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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第八章:正義の御旗は、自分のその手で掲げましょう
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第51話 最終決戦

第08節 そして、新しい時代へ〔4/6〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 セレーネ軍以下同盟軍五万の兵にとって。

 この『魔王戦争』の最終戦となる、『アザリア聖都決戦』は。

 誰も想像しない形で、それは始まったの。


 城塞都市攻囲戦。

 細かな問題はあるけれど、究極的には壁を乗り越えるか、市門を突破するか。

 しかも、市門の周囲に水濠(みずぼり)を巡らしている以上、濠を埋めるか自前で橋を架けるか、或いは特殊部隊を送り込んで跳ね橋を降ろすか。

 そういった形での攻撃が主となり、後は細かな奇策が無数に(ろう)される、というのが通常の展開。間違っても、攻囲側が空から爆弾を投下したり、籠城(ろうじょう)側が市内で祭りでバカ騒ぎしたりするのを「普通の展開」とは言わないの。


 そして、籠城側が門を開けたり橋を降ろしたりすることは、奇策の一手としてあり得るの。門を閉じたままだと、市壁の上から投石や弓射といった攻撃しか出来ず、与えられる被害は小さくそれが決定打になることはなく、それ以外だと攻囲側の攻撃に対処する形でしか反撃出来ないから。出戦(でいくさ)をするはずがない、という攻囲側の先入観に付け込んで、攻囲側に大打撃を与える、という選択肢も、当然ある。


 だから、この日。

 美奈たちにとっては、この世界に来てから、第1,096日目。四年目の第一日目。

 日の出と同時に、聖都の南大門(せいもん)が開き跳ね橋が降りた時、聖堂騎士団の突撃を警戒したのは、当然のことだったんだよ?


◇◆◇ ◆◇◆


 橋が降り、門が開き。その門の両脇に、旗が掲げられていたの。

 一瞬、それは白旗に見えた。


 けど、それなら市壁の上に掲げられない理由がわからない。

 けど、それならアザリア教国旗が下ろされない理由がわからない。

 市壁の上には、変わらずアザリア教国旗が(ひるが)っているんだから。


 でも、よく見ると、それは白旗じゃなかった。

 それは、赤十字旗。


 つまり、この正門を守る兵たちは、「現教皇・ジョージ四世にも、それに異を唱えるセレーネ姫にも、どちらにも(くみ)しない。勝者に従う代わりに、父娘(おやこ)喧嘩(げんか)に自分たちを巻き込むな」と、主張しているってこと。

 昨日の夜の、おシズさんとベルダの仕込みが、想像以上に効果を発揮したみたい。


 ちょっと可笑(おか)しく思いながら、でも彼らがそう望むなら、それは美奈たちの願いでもあるから。この時点で、ジョージ四世と美奈たち、〝神に仇なす者(サタン)〟と〝サタンを討つ為に異世界から召喚された者〟の二元対立で、この一連の戦争に決着をつけられる舞台が整ったの。

 最後の戦いの敗者は、〝精霊神の定める秩序に(そむ)く者〟と市民は断ずるでしょう。既に立会人となった、リングダッド・スイザリア・キャメロンの三国と、アザリア教国の民は、その事実を広く知らしめるでしょう。


 だから美奈たちは。赤十字旗に導かれるように、聖都に入市した。

 町並みには、其処(そこ)彼処(かしこ)に赤十字旗が(ひるがえ)り。

 中にはシーツに食紅(しょくべに)か何かで十字を書いただけの、適当な物もあったけど、それに込められた意思は、明白だった。


 市内の大半の家屋・施設で赤十字旗が掲げられている以上。

 美奈たちはマナーとして、剣を(さや)に納めることにした。今、目の前に〝敵〟がいない以上、臨戦態勢でいる必要はないから。


 そのまま進み、聖堂前の広場に。ここは、新年などで教皇猊下が演説をする際、十万を超える市民が集まることを想定されて作られた、広場。


 その向こう側に。

 当然ながら、アザリア神旗を掲げた、聖堂騎士団と神殿兵たちが整列していた。


 そして、広場の両脇には。

 武装し、そしてセレーネ姫様の旗幟(きし)を掲げた、やはり神殿兵がそこにいたの。


◇◆◇ ◆◇◆


 状況は、事実上の一騎討ち。

 両軍ともに。物資と兵力の全てを叩きつける総力戦じゃなく、むしろ双方の精兵のみが進み出て、その戦闘で雌雄を決するというのが、黙示された作法。


 先方の聖堂騎士たちは、要するにジョージ四世の代理人。

 対するこちらの戦士たちは、セレーネ姫の代理人。


 少数がこの戦場で、立会人たちの前で正々堂々と戦い、その勝者こそがこのあとの舵取(かじと)りをする。そういう仕儀、ということ。


 何となく、ルールが定められ。五対五の星取戦ということになったみたい。

 勿論(もちろん)、三本先取したからって決着となるとは断言出来ないでしょうけれど。


◇◆◇ ◆◇◆


 先鋒は、向こうは重鎧に身を固めた、騎士。

 こちらは、柏木くん。


 地味に、柏木くんがあの槍斧(バルディッシュ)を使う、初めての対人戦。

 だけど結局は、装備の差で勝負がついたみたい。

 向こうの攻撃は、ドレイク王国から儀仗(ぎじょう)として贈られた鎧に弾かれ、こちらからの攻撃は、向こうの鎧を紙のように、とまではいかないけれど、プラスチックのように打ち砕いた。

 「『バルディッシュ』を使って、殺さないように戦うのは、結構苦労した」とは、対戦相手に聞かれちゃいけない、柏木くんのコメントなんだよ?


