第39話 犯罪計画
第07節 反撃〔4/5〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
それからボクらの戦闘訓練は、魔法を織り交ぜて行うことになりました。
とは言っても、『付与魔法』を発動させての練習だと、(いくら〔再生魔法〕があるとは言え)あまり嬉しくありません。だから『付与魔法』は、どんなタイミングからでも発動させられるように、という練習になりました。
だからこそ、〔マルチプル・バブル〕を使った実戦練習が主体になったのですが。
松村さんは、〔泡〕を幾つか作り出し、敵の眼前に「見えない障害物」を置くことに集中しました。これにより、松村さんに斬りかかろうとすると、見えない〝何か〟にぶつかり、集中力を乱される、という訳です。
柏木くんも似たような使い方ですが、もう少し強い〔泡〕で、積極的に敵にぶつけに行きます。それで相手を倒すことなどは出来ませんが、それでも〔泡〕が弾けるときに、小さな衝撃を感じます。それで相手を怯ませるんです。
松村さんと柏木くんの、互角稽古では。〔泡〕の存在を知る柏木くんは、それゆえ注意力をそちらに持っていかれることなく、一方柏木くんの〔泡〕は物理的に作用することから、結構柏木くん有利に展開出来るようになりました。松村さんに言わせれば、「見えないのに自在に動くゴムボールが、目の前だの足元だのにウロチョロするのは鬱陶しい」とのこと。
ボクの〔泡〕は、戦闘補助には使えないので、専ら索敵専用。
飯塚くんは、周囲に大量の〔泡〕を生成することで、飛び道具から身を守りました。
圧巻だったのは、髙月さん。
飯塚くんと同様に防禦の〔泡〕を生み出すんですが、その数が半端じゃないみたい。
飛び道具は、逸れるどころか届かずに途中で落ちてしまいました。
松村さんの大刀も、その〔泡〕の空間では自在に振るうという訳にはいかず、思い通りの場所に振り下ろす事が出来ないと嘆いていました。
むしろ、柏木くんの長柄戦槌の方が、この空間では狙い通りの場所に打ち下ろせるようで、そのまま髙月さんに直撃することも。それでも、致命傷どころか「痛い」とさえ言わせない、その防御力(と言うよりも衝撃拡散能力)。髙月さんは、とんでもない魔法の使い手になってしまったようです。
◇◆◇ ◆◇◆
そんなこんなで、78日目。
雑談の最中に、ちょっと話題に上げてみました。別に言うほど重要なネタだとは自分でも思っていなかったのですけれど。
「そう言えば、ボクらには監視がついているんですよね? どんな人が、何人くらいついているんでしょう?」
「うんっとね? チームは8人体制みたい。今、っていうか、美奈たちが〔亜空間倉庫〕を開く直前は、壁の向こうの隠し部屋に2人待機しているよ?」
……当たり前のことのように、髙月さんがそう報告した。
その、不自然でしかない自然な回答に、松村さんがツッコミを入れた。
「美奈、なんでそんなこと知っているんだ?」
「この間ね? 直径2mmくらいの〔泡〕を作るのに成功したから、部屋の壁と床と天井に、無作為に〔泡〕をぶつけてみたの。ほら、この世界の建築物ってどうしても隙間が出来ちゃうでしょう? だからその隙間を抜けられるかな? って思って。
そうしたら、天井には屋根裏部屋みたいなところがあったし、壁の向こうには隠し部屋があったの。
だから次は、その隠し部屋の中に、直径2mくらいの〔泡〕を送り込んでみたんだよ」
「待て。ミリ単位の隙間から、どうやってメートル単位の〔泡〕を送り込める?」
「だって、〔泡〕は別に、掌から生み出されている物じゃないでしょう? だから、壁の向こう側に直接生成してみたの。けど、作ったと同時にすぐ割れちゃった。
だから少しずつサイズを小さくしたら、1.2mくらいの大きさなら〔泡〕を作れたよ? だけど、それもすぐ壊れちゃった。中にいた人にぶつかったみたい。
それで、今度は10cmくらいの〔泡〕をいっぱい作って、その隠し部屋に満たしてみたの。で、その〔泡〕の壊れ方で、隠し部屋にいる人数がわかったから、その次はもっと小さい、5cmくらいの〔泡〕を作って、でもこれに粘着性を持たせられないかな? って試したら、出来ちゃった。
今、隠し部屋の中にいる人は、その粘着型の〔泡〕を付けている人で、最近は〔泡〕を付けていない人は隠し部屋にも、天井裏にも来ていないから、〔泡〕を付けている8人が、美奈たちの監視役全員、って考えて間違いないと思う」
……どこまで。
髙月さんは、どこまで万能に〔泡〕を使い熟しているんだろう?
