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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第八章:正義の御旗は、自分のその手で掲げましょう
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第26話 後夜祭

第04節 リングダッドの夏祭り〔7/7〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


「さあ、五日間続いたこの夏祭りも、もうすぐ終わります」

「長いようで短かった、〝非日常〟。けれど、籠城(ろうじょう)戦という非日常ではなく、祭りという非日常であったことは、私たちにとってはとても幸せなことだったでしょう。

 来年も、今年以上に盛大な〝非日常〟を迎えたい。そう思いながら、次の一年の日常を過ごす事が出来そうです」


 司会の二人が、祭りの最後のトークを始めた。


「でも、この夏祭りは、もう少しだけ続きます。

 昨日まで夜の部は、子供たちは原則参加禁止の、大人の時間でしたが、今日に限っては夜更かし推奨。明日の朝日を迎えるまで、思いっきり騒ぎましょう!


 そして、後夜祭に先立ちまして、我らが英雄、ア=エト将軍からご挨拶です!」


 呼ばれて、俺は。そして美奈をはじめ全員が、壇上に登った。


「改めて挨拶させてもらいます。ア=エトです。

 まずはリングダッド兵諸君、外国人である私の指示に従ってくれたこと、感謝します。

 商人ギルド、冒険者ギルドそれぞれの職員諸君、並びにそこに所属する商人諸君・冒険者諸君。貴方たちのおかげで流通が保たれ、また市内の治安を守れました。籠城戦に於いて後方の市民の動揺は、前線の兵たちにとって致命的になります。貴方たちが、兵たちを守ったんです。

 そして国王陛下、王太子殿下。余所者(よそもの)である私に、王都防衛の大権を委ねてくださったことを感謝致します。王家の方々からの信頼あって、この町を守る事が出来ました。高いところからでは御座いますが、御礼申し上げます。


 さて、市民の皆さん。祭りの企画は、最後のひとつを残すのみとなりました。

 最後のひとつ、後夜祭。ダンスパーティーです。

 これは、貴族の方々の夜会(ダンスパーティー)のような、格式ばったものでは御座いません。平服のまま、音楽(リズム)に合わせて、意中の相手の手を取って、踊ってください。

 この祭りは無礼講。身分も立場もありません。百姓の三男坊が、豪商のお嬢さんを誘っても構いません。勿論(もちろん)、生え際が後退したおっさんが、幼女を踊りに誘ったら、問答無用で営倉(えいそう)に叩き込みますが。

 また逆に、女性の側から男性を誘っても構いません。例えばそう、昨日までは平民出身の一兵卒だったのに、此度(こたび)戦争(いくさ)勲功(くんこう)()げ、一足飛びに貴族に列せられた勇士など、下手な縁談が舞い込む前に(つば)を付けておくのも一興でしょう。ええ、これは断じて(たま)輿(こし)などではありません。昨日まで隣にいた気になる男性を、今夜のダンスを口実に誘うだけなのですから。


 ですが、皆さんには一つ。謝罪しなければならないことがあります。

 俺たちは、祭りの最後の最後までご一緒したかったのですが、そうもいかなくなりました。


 昨夜遅く。アザリア教国軍が国境を侵犯し、スイザリア王国に侵攻を開始しました。

 『リングダッドがカナリア公国と戦争状態に突入したから、隣国スイザリアも危険に(さら)される。だからセレーネ姫を保護する』、というのが理由だそうですから、噴飯(ふんぱん)ものです。どうやったら二十日も前に終結した戦争で隣国まで戦火が及ぶのでしょうか。

 教国は、知らないのです。既に戦争が終わっていることを。(いえ)、始まりもしなかったことを。

 つまりこれは、単に侵略の口実に過ぎません。善神(アザリア)の使徒たる教国聖堂騎士団は、詭弁(きべん)(ろう)して隣国を侵略する、ただの蛮族になり果てたという事です。


 今この町に(つど)う、スイザリア軍兵に()ぐ。

 今日に続き、明日(あす)明後日(あさって)。あと二日間、其方(そなた)らに完全休暇を認める。

 そして、明々後日(しあさって)。隊を再編し、王都スイザルに帰還せよ。其方らには、王都守護の任を託する。聖堂騎士団、並びに教皇を僭称(せんしょう)せし〝魔王(かみにそむくモノ)〟の首級(くび)を獲るのは、現王都駐留軍とモビレア領軍に任せろ。


