表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第一章:契約は慎重に結びましょう
36/382

第34話 天才少女の敗北

第06節 法の支配と力の世界〔5/6〕

◆◇◆ ◇◆◇


 男は、その瞬間我が目を疑った。


 (クロスボウ)という武器は、その構造的に初撃必殺が宿命付けられている。

 外れたら二発目のチャンスが無い為、一発目で確実に仕留めなければならない。だから男の仲間たちは王国から派遣されてきた連中の不意を突き、一気に撃ち込んだ。

 一本は、おそらく雑用に連れてきているのだろう、少女の脚に命中し、

 二本は、馬に刺さり少年一人を振り落とした。

 残り二本は外れたが、三発命中は及第点と言えるだろう。

 命中した一人の少女は、脚を撃ち抜かれまた落馬した衝撃で(うめ)いており、一人の少年が少女に向かって走り出す。絶好の標的(マト)だ。

 だから遠慮なく、予備に控えていたもう一基のクロスボウを、男に背を見せて走る少年に向けて撃ち込んだ。


 だが、次の瞬間。


 倒れ伏して(うめ)いているはずの少女と走っていたはずの少年が、場所を入れ替えていた。

 飛翔する矢弾(クォレル)の狙う先には、透明の薄い板(楯?)を構えた少女がいて、

 倒れ伏して呻いているはずの少女のいた場所には、クロスボウを構える少年がいた。

 そして、少女の構えた小さな楯は、あっけないほど簡単にクォレルを弾き飛ばし、そして。


「10!」


 少女が、元気よくそう叫んだのだ。


◆◇◆ ◇◆◇


 エランも、その瞬間何が起こったのかわからなかった一人である。


 ミナが撃たれた。それを見たショウが動転してミナの(もと)に駆け寄ったのも、視界の端に(とら)えていた。

 二人の微笑ましい様子に、しかし、戦士としては落第だ、と評価して、切り捨てた。

 おそらく、ショウはここで死ぬ。他の連中は逃げられるかもしれないが、ミナは逃げられない。そのまま死ぬか、死ぬまでの時間女に生まれたことを後悔することになるか。(いや)、死んだとしても、その屈辱(くつじょく)から逃れられるとは限らない。昔エランと共に旅したある(・・)男は、死んで冷たくなった女を抱くことが何よりキモチイイ、という性癖(せいへき)の持ち主だった。そういう趣味の男が他にいないとも限らない。


 しかし。

 後ろから、クォレルが弾かれる乾いた音が響くと同時に、


「10!」


 という、ミナの元気な声が響いた。


 更に同時に。

 既に走り出していたエランを、シズとヒロがあっさりと追い抜いて走り去っていった。


 この少年少女は、一体何者だ?


 国王陛下と宮廷魔術師長が、〝魔王〟を討つ為に異世界から呼んだという、五人の少年少女。その正体に疑問を持ったのは、エランにとってこの瞬間が最初だった。


◇◆◇ 雫 ◆◇◆


「10!」


 美菜のコールを聞きながら、あたしと柏木はエラン先生を追い抜いた。

 そして、その勢いそのまま(てき)の中に斬り込んだ。


 賊は、あたしたちの進路を半円を描くように(ふさ)いでいる。全部で13人。

 うち、左側の五人は無視する。そのうちの一人が美奈を撃った男だという事も踏まえて、飯塚と武田の獲物だ。

 だからあたしと柏木は、右側八人と左側五人を分断するように斬り込み、そして右側八人を相手に大刀と長柄(ポール)戦槌(ハンマー)を振るう。


 エラン先生は、あたしは(わざ)に頼り過ぎている、と指摘した。また柏木は大雑把過ぎる、と。

 だけど色々考えて、それらの欠点を矯正(きょうせい)することは()めた。

 代わりにあたしと柏木は、二人一組(ツー・マン・セル)で行動し、互いの背中と、互いの(すき)を守る。

 あたしの小技で敵を崩し、柏木の大技で(とど)めを刺す。

 柏木の大技で敵を翻弄(ほんろう)し、あたしの業で急所を貫く。

 それが、先生の指導を受けた上で、あたしたちの出した答えだった。


 賊は、金属製の軽鎧に、よく手入れされている騎士剣。どうやら王国の制式武装らしい。中には楯持ちもいる。が、楯持ちに対し、大刀(薙刀(なぎなた))は有利だ。何故なら、楯で守るという意識が薄い、(すね)を攻撃する為の技が多彩に存在するからだ。


