表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第八章:正義の御旗は、自分のその手で掲げましょう
342/382

第18話 疾風怒濤

第03節 北と東の戦場で(後篇)〔4/5〕

☆★☆ ★☆★


 リングダッド疾風(しっぷう)騎士団。

 『チャークラ夏祭り』後、隊員全員が騎士爵に(じょ)され、〝騎士団〟として戦史に記録されることとなった、リングダッド史上最速、否、世界最速にして最強の騎士団である。


 リングダッド王都チャークラから、カナリア公国公都カノゥスまで、600km超の距離を、(わず)か一週間で往復し、カナリア公国軍、バロー男爵領軍、ローズヴェルト王国軍の三軍を字義通り蹂躙(じゅうりん)した。


 なお、カノゥスまでの往復に関しては諸説(出発日や帰還日が粉飾されている、出発地点がチャークラではない、など)あるものの、常識的な行程日数、粉飾し得ないスケジュール(命令発令の日付が擬装されていた可能性はあるが、『夏祭り』が始まった時には既に王都に戻っていたことは間違いない)で計算しても、一日平均100km以上走破したことを否定することは出来ず(ちなみに言及通りなら一日平均200km近く走破したことになる)、「史上最速の騎士団」という評価を(くつがえ)せない。


 後世の講談(こうだん)では、その苦難を極めたカノゥスまでの長征、一撃を(もっ)て公王宮を焼き払った奇襲戦、そしてその後のバロー男爵領軍やローズヴェルト軍に対する遊撃戦などが語られ、リングダッドの少年たちの憧憬(しょうけい)を一身に浴びている。


 なお、その騎士たちは全員、「それは自分の手柄ではない」とその偉業を誇らず謙虚(けんきょ)な姿勢を崩さなかったことから、〝騎士とは()くあるべし〟と、リングダッド騎士の規範とさえ()われている。


★☆★ ☆★☆


◇◆◇ 雫 ◆◇◆


 第997日目。


 スイザリアからの派遣軍は王都に入城しており、行儀よくリングダッド王太子殿下の指揮下に入っている。国王親征軍は、こちらを信頼し、対外的には東進を、実際は迂回(うかい)して男爵領の北側から薔薇(ローズヴェルト)軍の後背に展開していた。

 一方の薔薇軍は、渓谷南部集落に全軍を集結させ、男爵領内に進軍を開始。北部集落には補給物資を守る守備兵だけが残った形になっている。


 そして、男爵領軍は、王都(チャークラ)から目視出来る距離まで近付いていた。


 とはいえ、あたしたちは、攻城戦・籠城(ろうじょう)戦の知識は少ない。否、雄二や飯塚なら、相応に知識があるのかもしれないけれど、籠城戦の場合は小賢(こざか)しい奇策よりも、堅実且つ常識的な行動を採ることこそが、最適な戦術なのだという。

 だからこそ、飯塚の〔光球〕と美奈の〔泡〕による索敵、そしてソニアの空撮による戦術支援のみを、この籠城戦に於けるあたしたちの役割とし、あとは物流の確保と市内の治安維持に注力することとなった。


 だから、眼下に男爵領軍が迫って来ていても。あたしたちが今すぐしなければならないことはなく。

 だからあたしらは、モビレアに〔転移〕し、アドリーヌをネオハティスまで送り届けることにした。


「……籠城戦の最中(さなか)に、こんなことをする防衛隊司令官は、おそらくショウ兄さまだけだと思いますよ?」

「って言っても、今俺がしなきゃならないことは、実際他にないし、な。これが夜なら、〔光球〕で味方の行動を支援する必要はあるかもしれないけど、日が暮れるまではまだまだ時間があるし。

 それに、バロー男爵領軍の数は五千ほど。〝男爵〟領の領軍としては、その規模は桁外れだけど、攻城戦・攻囲(こうい)戦を考えたら、三千の守備隊が守る王都を落とすには、数が足りない。ましてやスイザリア軍二万を受け入れている以上、(たか)が五千の兵力相手なら、別段奇策を考えなくてもどうとでもなる。つまり、今この瞬間、俺が王都内で指示を出す必要はないんだ」

「だからといって、私みたいな小娘を相手にする司令官はいませんって」

「いや、実は。他にも理由はあるんだ。

 ネオハティスで、魚の買い付けをしたくって、ね」

「……籠城戦の最中に、魚の買い付け、ですか? それを使って、どんな攻撃を()さるんですか?」

「いや、チャークラで祭りでも開こうかと。」

「はぁ?」

「籠城戦をしている都市の住民は、鬱屈(うっくつ)し絶望して、自暴自棄になり易い。っていうのが常識だ。

 なら、籠城戦の最中に祭りを開けるくらい、物資に余裕があり、市民たちがリラックス出来ているとなれば。

 攻囲側は、どんな気分になると思う?」

「……(むな)しく、なるのではないでしょうか?」

「そういう事だ。まぁ、嫌がらせと言ったらそれまでだけどな」


 そのアイディアを聞いた時は、あたしたちも絶句した。けど、ある意味効果的ではある。

 残念ながらあたしたちにその知識を持つ者がいなかったからお蔵入りになったけど、出来れば花火を上げて、外から見てもその(にぎ)わいがわかるくらい盛大な祭りにしたかったようだ。

