念の為、密度を変えた空気を〔マルチプル・バブル〕の中に封入してみた。

 〔泡〕それ自体は目に見えないけど、その中の空気の密度が違えば、当然光の屈折が起こるから。わずか数ミリの(のぞ)き穴の周囲で、複数の〔泡〕がレンズを作って無秩序に浮遊してれば、部屋の様子を正確に視認することなんか、出来るはずがないし。

 その次に、ベッドカバーに〔泡〕を詰めて、即席のエレベーターを作った。これに乗って移動する必要はないけど、落下速度を減速させられれば、安全に着地出来るから。勿論(もちろん)、着地予定地点にもたくさんの〔泡〕を用意して、万一に備えたけれど。


 そしてまず、軍の厩舎(きゅうしゃ)に。普通の泥棒さんは、泥棒に入ったことに気付かれないように色々する様子がマンガに描かれていたけど、美奈たちは明日の本番に備えた陽動だから、朝にはばれていい。むしろ、美奈たちが部屋に戻るまでばれなければそれで良い。

 〔コンシール〕で音を消して、裏口の(かんぬき)を柏木くんの長柄(ポール)戦槌(ハンマー)で壊す。そして厩舎に入り、馬たちを全部、〔亜空間倉庫〕の地下厩舎に引き入れた。ついでに(まぐさ)や馬具と、その他馬の手入れ用の道具なんかも根こそぎ持って行くことにしたの。


 次が、備蓄倉庫。

 でも、今度が今日の本番。馬は連れ出しても目立つから、それほど警備は厳しくない。と言うより、実際警戒されていなかったみたい。けど、備蓄倉庫と武器庫は、間違いなく警戒されている。じゃあどうする?

 採用し(とっ)た方法は、馬たちを連れだした後の厩舎に〔烈火〕で火を点けた。そして燃え広がる前に備蓄倉庫に向かい、待機。騒ぎが大きくなって、備蓄倉庫の警備の人たちも消火に動いた時、中に飛び込んで、そこにある物資も〔倉庫〕に持ち出した。

 それが終わったら、そこにも火を点け。


 本当は、武器庫も襲撃したかったけど、さすがに無理だろうってことで諦めた。

 うぅ、これで美奈たちは強盗放火犯になっちゃった。


◇◆◇ ◆◇◆


 79日目、朝。

 美奈たちは、エラン先生に呼び出されたの。


「お前たちは、昨日の夜どこで何をしていた?」


 ……やっぱり、疑われている?


「夜は普通に寝ていましたが。それが?」

「本当か?」

(うそ)()く意味があるんですか?」


 受け答えは、おシズさん。美奈や柏木くんだと、上手に嘘を吐けないから。


「夜中にお前たちが出歩いているのを見た人がいる」

「それは(すご)い。あたしたちは部屋の中と外の両方にいたという訳ですか。

 その人が見たのは、間違いなくあたしたちだったんですか?」

「声を掛けてはいない。だが間違いないと言っている」


 本当に、見られていた? でも、周囲の〔泡〕には変化が無かったはずなのに。


「何を根拠に? その人が嘘を吐いていないとどのように証明します?」

「その人が嘘を吐く理由が無い」

「同じことです。あたしたちも、夜外を出歩く理由がありません」

「お前たちは、我が国にあまりいい印象を抱いていない。違うか?」

「違いません。けど、それとこれとは別の話です」

(いいや)同じことだ。お前たちが何かを企んでいないとも限らないからな」


 後になって、おシズさんが教えてくれた。見られていた、のではなく、見えなかったから決め打ちしてきたのだろう、って。だって、監視部屋から美奈たちの部屋が見えなくなっていたって言っても、監視していたこと自体美奈たちに秘密で、それを察知さ(さとら)れていることに気付いていない以上、それは何の証拠にもならないんだから。


「仮にそうだとして。それに何の問題が?」

「何だと?」

「あたしたちは、確かに王国にあまりいい印象を抱いていません。けれど、あたしたちがそういった感情を持つことを、〔契約〕は禁じていますか?」

「……(いいや)