「それからね。このお城の構造も、大体わかったよ。お城の中を〔泡〕で満たして、でも一番壊れない時間帯も大体わかった。お城で悪いことをするんなら、その時が良いと思うよ?」
「では武田。お前が以前計画していた〝怪盗作戦〟。実行に移すか?」
「そうですね。〔倉庫〕内に納めてしまえば、もう見つかる心配はありませんけど、出発直前だと一発で怪しまれます。今ぐらいがちょうどいいかと」
松村さんが、ボクを悪事に誘いに来た。
「だが、監視の目をどう誤魔化す?」
「髙月さん、監視者の注意力が散漫になる時間帯、わかりますか?」
「うん。武田くんの時計で、深夜3時頃は、やっぱりうたた寝しているみたい。でもさすがに、ベッドから抜け出したら気づかれるよ?」
「その時は、風操りの〔コンシール〕で、音や気配が外に漏れないようにすればいい」
「なら美奈の〔泡〕も、密度を上げて音が伝わり難くするね?」
そんな、犯行計画を立てていると。
「だけど、それだけじゃ一手足りない。容疑者は、俺たちしかいないんだからな」
飯塚くんが、物言いをつけてきました。
「なら、どうするんです?」
「順番を変えるんだ。
最初に狙うのは、軍の備蓄庫と武器庫。そして厩舎。
ついこの間、横領事件があったばかりだ。そして、この国の司法体制じゃ本当に解決したのか確証はない。
複数回に分けて軍の物資を〔倉庫〕内に運び込む。勿論、この時疑われる状況になったらアウトだけどな。
そして、物資の員数が足りなくなれば。誰もがまた横領を連想するだろう。
そのタイミングで、城の宝物庫を襲撃する。
美奈。軍の施設の動きも監視出来るか?」
「大丈夫。簡単だよ?」
「なら、今夜から俺たちは強盗団になる」
「……せめて、怪盗団って言おうよ」
「否、待て。複数回の襲撃は、あまり意味がないだろう。それに、疑われるのなら疑われた方がいい。その〝疑惑〟が、本命の襲撃の容疑者から外すだろうからな」
飯塚くんの計画を、松村さんが修正して。そしてボクらの〝怪盗作戦〟が形になっていきました。
なお、ボクたちは〔亜空間倉庫〕の地下の封印を解くことにしました。
厩舎、畜舎、禽舎にする場所が必要になるからです。時間凍結させれば良いのなら、凍結庫に放り込めば良いけれど、少なくとも僕たちが〔倉庫〕内にいる時間で世話する事が出来れば、馬たちはゆっくり休めるし、乳牛はもしかしたらミルクが出るようになるかもしれません。鳥は卵を産むでしょう。ミルクも玉子もお肉も、新鮮な方が美味しいですから。
やっぱり、豊かな生活は、文字通りの生きる糧になるでしょう。
(2,954文字:2017/12/20初稿 2018/04/30投稿予約 2018/06/16 03:00掲載 2018/06/16衍字修正)
・ 〔泡〕は、物理衝撃には極めて弱いです(第36話で語った通り、ある程度の強化は出来ますが)。その一方で、魔法に対する耐性はかなり強いのです。「破壊」を目的とする攻撃魔法に対しては物理衝撃と同程度の耐性しか有りませんが、〔泡〕同士がどれだけ密集していても、その圧力で割れることはなく、また隣接している〔泡〕が割れた時、その衝撃で割れるという事もありません。