 で、花火が無理なら他のことを、ってことで、(マグロ)の解体ショーを広場でやろうということにしたのだという。美奈が、何尾かのマグロを解体し、ようやくある程度のコツを掴んだのだとか。

 ついでに、ブタの丸焼きとか牛の屠殺(とさつ)ショー(野蛮だけど、特に戦争中のこのタイミングでは盛り上がるみたい)などを計画しているのだとか。


 現状は企画だけで、実際は薔薇(ローズヴェルト)軍の本隊が到着してからになるだろうけれど。


◇◆◇ ◆◇◆


「これが、現在のバロー男爵領軍の配置です。

 こちらが、伏兵ですね。

 で、こっちで、攻城兵器を作る為の別動隊が作業をしています」


 ソニアが空撮した、男爵領軍の様子を、雄二のタブレットに展開して。

 それをもとに、飯塚は王太子殿下に説明をしていた。


「……敵の配置が、丸見えだ。これじゃあ、相手の手札を見放題でカードゲームをするようなものじゃないか」

「ちなみに、同等のことをドレイク王国も行えます。()の国の、強さの秘密のひとつですね」

「……今後の国家戦略を、考え直さなければな。だが、今この状況に於いては。

 これを活かすべきだろう」

「カナリア公都を攻めた部隊が、既に王都至近で待機しています。

 彼らに、この伏兵を蹂躙させたのち、攻城兵器を組み立てている部隊の作業を妨害させましょう」

「……本気で、ワンサイドゲームだな」

「この戦争の本番は。薔薇軍が王都に進出してきてからです。

 さすがに二万五千を数える薔薇軍相手に、たった百の騎兵隊だけでは対処出来ませんから」

「いや、さすがに彼らだけに武勲を独占されたら、何の為の王都防衛軍だと国王(ちちうえ)に叱責されてしまうだろう。少しはこっちに回してもらわないと」

「かしこまりました。ところで、王太子殿下に一つ、お願いがあるのですが」

「何だ?」


此度(こたび)祭り(・・)で解体する、肉と魚。その最上部位を、遊撃隊として活躍している、彼らに振る舞いたいと思いますが、お許し願えますか?」

「私も口にしたいが、確かに彼らの方が優先されるべきだな。

 だが、ア=エト。戦後、改めてそれらを()と父上に振る舞うことを、命ず」

「かしこまりました」

(2,687文字:2019/02/08初稿 2020/01/01投稿予約 2020/02/04 03:00掲載 2020/02/22公都の名称を間違えていたので修正 2021/02/18誤字修正 2021/09/08誤字修正)

・ 『十文字戦争』(『呑龍戦争』)時のドレイク王国軍も、かなりの行軍速度でしたけど、やはり数が多かったことと、兵士たちの騎乗技術が劣っていたことから、疾風騎士団ほどの行軍速度には至りませんでした。

・ 「苦難を極めたカノゥスまでの長征」。野営時には酒を振る舞われ、焼き立てパンと熱々煮込み料理(シチュー)は肉増量でおかわりし放題。夜は夜警を考えずに、屋根があって風も防げるコンテナハウス宿舎で、毛布にくるまりぐっすり8時間就寝。朝には美少女(美幼女含む)が洗濯した清潔な着替えを渡され、清涼な水で身体を清め。こんな過酷な行軍、過去に例はありませんwww

・ 籠城戦で奇策を採用すると、それが失敗してそのこと自体攻囲側が付け入ることが出来る隙になる、という事が多々あります。籠城戦で、「お、開いてんじゃ~ん」と施錠を忘れた裏口から攻囲軍が侵入する(史実。「コンスタンティノープルの陥落」1453年)などということにもなりかねませんし。奇策は成功すると心理的効果は絶大ですが、現実的にその奇策で削れる攻囲側戦力は微少。なら、リスクを抱えた奇策より、堅実に少しずつ削って行った方が、結局被害が小さく済むのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 騎士団の待遇はわかりましたが、馬の方はどうだったんでしょう? 「とある世界」では馬が馬車を引いて爆走してる間中、馬車の中で補給がされ続けて重量過多でお馬さんが過酷だったんですよ?
[一言] >「苦難を極めたカナリアまでの長征」 表現がどっかの毛○東っぽい。 もっとも、逃避行を粉飾した、ウィルス撒き散らしてるあの国と、 あまりの楽々行軍を難行ということにして隠した疾風騎士団の差。…
[一言] > 一日平均100km以上走破 戦国時代最大のチート(?)ともいうべき秀吉の中国大返しが平均20km/1日。 同じ騎馬兵のみで構成されたチンギス・ハーンのモンゴル軍が70~80km/1日と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