「では仮に、その悪感情の果てに、王国に対して何らかの悪影響を及ぼす行動に出たとして、その行為は〔契約〕に禁じられていますか?」

「禁じてはいない。だが……」

「そして、万一あたしたちが何らかの、例えば今朝の騒ぎを起こした犯人だったとして、そのあたしたちを拘束したり、或いは処刑したりすることは、『〝魔王(サタン)〟討伐をサポートする』という〔契約〕の条項に(のっと)った行いだと言えますか?」

「しかし……」

「気付いていらっしゃいますか、エラン先生。先生の(ひたい)に、何やら(うっす)らと模様のようなものが見え始めていますよ?」


 美奈たちも吃驚(びっくり)して、エラン先生の顔を凝視(ぎょうし)しちゃった。確かに、そこには紋章のように見えなくもない、(あざ)のようなものが浮かびつつあった。


「それが、〝違約紋〟ですか。つまり〔契約魔法〕は、この(いわ)れの無い尋問こそが、〔契約〕違反に該当すると認識しつつある訳ですね。

 そういう訳で、〔契約〕を履行する為の準備を続けます。船が出るまであと30日ほどと聞いていますが、いつ風が変わるかわからない以上、10日前にはマーゲートに着いていないといけない訳ですよね? なら、移動時間を考えると、あと15日ほどしか無い訳ですから、しなきゃならないことはたくさんあるんです。これで失礼して構いませんか?」


◇◆◇ ◆◇◆


「今回の一件は、もう一つの実験でもあったんだ。〔契約魔法〕がどこまで有効か、という。

 エラン先生とあたしの会話。その最後の論法は、どう考えても詭弁(きべん)だ。けど、〔契約魔法〕はその詭弁を〝有効〟と判定した。これにより、王国はあたしらの違法行為に対して、未遂事犯に於いてしか対処出来ない、という事実が判明した」


 部屋に戻って、すぐに〔倉庫〕に入って。

 おシズさんは、エラン先生の尋問を受けた成果を報告したの。


「厳密には、未遂事犯並びに計画事犯、ですね?

 例えば窃盗や放火に関しては、厩舎の前で見張っていて現場を取り押さえるか、それとも計画段階で実行出来ないように監視の目を増やすか」


 武田くんが、おシズさんの言葉を補足した。


「髙月さん。監視員はどうなっています?」

「うん、今朝から一人増員されたよ。〔泡〕が付いていないから、新人さん?

 それから、天井裏に二人。こっちは二人とも〔泡〕が付いてるよ」


 ちなみに、美奈たちがエラン先生に尋問されている間、この部屋も色々調べられたみたい。〔泡〕が(いく)つも壊されてたし。


「あと、ドアの前に武装した衛兵さんが二人。この人たちは隠れてないから、美奈たちが扉を開けたらすぐに会えるよ?」

「客観的に見て、容疑者を軟禁している状態ですね」


 そうしたら、おシズさんが酷薄な笑みを浮かべた。


「これで、予定した状況が整った。では今夜、本命の宝物庫襲撃と行こうじゃないか」


 これだけ監視の目が厳しくなれば、逆に彼らが証人になってくれる。ばれ(にく)くなるっていう訳。


 一応、念の為「中庭へ練習に行きたい」ってドアの前の衛兵さんたちに行ったら、「今日は一日、部屋で大人しくしていてください」って言われちゃった。

 うん、そういう訳で、大人しくしていよう。

(2,993文字:2017/12/21初稿 2018/04/30投稿予約 2018/06/18 03:00掲載予定)

・ 松村雫さんたちの違法行為と〔契約〕内容は全く関係ありません。だから、これを王国関係者がフォローする理由はありません。けれど、それを未然に防ぐのならともかく既に為した行いを咎めたり罰したりすることは、(その内容にもよりますが)〔契約魔法〕が定めた〝フォローする〟という条項に背く行為と認定されます。

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