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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第八章:正義の御旗は、自分のその手で掲げましょう
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第30話 C³I《シー・キューブド・アイ》

第05節 現代戦〔4/6〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 第1,022日目。

 前夜に聖堂騎士団が戦場に到着し、そして朝、開戦となったの。

 だけど武田くんが準備した今回の戦術。というより、〝戦争〟の概念。これは、この世界の誰も考えることさえ出来なかったものだって断言出来る。

 ショウくんがリングダッドの一連の戦争で行った〝戦争〟が、中世から前近代までの戦争の究極(きゅうきょく)だというのなら。

 武田くんのデザインする〝戦争〟は、二次大戦()の戦争そのもの。アドルフ陛下でさえ真似することは出来ない、本物の現代戦だったの。


 まず、大本営〝機動(ドレッド)要塞(ノート)〟に、4m×2mの大きな紙に書かれた戦場地図を広げ。そこに敵味方を()した駒を置いたの。

 そして、周囲に展開した〔報道(マスメディア)〕のモニター画面が、実に23枚。空中と塹壕(ざんごう)内の複数箇所にそれを設置し、リアルタイムでモニターして。

 更には双方向通信を可能にした、音響用の〔泡〕の魔道具(垂れ流しではなく、ボタンを(プッシュ)押した時だけ(・トゥ・)話せる(トーク))を、各部隊と上空を遊弋(ゆうよく)する有翼騎士(メイド)さんたちに配付して。

 そして美奈たちは、それらの情報を整理して、検討して、そして適切に各部隊に伝達するということがその主任務になったの。


 「指揮(Command)」・「統制(Control)」・「(Communi)(cation)」・「(Intelli)(gence)」。これを一括処理するシステムは、通称「C³Iシー・キューブド・アイ」、C³Iシステムを運用する現代戦の戦闘指揮所は、「CIC」(Command Information Center)と言われるの。厳密には、二十一世紀にはC³Iに「分析(Computing)」と「相互(Intero)運用性(perability)」(「戦術データリンク」とも()う)が加わって、「C⁴I²シー・クォドルプル・アイ・トワィス」と謂うそうだけど、さすがに残りの二つは再現不可能だから。

 近代以前でも、狼煙(のろし)やラッパ、伝令兵などで通信と情報を管理し、一括指揮することはしていたけれど、どうしてもリアルタイム情報じゃないから、現場の裁量に委ねられる部分が大きかったんだって。実際、『チャークラ夏祭り』でも、前線指揮官への情報伝達は、前夜の布陣情報が前提で、リアルタイム情報はソニアの目視情報と城壁の監視塔からのものだったから。だけど『夏祭り』の運用で、その精度もまた魔道具化した時の運用負担も、実用レベルになったことから、今回一斉投入するに至ったって訳。


 だけど、武田くんの〔報道(マスメディア)〕の情報は、定点情報。そして有翼騎士(メイド)たちの対地飛翔速度は速過ぎるから、リアルタイム映像だと余計混乱するということで、ソニア他三人にスマホを渡し、記録映像で1時間ごとに〔倉庫〕内で分析処理(Computing)することにしたの。

 また、〔報道(マスメディア)〕の死角になる場所(ざんごうない)での、敵の行動把握と味方の誘導は、美奈の〔泡〕の仕事。でも、〔報道(マスメディア)〕が視覚情報で大きく提供してくれているから、〔泡〕はピンポイントで済むようになっている。


◇◆◇ ◆◇◆


 塹壕戦で使用される武器は、(クロスボウ)。だけど、魔法による攻撃も無視出来ない。はずだったの。だけど、武田くんはそれを、あっさり無意味化(無力化、でさえない)しちゃったの。


 武田くんは言ったの。「物理科学、自然現象を模倣(エミュレート)した程度の魔法は、怖れる必要はありません。物理科学、自然現象への理解が不十分だから、必ず矛盾が生じます。その矛盾を認識しさえすれば、その魔法それ自体が効果を発揮しなくなるんです」って。

 例えば、火属性の魔法。「火」が存在する為には、「可燃物」「酸素」「発火温度」の三つが必要になるけど。それを知らない人が魔法で「火」を起こしたら。その三つのうちのどれか、或いは全部が欠けた「火」になる。それは、星幽(アストラル)界では存在出来ても、物質(マテリアル)界では存在出来ないはずだから。それは結局、存在しない「火」、「幻炎」に過ぎないんだって。

