第37話 ミーティング・3 ~防禦と索敵~
第07節 反撃〔2/5〕
◇◆◇ 翔 ◆◇◆
先日の追撃行で、俺たちのパーティの特質と問題点が明らかになった。
まず絶対的な〝チート〟が、〔亜空間倉庫〕の存在。ただ、これには「五人全員で念じる」ことが条件になる。つまり、誰か一人でも殺されたり、失神したり、或いは〔倉庫〕に意識を配れない状況になれば、俺たちは途端にどこにでもいる只の高校生に戻ってしまうという訳だ。
だからこそ防禦と索敵は重要になる。
「俺たちは行動の自由さを優先して、厚革製の胸鎧と手甲と脛当てを防具にしていたけど、全身鎧でも問題は無いんだよな。普段は胸鎧で、戦闘開始と同時に〔倉庫〕を開いて着替える、ってすれば」
「外から見ると、戦闘開始と同時に変身する訳ですね。女子はそれで良いとしても、ボクら男子はどうでしょう? ビジュアル的に視聴者は喜びませんよ?」
「武田、何の話をしている?」
「いえ、戦闘シーンに変身はお約束でしょ? そして、何故変身中に敵が攻撃してこないのか不思議でしたけど、そこが〔倉庫〕内だから、と考えれば辻褄が合います。外の世界では一瞬しか経過していなかったんですね」
「だからアニメと一緒にするな。というか、〔倉庫〕にカメラを持ち込まれたら、あたしは問答無用で叩き壊すぞ」
「そうだよ、武田くん。それに、アニメのひらひら衣装じゃ防御力はないし、甲冑着込んだら視聴者さんたちがっかりしちゃうよ?」
「まだまだ甘いですね、髙月さんは。世間には、『甲冑少女』っていうジャンルもあるんですよ?」
「へぇ、そうなんだ?」
「……美奈。その〝世間〟は、18禁同人誌の世界だ。俺たち一般高校生の踏み込んでいい世界じゃない」
「ってか、オレたちが『一般高校生』って、既にラノベの主人公バリに看板詐欺になっているよな」
「だから、話を脱線させるな! いくら〔倉庫〕の中では時間が無限にあるといっても、あたしの忍耐力には限りがあるぞ!」
はい、すみません。
「ともかくだ。甲冑を着込むのは一つのアイディアだろうけど、あたしは遠慮したい。
……否、ビジュアルの話じゃなく、あたしの戦闘スタイルは動きで翻弄するタイプだからな」
「逆に、オレはそれを考えた方がいいな。どうせ松村みたいに素早く動ける訳じゃないんだから、多少の被弾はものともしない防御力、っていうのは、おそらく必要だ。それに、〔倉庫〕がある以上、一回の戦闘で体力を使い果たしても問題はないだろうし」
「ボクら後衛職も、一定の防御力は必要ですね。というか、固定砲台な訳ですから、全周を防壁で囲んだ、戦車を用意してもいいくらいです。で、連射式の弩砲を使えば、かなりの攻撃力になります。
けど、それをボクらの手だけで用意することは出来ません。そしてその技術は、明らかにこの国に伝わり、『戦争』に応用されることになりますから、あまり嬉しくありません。
なら、間を取って全員鎖帷子を用意し、柏木くんの甲冑は東大陸に上陸してから調達する、という形で今は済ませた方がいいでしょう」
と、武田。結局防御力の強化は、事実上保留という事になる訳か。
「そして、日常、というか移動中の防禦は、鎧に頼るより索敵に力を注ぐべきです。つまり、魔法に」
索敵魔法。確かにその方が有効かもしれない。
「今、ボクらが索敵に使える魔法は、〔エコー・ロケーション〕があります。けど、これは進行方向にある物を察知するのには有効ですが、全周警戒には不向きです。それに、索敵距離も。
本来なら、警戒線を引く方法があればいいんですけれどね」
「アラート・ラインって?」
「要するに、敵が一定の距離に近付いたら警報が鳴るシステムです。ただこれは、自分が動くときには使えませんけど」
「別に、音で知らせる必要はないんだよね? なら、自分の周りに膜の脆いシャボン玉みたいに魔力を満たして、何かが近付いたらその膜が破れるからわかる、みたいなのは?」
「その場合、何かが距離を割ったことはわかりますが、どの方向から接近しているのかはわかりません」
「なら、泡みたいにたくさんのシャボンで周囲を満たしたら? 一つのシャボンが割れても他のシャボンは無事だから、方向もわかるし進路もわかるんじゃない?」
「でも、魔法で泡を作れるのか、というのが問題の第一点。第二点は自分たちの動きにそのシャボンの層が追従してくれるのか」
美奈と武田の会話を聞いて、ちょっと面白いと思う。武田は常識的なラインから出来そうなものを探し、美奈は実現可能性なんか全部すっ飛ばしてアイディアを出す。
けど逆に言えば、武田の問題は現状出来ることの延長でしかなく、そこにブレイク・スルーはない。一方で美奈のはそもそも、そのアイディアが出て来なければ検討も出来ないけれど、そのアイディアが実現するかは技術と魔法の出力次第ということになる。
「第一点はともかく、第二点については、科学技術的に考えたら追従は難しいかもしれないけれど、魔法的に考えたら、それほど難しくはないんじゃないか? そもそも魔法は術者から離れれば、それだけ力は減衰する訳だから。重要なのは、その魔法が発動した瞬間の位置じゃなく、魔法が効果を及ぼしている間の術者との距離だろう?」
だから俺も、美奈のアイディアに乗ってみた。その「魔法の泡」が常に生滅を繰り返す、と考えれば、術者の移動に伴い距離が開いた泡は自動的に消滅するだろうし。ただ、この魔法。ちょっと考えただけでも物凄い魔力量を消費しそうだ。
「そうか。そして自然消滅は無視して、外部の力による破壊だけに意識を割けばいいのか。そしてシャボンの強度も、空気が揺らいだだけで割れる程度の弱いモノから、ちょっとの力じゃ割れない強度の物まで混ぜておけば、どのシャボンが割れたかで相手の力も大体わかるし」
松村のアイディア。そうすればかなり有用性が高くなるけど、やっぱり面倒が多そうだ。
「だけどよぉ、その〝泡〟をどうやって作るんだ? 風と水、か?」
「え? どうして柏木くんは四大属性にこだわるの? ただの力場でいいじゃない?」
! 本当に、美奈の発想は凄い。「四大属性は天動説」って言っていながら、俺たちはそのことに囚われていた。
「つまり、無属性か。純粋な魔力でモノを動かせるのなら、逆に動かないように固定することも出来るはず。イライザ姫に読んでもらった魔法の書に〔状態保存〕っていう魔法もあったな」
「うん。それで美奈たちの『状況を知りたい』っていう〝意思〟を〝保存〟して、周囲に放流するの。〝保存〟する為の力は最小限でいい。それこそ、おシズさんの言ったように、その力に大小を使い分ければ、その〝泡〟を弾いた力の大きさもわかるだろうし」
「……その魔法。全周警戒に使うには、コツが要りそうだな。魔法技術、というよりも、練習が。
だけど、〝泡〟の数や放流する方向を限定すれば、今すぐにでも使えそうだ」
そして、〔倉庫〕の中で俺たちは。新開発の索敵魔法〔センサー・バブル〕の練習を始めたのであった。
(2,927文字:2017/12/20初稿 2018/04/30投稿予約 2018/06/12 03:00掲載 2019/04/22誤字修正)
【注:「甲冑少女」は、実在の18禁同人誌サークルの名称を元ネタにしています】




