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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第八章:正義の御旗は、自分のその手で掲げましょう
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第27話 宣戦布告

第05節 現代戦〔1/6〕

◇◆◇ 雫 ◆◇◆


 第1,014日目。

 あたしたちは、スイザリア王都スイザルでアザリア教国の使者を迎えた。


「告げる。

 月が一巡りする(いっかげつ)前、カナリア公国がリングダッド王国に侵攻を開始し、現在両国が交戦状態に突入している。

 カナリア公国の勢い凄まじく、このまま王都チャークラを落とし、そしてその余勢を駆ってスイザリアまで侵攻せしこと疑いの余地なし。

 そして、西のマキア港には、西大陸のキャメロン騎士王国軍が上陸を始めたという。

 また、これに乗じてローズヴェルトも蠢動(しゅんどう)するであろう。

 よって、このスイザリアも、平和にして安全な土地とは言えなくなっている。


 セレーネ姫。姫君の先日の演説については、今この時一旦(いったん)棚上げし、安全な故国へご帰還為されるべきと思い、お迎えに上がった次第でございます」

「そうですか、ご苦労様です。ですが、それには及びません。スイザリアの方々は良くして下さっておりますし、何ら不安はありません」

「しかしですね、姫君。我々が既に(つか)んでいる情報によれば、公国軍の総数は十万に達します。対してリングダッドはその戦力の一部を『十文字戦争』の講和条約によって組織することを禁じられておりますから、四万弱にしかならないんです。

 両者が激突すれば、結果は火を見るより明らかでしょう」

「十万、ですか。それは凄いです」

「ええ、大軍です」

「え? いえ、そうではなく。そのカナリア公国を、たった百騎で沈めたという、リングダッド疾風(しっぷう)騎士団が、です。しかも、その数日後にはチャークラ防衛戦で、三万のローズヴェルト軍相手に無双()さったと聞いておりますし」

「――は? 公国が、沈んだ? それに、ローズヴェルトが既にチャークラに侵攻してきているという事ですか?」

(いいえ)、違います。公国は22日前に沈み、今上(きんじょう)公王並びに先代公王が戦争犯罪人としてチャークラへ連行されています。5日後には、両国間でリングダッドに侵攻した公国軍の撤兵と公王陛下の解放が約されることになるでしょう。

 ローズヴェルト軍とリングダッド軍は14日前から交戦状態に突入し、リングダッド王都チャークラは9日前から籠城(ろうじょう)を開始しました。籠城六日でローズヴェルト軍は壊滅し、今は捕虜となった一万八千の兵の帰国と講和条約締結の為の軍使を北に向かわせたところのはずです。


 おわかりですか、軍使殿。

 軍使殿が私を連れ戻す口実にしようとされた戦争は、どちらももう終わっているのです。

 軍使殿が、()いては教皇猊下(ちちうえ)が、それを知らないということは。カナリア軍進発の第一報を聞いて、すぐに行動に移した、という事でしょう。続報を確認するまでもなく動かれた。つまり、公王陛下と教皇猊下(ちちうえ)は連携していた、という事ですね?

 けれど、公国が既に沈み、あとは講和を待つばかり、という状況である以上。残るのは、アザリア教国軍並びに聖堂騎士団が、スイザリア王国に対して侵略を行った、という事実だけです。