 なら、何故火属性の魔法は攻撃力があったの? それは、被害者側が「火に焼かれた」(イコール)「火傷した」と認識してしまうから。つまり、星幽(アストラル)界の存在でしかなかった魔法の「火」を、自分で受け入れてしまったからなんだって。


 「真に恐れるべきは。物理科学を理解した上で、その法則に(のっと)って顕現(けんげん)する魔法。そして、物理法則では再現出来ないことを実行する、魔法です。火も、水も、風も。怖れるものは、何もないんです」。武田くんは、冒険者たちや兵士たちに、そう告げたの。

 そして、半信半疑だった彼らに対し、自分に向けて攻撃魔法を放つように要求したんだよ。彼らの攻撃魔法は、結局武田くんの肌に傷をつけることも出来なかったの。


「大規模戦闘に於いて、攻撃魔法が効果を発揮しづらいという理由も、これと同じです。攻撃されたことに気付かなければ、ダメージを受けることもないんですから」


 そしてだからこそ。実体を有する攻撃には注意するように訓告した。例えば、「火属性の攻撃魔法」という体裁で、実際の矢を放った場合など。この場合、矢傷が「魔法によるダメージ」と誤認し、結果大火傷(やけど)を負ってしまう危惧(おそれ)もあるんだって。


 さて、閑話休題。

 こういう状況、つまり遭遇戦や待ち伏せ(アンブッシュ)に於いては、こっちが絶対的に有利になる。だって、敵はこっちが見えていないのに、こっちは敵の位置がわかるんだから。わざわざ目視確認を(こころ)みて、敵に逆発見される危険を(おか)す必要もない。そして塹壕戦は、何だかんだ言っても、騎士よりも冒険者の方が有利。第1,022日目の夜明けに始まったこの戦闘の、最初の13時間(日没まで)に、モビレア冒険者は死傷者0(ゼロ)。重傷といえる怪我(けが)を負った人も、いなかったの。


 一方、陸上戦。こちらも、単位戦力にして三倍以上で戦うことを、騎士たちはショウくんに命じられていたの。敵の数が多いのなら、空堀(からぼり)迷路を活用して敵を分散させ、或いは味方がいる場所にまで誘導して。または、塹壕内や土塁(どるい)或いは馬防(ばぼう)(さく)(かげ)から奇襲して敵の数を削り。

 その指示もまた、大本営からリアルタイムで行ったから。結果、聖堂騎士たちは、あっちこっちで孤立せざるを得なくなったという訳。


 普通、こういう戦闘では。伝令兵は結構重要な攻撃目標にされるの。それこそ前近代戦に於ける、「情報」と「通信」の(にな)い手だから。

 だけど、この戦場では。モビレア軍側には伝令兵自体がなく、聖堂騎士団側は伝令兵が空堀迷路に(はま)り。


 旧暦(こよみ)は、夏の一の月(しがつ)。空は青空、(まぶ)しい光が降り注ぎ。

 にもかかわらず、聖堂騎士たちは。(あたか)も目隠ししたまま戦っているかのごとく、情報量に差があった、という訳だったの。

(2,536文字:2019/02/24初稿 2020/01/01投稿予約 2020/02/28 03:00掲載 2021/09/19誤字修正)

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― 新着の感想 ―
[一言] 遅ればせながら感想です。 迎撃戦が順調で何よりですが、某有名陣形による迎撃戦と比べるとより面白い?かも? 1:半径65m前後の索敵しかできないのに「何故か」戦場全体を把握、突出した両翼への…
[良い点] 知識としてはあるけど理解して実現できる戦法かといえば・・・ そこらへんのなろう主には無理っぽいですね 現代知識で無双と書けばチートっぽいけど ちゃんと地に足をつけた主人公達だからこそ成し…
[一言] > C³  そういうラノベがあったような?(すっとぼけ) > 何故火属性の魔法は攻撃力があったの? それは、被害者側が「火に焼かれた」=「火傷した」と認識してしまうから  現地魔法は化かし…
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