 そして、リングダッド軍には、この戦争(いくさ)の側面援護をお願いしたい。

 ――焦る必要はありません。通常の戦争を考えるなら、まだ教国軍の国境侵犯を告げる急報は、スイザルにさえ届いていないのですから。公都カノゥスが炎上したことを、未だ教国が知らないように。ローズヴェルトがリングダッドに侵攻したことを、未だ教国が知らないように。

 だから、俺たちはのんびりしていても、先手を打てるのです。


 軍楽隊! 音楽を。

 歌姫、フィオレさん。貴女の美声を、もう一度このチャークラの町に!


 さあ、皆さん。踊ってください。笑ってください。楽しんでください。


 明日の我ら全員の〝日常〟の為に! 〝ゼロ〟!」


☆★☆ ★☆★


 スイザリア将軍、ア=エト。彼が、リングダッドに(もたら)したものは、少なくない。


 例えば、(のち)に「ノード」と呼ばれることとなる物流集積拠点と、規格化された収納箱(コンテナ)。これは、ア=エトの物資輸送の為に用意された、「コンテナハウス」の規格に合わせてサイズが決定されている。

 これにより、商人は商取引を行う者と、輸送業者に分化することになった。輸送業者は、規格化されまた封印されたコンテナを運ぶことが目的であり、そのコンテナに何が入っているかは基本知ることがない。けれどだからこそ、盗賊らにとっても、開けてみるまで中身がわからず、大人数を率いて襲撃しても、換金価値の低い商品にしか当たらない、などという結果も少なくなった。

 また輸送それ自体も、集積拠点(ノード)間の往復となることから、食糧や野営設備などの物資も最小限で済み、且つ通い慣れた道だから無駄もなく、結果コスト削減に繋がった。ちなみにこのコンテナは(正確にはア=エトの「コンテナハウス」は)、ドレイク王国の物流コンテナと規格が一致し、つまり積み替えの労もなくなったことで更にコスト削減と物流速度増加に寄与(きよ)した。そしてそれは、後にドレイク王国からの鉄道が敷設された時には、むしろ効率が上がる以上の問題は生じなかった。

 なおノードは軍使も利用出来、それにより情報伝達速度も圧倒的に増加したといわれる。


 〔報道(マスメディア)〕、と名付けられた魔道具は、その核となる魔石をドレイク王国から輸入する必要があるものの、その値段以上の利用価値に、軍民共にその恩恵を(こうむ)った。


 そして祭りを通じて、一気に王家と市民の距離が縮んだこと。これも、無視出来ない。


 けれどなにより。

 祭りを愛するその気質。

 苦難を笑い飛ばす国民性こそが、ア=エトがリングダッドに齎した、最大のものであると、後世に伝えられている。


★☆★ ☆★☆

(2,518文字:2019/02/17初稿 2020/01/01投稿予約 2020/02/20 03:00掲載 2020/02/21公都の名称を修正 2020/02/22公都の名称を間違えていたので再修正 2022/06/25衍字修正)

・ カナリア公国とアザリア教国の同盟(れんけい)は。公国側では、今上公王と先代公王の両者、或いはどちらかだけの専行だったようで、公王宮が炎上した後公都に残った官僚や貴族らの中に、教国にこのことを伝えなければならないと思い至った者はいなかったようです。結果、公王宮炎上後二十日経っても、教国への急使は出ていないのです。

 そして教国側では、公国軍進発以降の続報が無かった為、順調に侵攻中、と思っていました。ちなみに夏祭りの最中に、リングダッドの王太子が「カナリア公都が沈んだ」と発言していますが、それを聞いた教国の密偵は、祭りの三日目までチャークラから出る事が出来ず(建前上籠城戦をしていたのだから、当然民間人の出入りは出来なかった)、四日目に真偽未確認のまま都を発ったものの、五日目の時点ではまだリングダッド国内から出ていません。

・ 飯塚翔「勿論(もちろん)、生え際が後退したおっさんが、幼女を踊りに誘ったら、問答無用で営倉(えいそう)に叩き込みますが」(エリスを抱きかかえながら)

 柏木宏「……現時点で飯塚を、営倉に叩き込んだ方が良いような気もするが」

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