 そして長柄戦槌もまた。

 美奈が持つ、レニガードのように透明な楯ならともかく、通常の楯ではその楯自体が視界を奪う。が、長柄戦槌ははじめから、防禦(ぼうぎょ)の上から打撃を与え、その衝撃でダメージを与えることを想定しており、楯は巨大な標的に過ぎないのだ。


 最初の一撃は、飯塚の放ったクォレルだった。文字通り美奈の(かたき)を討つ(注:死んでない)勢いで、その矢弾は賊の喉元(のどもと)に吸い込まれていった。

 直後、柏木の一撃。これは回避されたが、予定通り敵を分断出来た。

 そしてあたしは右側の八人の中に飛び込み、大刀を振るう! 一対多は、あたしの最も得意とする戦況。ましてや背中を任せられる頼もしい相棒(バディ)もいる。()ぎ、打ち()え、突き、また防ぎ。我ながら獅子奮迅の動きをして、八人の賊と(わた)り合う。


 左側の五人も、事実上ただの作業になり果てた。飯塚のアイディアで投石に〔赤熱〕をかけた、命名〔火弾〕。武田の投擲紐(スリング)は命中率が高いとは言えなかったが、(かす)めただけでもダメージは極悪で、()らった賊が悶絶(もんぜつ)した。

 飯塚のクロスボウも、四回発射しただけで、敵を掃滅したのだった。


◇◆◇ ◆◇◆


 終わってみれば、敵の死者5名(柏木1、飯塚3、エラン1)、負傷者8名。

 負傷者のうち武田の〔火弾〕の直撃を受けた一人は重傷で、息絶えるまで時間の問題だった。


 そして、残りの7名に対して、エラン先生が一定の尋問した後。


「ならもう、用はないな。

 シズ。こいつらに引導を渡してやれ」


 そう、言った。


◇◆◇ ◆◇◆


「え? 連行して、〝裁判〟するんじゃないんですか?」

「〝裁判〟? あぁ、罪を問うのか、という事か。問うまでもなく、こいつらの末路は『死』しかない。ならこの場で殺した方が、面倒が少ない」

「面倒って、でも何かの間違いの可能性もあるじゃないですか。なら改めてちゃんと調べないと……」

「何の為に? 町の外で人が一人いなくなる。そんなことはよくあることだ。その理由をわざわざ追求するか? もしかしたら、魔物の腹の中にいるかもしれないのに? 莫迦バカしい。

 もし間違いで、こいつらが横領脱走兵と無関係だったとしても、こいつらが俺たちを襲撃したことには変わりはない。そしてその場合、本物の横領脱走兵はもう捕縛不可能だろう。なら結果は同じだ。取り敢えず、こいつらを殺して、この事件は終わりになる。わかったらサッサと()れ」


 納得は出来ない。けど、理解は出来た。それが、この世界の「当たり前」なのだと。

 でも。


 あたしには、無理だ。


 あたしには、人を殺せない。


 美奈は、ある意味あたしたちの中で一番強い。あの時「援助交際」に(たと)えて言ったが、美奈は飯塚の為なら人の10人や10億人、笑って殺せるだろう。

 男子三人も程度の差こそあれ同じだ。自分の大切なものと引き換えなら、人殺しも辞さない。


 でも、あたしには。

 殺してでも、守りたいものを持っていない。

 殺してでも、手に入れたい望みもない。


 あの日。あたしらがこの世界に来ることになった日に、教室で武田が言ったとおりだ。

 あたしには、『必死になる』モノがない。だから。


 仮令(たとえ)、自分の命と引き換えでも、人の命を奪うことは出来ないだろう。


 それは、あたしの。


 譬えようもない、弱さだ。

(2,984文字:2017/12/18初稿 2018/04/30投稿予約 2018/06/06 03:00掲載予定)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「仮令たとえ、自分の命と引き換えでも、人の命を奪うことは出来ないだろう。」 好きな人が、目の前で殺されても、言えるのかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