 次鋒戦は、向こうは暗殺者のような恰好をした、騎士(?)

 こちらは、ソニア。


 ソニア得意の方天(ほうてん)画戟(がげき)を振り回し、だけど相手は短剣を使い(たく)みにその間合いの内側に入り。

 方天画戟では反応出来ないほどの至近距離から短剣を突きつけられたソニアは、しかし。

 おシズさんから学んだ柔術の(わざ)で相手の短剣を持つ腕を(から)め捕り、立ち関節に持ち込んでギブアップを勝ち取ったの。

 「一つの武器に固執している時点で、暗殺者としては三流です」とは、ソニアの評。


 中堅戦は、おシズさん。

 向こうは軽鎧を着た、多彩な技で相手を翻弄(ほんろう)するタイプみたい。

 だけど(わざ)の多彩さなら、スポーツとして成立して数百年の日本武道の方がはるかに上。おシズさんは、相手に無用な怪我(けが)をさせないように手加減したまま無力化することを考えられる程度には、余裕があったみたい。


 副将戦は、なんと武田くん。「殺しても構わない戦いなら、武田が最強だ」という柏木くんの推薦で、参陣。

 そして相手は、リトル・マーリン(元)魔術師長だった。


「お久しぶり、と言うべきですか?」

「今更挨拶など不要だ。私の不手際で貴様らを増長させた、その引導をこの手で渡してくれる」


 リトル魔術師長は、見覚えのある水晶玉(オーブ)(かざ)した。それは、リングダッド兵と戦った中鬼(ホブゴブリン)を従えていたという魔術師が持っていた物と、よく似ていた。

 そして、出てきたのは一つ目巨人(サイクロプス)

 けど、もう。武田くん相手に〔魔物(モンスター・)支配(テイミング)〕の魔法で競うのは、ただの時間の無駄。既にリングダッド兵から渡された水晶玉(オーブ)と、カランのゴブリンたちを支配していた魔力波長で、それに干渉し上書きする波長の調整を終わっていたのだから。


「な、何だと!」


 サイクロプスは、後ろからリトル魔術師長の上半身を粉砕し、そのまま去っていった。


 最後の、大将戦。

 向こうは聖堂騎士団総団長。白銀の鎧を身に(まと)い、剣聖とか英雄とか言われる美丈夫だった。

 対するこちらはショウくん。贔屓(ひいき)目に見ても、手にある(ロンギヌス)を支えるその姿勢はへっぴり腰。

 だけど、ショウくんははじめから槍で戦うつもりなんか、無かったみたい。


 合図と同時に、手の中にある12.7mm×99mmの弾丸に慣性を与え、超音速で騎士団長の頭部に撃ち出した。

 騎士団長は、何をされたかわからない一瞬で、絶命したの。

(2,831文字:2019/08/05初稿 2020/02/29投稿予約 2020/04/18 03:00掲載予定)

・ ソニアは、相手に合わせて武器を苦無(くない)に持ち替えることも出来ましたが、敢えて方天画戟で戦うことで、相手に「こいつは近接戦が苦手だ」と思わせたのです。それが出来るのが、独立騎士(オールマイティ)

・ リトル魔術師長は、廃都カナンの魔物(タギ=リッチー)から、『魔物支配のオーブ』を貰いました。それを使えば、けれど何故魔物を支配出来るのか。リトル・マーリン卿は結局、その答えに行き当たりませんでした。そしてだからこそ、自分以外の誰かがその答えに行き着くことを、想像さえ出来なかったんです。

・ 聖堂騎士団総団長は、〝誓約の首輪〟をしていない、生粋の教国高位神官家の出身です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 騎士団総団長…ェ… セリフどころか名前すらなく、問答無用で頭部を吹っ飛ばされた騎士団総団長が哀れでなりません(笑) 12.7mmをもろぐらいしたら、痛みを感じる暇すらなく頭が無くなっただ…
[良い点]  一騎討ちシーンを巻きで終わらせたこと? [一言] > 籠城側が市内で祭りでバカ騒ぎしたりするのを「普通の展開」とは言わないの。  そんなバカな事する市があるわけないだろー(白目) > …
[良い点] あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 騎士団長の戦いが始まったと思ったら終わっていた……(以下略)
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