 今すぐ兵を引き、そして此度(こたび)の軍事行動に関し、教皇猊下(ちちうえ)自らスイザリア王陛下の前に進み出て、謝罪することを求めます。

 アザリアは、善神(アザリア)を奉じる聖王国です。言い掛かりをつけて、隣国の領土を蹂躙(じゅうりん)する蛮族ではないはずです。


 善神(アザリア)の名を冠するのなら。それに値する振舞いをせよと、教皇猊下(ちちうえ)に申し伝えてください」

「それは、聞けませんね。

 既に、姫君を誘拐したスイザリアを(ちゅう)すべし、と国論は固まっております。此度の申し出は、両国にとって最も穏便な解決法となったはずだったのです。

 それを拒絶するとおっしゃるのであれば。

 我が国は、姫君を拉致監禁した犯罪国家であるスイザリアに、(アザリア)(くだ)す天罰を代行せねばならないでしょう」


◇◆◇ ◆◇◆


 口上は述べられ、様式が整った。

 これを(もっ)て正式にスイザリアとアザリアが戦争状態に突入する。

 けれど、軍使が戻った後、ひとつセレーネ姫に言っておく必要があった。


「セレーネ姫。先程軍使が言っていた、騎士王国の件ですが」

「はい、まさか彼らがこのタイミングで攻めて来るとは」

「先日も申し上げましたが、騎士王国軍は、あたしたちの援軍です。正確には、〝ア=エト(あたしたち)の〟、ですが」

「……どういう、ことでしょうか?」

「姫君もご存知の通り、我々五人は、〝魔王(サタン)〟を討つべく異世界より騎士王国に召喚されました。

 その〝魔王(サタン)〟とは、実はドレイク王国のアドルフ王のことでした。あたしたちは、単なる暗殺者(テロリスト)として、この世界に()び出されたのです。(いえ)、テロリスト、どころか、騎士王国がドレイク王国と戦端を開く為の口実とすべく、アドルフ陛下に殺害されることまでが脚本(シナリオ)に描かれていたのです。

 けれど、あたしたちは騎士王国の手を離れ、独自に行動することになった結果。契約内容をそのままに、その目的を差し替えることになったのです」

「……それは、どういうことですか?」

「契約の中で、騎士王国はアドルフ王を異形視し過ぎました。それを、こう表現しました。〝魔王(サタン)〟とは、『精霊神を否定し、(まもの)を従え、世界秩序の脅威となる者』である、と。

 そして、今の教皇・ジョージ四世は。ここで定義される〝魔王(サタン)〟に該当するんです」

「……」

「契約は、新たに書き換えられ。新契約に於いては〝魔王(サタン)〟はジョージ四世であると定義されました。だからこそ、騎士王国は。あたしたちをフォローする為に、今軍を派遣して来たんです。


 建前上、騎士王国は教国に対して宣戦を布告します。これは、ジョージ四世派・セレーネ姫派を問わず、いわば両派共通の敵となる訳です。

 けれど、あたしたちが姫君の騎士団である限りに於いて、騎士王国軍は姫君とその同盟者を害することは、〔契約〕で禁じられています。

 そして、ジョージ四世を討伐したる後に。姫君は、騎士王国を無血で撃退する勲功(くんこう)を挙げることになるのです」


◇◆◇ ◆◇◆


 教国の進軍ルートは、基本的に街道沿いだ。まずはリアーノを占領し、更に巡礼街道を北上してアルバニーの町に入る。そこから針路を東に転じて、スイザルを目指す、となるだろう。

 けれど、聖戦に燃える民軍は真っ直ぐスイザル(というよりもセレーネ姫)を目指すだろうけれど、むしろ聖堂騎士団こそ、秩序だった野盗団になりかねない。「遊撃」の名のもとに、近隣の町村を荒らしまわることだろう。

 だから、モビレア領軍とアルバニー領軍で教国軍の侵攻を抑えるが、この聖堂騎士団の動きをどう掣肘(せいちゅう)するかでスイザリア側の被害の多寡(たか)が決まるともいえる。

 そして、忘れちゃいけない、魔獣兵団。これは本隊とは違う戦場に投入されることだけは間違いないが、どこで使われるかはまだわからない。

 なら、やはりこれまで通り。敵の動きを事前に察知し、それに対応することで。


 負けない戦争を演出することになるだろう。

(2,705文字:2019/02/19初稿 2020/01/01投稿予約 2020/02/22 03:00掲載予定)

・ 騎士王国参戦に関しては、ア=エトからセレーネ姫とスイザリア首脳に伝えてあったのですが、信憑性というか現実味が薄く、どうやら聞き流していたようです。

・ 「騎士王国軍は、あたしたちの援軍です。正確には、〝ア=エト(あたしたち)の〟、ですが」。つまり、「アンタらの援軍、だとは思うな。共同歩調は採れるけど、アンタらの露払いになるとは限らないよ」という意味だったり。

・ 騎士王国の兵士(騎士)たちを運んできた『グレイサー号』とマキア王国の戦闘は、後に閑話で語られることになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 教国は情報戦駄目ですねえ(グサッ)知ったかぶりで喋って恥かくとか(グサッ)そんなだと取り返しのつかないことになりますよぉ(グサッ)うん、さっきからブーメランが刺さって痛いんだよ? 既に、姫…
[一言] ここまで滑稽な宣戦布告があるだろうか。 宣戦布告理由が全部無くなってるし、姫の誘拐? いや、目の前に全権として宣戦布告受けてる人は、 その拉致誘拐(笑)された姫じゃないの? 騎士王国来たか…
[一言] 使者どの「お姫さま助けに来たよ!」 お姫さま「そもそも困ってない」 使者どの「えっ」 お姫さま「えっ」 使者どの「戦争が起きてるんだよ!」 お姫さま「もう終わってる」 使者どの「えっ」 お姫…
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