第38話 ミーティング・3 ~付与魔法~
第07節 反撃〔3/5〕
◇◆◇ 宏 ◆◇◆
髙月のアイディアで生まれた索敵魔法、〔センサー・バブル〕。これ、思った以上に使い勝手が良い。
はじめは全周警戒を前提としていたから、あまり使えないと思っていたけど、作り出す〔泡〕を一つ二つに限定すれば、その動きもある程度操作出来る。そしてその強度も、風が揺らぐだけで割れる程度の弱いモノから、女子が力を籠めたら割れるくらいのものまで、多様に作れる。
「女子が力を籠めたら割れる」というのは、貧弱なように思えるが、とんでもない。しかも、数を作れるのだ。もしその強度で、数十・数百の単位で生成出来れば、索敵どころか防禦にも使える。高所からの落下時にクッションにも出来るし、相手の飛び道具を逸らすことも出来る。しかも、術者以外には不可視だから交戦中に敵を攪乱することも出来るだろう。〝センサー〟どころか、多用途過ぎる。
さすがに発案者だからか、髙月が一番多くの〔泡〕を生み出せるし、多様な強度の〔泡〕を作れる。操作出来る距離も一番だ。
武田は、強度的には弱いモノしか作れないようだが、細かく操作出来また遠くまで操作出来る。
飯塚は、数も強度もある程度自在に作れるけど、操作出来る距離が短い。
松村は、はじめから索敵に使うことを放棄して、ある程度以上の強度の〔泡〕を攪乱で使うことにしたようだ。
オレ? オレも細かいことは苦手。だから、思いっきり強い〔泡〕を一つだけ作り出し、それをぶつけ、或いは弾くことで相手を怯ませる使い方を選んだ。
……そうしたら、髙月がオレの作り出した〔泡〕にシーツをかぶせ、幽霊ごっこ始めたけれど。なんだかなぁ。って、オイ!
「〔泡〕に、物を載せられるのか?」
「……(指差しながら)シーツ、載ってるよ?」
「なら、〔泡〕に人間も乗れる、のか?」
恐る恐る、そう問いかけた。オレの疑問の意味がわかったのか、他の三人も固唾を飲んで、髙月の回答を待つ。
髙月だけはその意味がわからなかったのか、ちょっと首を捻り、それから自分の寝床に戻り、ベッドカバーを引っ張ってきた。
そして、大量の〔泡〕を作って片端からベッドカバーの中に入れ。
「うん、乗れるね」
と、なおその意味を理解せずにそう宣った。
すると松村が。
「美奈。そのまま〔泡〕を浮かせてみてくれないか?」
と言った。
「うん。これで良い?」
だから、何故自分が今やっていることの意味がわからないんだ、この天然娘は!
「これも一種の飛行魔法だよな?」
「フライング・カーペット、ならぬ、フライング・ベッド、ってところですか?」
「フラ●スベッドが商標権侵害で訴えてきそうだな」
飯塚と武田が現実逃避したくなる気持ちもよくわかる。それにしても、万能過ぎるだろう、これは?
とはいえその結果。〔センサー・バブル〕と名付けられたこの魔法は、名付けから数時間(外界時間一瞬未満)で、〔マルチプル・バブル〕と改名されることになった。
……やっぱり、オレたちの中で一番の規格外は髙月か。
◇◆◇ ◆◇◆
取り敢えず、〔マルチプル・バブル〕の魔法は今後、応用範囲を検証しようという事で、ミーティングを続けることになった。
と、言っている傍から直径10cmくらいの〔泡〕をたくさん作ってカバーに入れて、一人贅沢クッションを作ってその上に座っている天然娘もいるが、無視する。飯塚に対して、直径2mm程度の〔泡〕を満載した「人を駄目にするクッションを作りたい」なんてほざいているようだが、無視だ無視。
「で、もう一つ検討すべきは、攻撃魔法だ。
あの、〔火弾〕は有効だった。同じような魔法のバリエーションって、何かあるか?」
「まぁ順当に、〔赤熱〕と〔帯電〕があるよな。
この二つは、柏木や松村のような前衛職にこそ有効だが、使い分ける必要があると思う。
例えば、〔赤熱〕は殺傷力がかなり高くなる。その一方でこの世界の鉄は質が悪いから、〔赤熱〕させるとその分刃が脆くなる。
また〔帯電〕は、対人戦に於いては剣で打ち合うだけでも効果が出るから応用範囲が広い一方で、魔物に対しては必ず効果があるとは言い切れないだろう」
オレの言葉に、飯塚。どちらにしても、殺傷力がかなり高くなるから、対人戦に於いては使い時を考える必要があるだろうな。
と、そんなとき武田が口を開いた。
「さっきの索敵魔法でもアイディアとして考えていたんですが、一つは〔振動〕。これは、特に柏木くんの戦槌系の武器に付与するのが良いと思います」
「成程。だけど、〔振動〕が何故索敵魔法と関わりがある?」
「そもそも〔エコー・ロケーション〕は空気の振動波ですよ。
そして、電気の振動波というべきものが、〝電波〟。正しくは〝電磁波〟ですが。勿論、おおざっぱな考えですから、実際は研究が必要ですし、〔マルチプル・バブル〕のように直感で完成させることは難しいと思います。
けど。それが使えれば、〝レーダー〟を実現出来ますし、〔マルチプル・バブル〕で作った壁の内側で強力な〝電磁波〟を乱反射させれば、電子レンジになるでしょう」
それは確かに、夢が広がる。けど、それもまた将来の話。
「そうなると、現在使えるのは、〔火弾〕〔赤熱〕〔帯電〕〔振動〕の四つか」
「そうですね。基本〔火弾〕と〔赤熱〕は同じ魔法ですが、発射前の矢弾に〔赤熱〕をかけるのは危険です。ましてや投擲紐にセットしている石にかけたら、スリングが燃えます。一方、発射後のクォレルに〔火弾〕をかけるのは、クォレルの飛翔速度が速過ぎて難しいでしょう。
対して、〔帯電〕や〔振動〕は、発射前のクォレルにかけても問題はないでしょう。〔振動〕をかけたら射程や命中率が下がりそうですが、その分物理破壊効果は上がるでしょう。
ボクの微塵の場合、総金属製ですから、〔赤熱〕〔帯電〕〔振動〕のどれも付与可能です。かなり極悪になりますね。
飯塚くんの戦闘投網は、鋼線を編み込んでおけば、〔帯電〕をかけるとこちらも極悪仕様になります。
あと、柏木くんのクボタン。ボクのタクティカルペンもですが、〔振動〕をかけると凄いことになりそうですね。
ボクらに、派手な魔法は必要ありません。エラン先生の目もあることですし。
付与魔法中心に、攻撃を組み立てるべきではないでしょうか」
(2,647文字:2017/12/20初稿 2018/04/30投稿予約 2018/06/14 03:00掲載予定)
・ 髙月美奈さんは、後にミクロン単位の〔泡〕を石鹸水に混ぜて掃除や洗顔をするという方法を編み出したとか。




