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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第七章:支配者は、その責任を自覚しましょう
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第35話 弱者の戦略

第06節 開戦〔6/7〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


「わかりました。では俺たちも天空騎士団の作戦に、同行させていただきます。

 標的は、ローズヴェルト軍の兵糧その他補給物資。可能なら、指揮官級の首級(くび)です」


 リーフ王国天空騎士団がローズヴェルト軍に対して夜襲を仕掛ける気配を察知し、俺はそう応じた。とはいえ。


「同行を希望されるのは構いませんが、我らが翼に追従出来るのですか?」


 と、サイラ殿下。当然ながら、有翼獅子(グリフォン)の飛翔速度に、地上から追いつけるはずはない。


「問題ありません。直接追従するのは、ソニア一人ですから。

 美奈、ソニアにスマホを渡して。

 ソニア。〝目的地〟に着いたら、『マーカー』に『メッセージ』を。俺たちは、15分ごとに確認する。時計合わせ。現在16時32分。三、二、一、今」


 スマホの時計が電波を受信出来なくなって、もう三年。当然、タイムゾーンの自動設定は解除してあるし、基本は『機内モード』で外部電波を走査しないようにしている。そして、この世界では正確な時刻表示そのものに、大した意味はない。だから、各人の持つ各時計が示す時間はどれも一致していない。

 だから、無理矢理現在時刻を『16時32分』と定め、タイミングを合わせてゼロリセットするのだ。宇宙ステーションとランデブーする訳ではないのだから、百分の一秒程度の誤差はどうでもいい話だし。

 そして、ここで言う「15分」も、『15分後』ではなく、時計の16時45分、17時00分、17時15分、という具合に、分針に合わせて行動する、という事でもある。


 俺の腕時計と、美奈の腕時計、そして武田の腕時計の示す時間と日時には、意味を持たせている。けれど、スマホの時計はその意味では、こういった別行動時のタイミング調整にしか使わない。或いは、ストップウォッチ機能として、か。


「作戦の詳細は、合流してからだ。今は天空騎士団に追従して。

 ……ご迷惑をおかけしないように。」

「かしこまりました」


◇◆◇ ◆◇◆


 リーフ天空騎士団とソニアが退出して。

 ロージス領主館には、領主たちと俺たちだけが残ることになった。


「さて、当面は、待ちだな」

「その間に話を聞かせてもらえるか。飯塚、天空騎士団はローズヴェルトに勝てるのか?」


 と、柏木が問うと。


「私たちにも聞かせていただきたい。というか、夕刻に書簡を発送したはずなのに、何故もうここにいらっしゃるのか」


 と、領主様も。だからまず、柏木を放置して、そっちに応じることにした。


「これが、此度(こたび)戦争(いくさ)での切り札になる、〔転移〕魔法です。

 そして、実感しづらいかと思われますが、こちらでの『夕方』は、スイザリア西部ではまだ日が暮れるには早い時間なんです。

 シュトラスブルグ駐留の有翼騎士(メイド)さんから急報を受けて、だからすぐに俺たちは行動出来ました。


 それから、リーフ天空騎士団。というより、王妹サイラ殿下。

 あの方に、ロージス侵略の意図はないようですね。けど、『占領した』という事実を(もっ)て、ローズヴェルトが押し売りした戦争(ケンカ)を横から買い取った。あの方は多分、特売(バーゲン)では最強の女戦士となるでしょう」

「……お礼を、言わなければなりませんね」

「いらない、って言いそうですよ。

 ただ、今回の一件は、このロージス領の欠点が完全に露呈しています。単独での防衛が出来ず、また領の特質からアプアラ本領軍の駐留も出来ず。

 今回、なんとかローズヴェルトを撃退出来たとしても、これから何度でも同じことが起こるでしょう」


 ペンは剣よりも強し、カネはペンより強し。

 それは、いつの時代も何処の世界も同じ真理だ。けど、相手が知性と羞恥心を持たない野蛮人であるのなら、カネもペンも役に立たない。

 これまでは、隣国の知性と良識に頼って領を維持していたけれど、それが通用しなくなるというのなら。


「いっそのこと、発想を逆転させてみましょうか」

「どういう事です?」

「今回の事件を契機に、ロージス領はアプアラ本国から分離独立しましょう」

「な! そんなこと、出来るはずがない。それに、ロージスは自主防衛出来る戦力がないことが問題であって――」

「その〝自主防衛出来る戦力〟を、隣国に頼るのです。

 但し、アプアラだけじゃありません。リーフやドレイク、そしてリングダッドなどもアリでしょう。

 複数国の軍隊に、領内に駐留することを認めるのです。そして、駐留する軍に領の防衛を任せる一方で、駐留軍を派遣した国家に対しては、貿易に際して関税を掛けない、とするんです。

 そうすれば、第三国がロージスに侵攻したら、駐留している隣国の連合軍がそれに対することになります。というか、それらの国を全て同時に敵に回すという事です。

 また、どこか一ヶ国が離反したり、その国がロージスの(とみ)を独占しようと工作したりしたら、残りの国の軍隊が離反した国とその軍を制圧するでしょう。

 そして、その〝連合〟に参加する国が増えれば増えるほど、その国々の利害が一致することが難しくなりますから、結果としてロージスの独立自治が保たれることになるはずです。

 勿論(もちろん)、それらの国々の前に利益をチラつかせて、余計な欲を出したら逆に損にしかならない、と思わせる外交手腕が求められますが」

「……(こば)む、のではなくむしろ積極的に受け入れることで、餓狼(がろう)どもがお互いに牽制(けんせい)しあう環境を作り出す、という事ですか。その環境で独立を維持するとなると、非常にタイトな綱渡りになりそうですね」

「ですが、今のこの領は、これまでのような『国盗り』の感覚で占領支配出来る土地ではなくなっています。それを理解させる事が出来れば。

 俺が隣国の君主なら、軍事占領よりも、領主閣下、貴方を直接支配(コントロール)することを考えるでしょうね。けれど逆に言えば、この領の民は、その分戦禍から縁遠くにいられるという事にもなります」


 バトルロイヤルに於ける鉄則は、「目に見えて強そうな相手を、残りの全員で真っ先に排除する(たおす)こと」だと聞いたことがある。だけどこの理屈を繰り返すと、最後に勝ち残るのは「最弱では(ブー)ない弱者(ビー)」という事になる。最弱では最後まで立っていられないけれど、限りなくそこ(・・)に近い立場にいると演ずる事が出来れば、最強である必要はない、という事だ。そこに求められるのは、ただ、外交力。


「『国盗り』が、軍事力ではなく外交力で、戦場ではなく会議場で決する、という訳ですか。

 私には、剣の才能がなく、二十年前の『フェルマール戦争』で雄々しく戦った前領主様たちのことを、羨望(せんぼう)眼差(まなざ)しで見つめておりました。前領主様たちは()()くも敗れ、その後の『十文字戦争』に於いてはカナリア公国の隷下で領軍の補給を命じられました。とはいえドレイク王国による徹底的な兵站(へいたん)破壊の前に、市民の糧食を削って軍に提供することしか出来ませんでしたが。

 ですが、戦いの場が会議場になり、剣ではなく弁舌で〝国〟を守れるというのなら。


 私は、ドレイク王にも負けない自信があります」

(2,775文字:2019/01/23初稿 2019/10/31投稿予約 2019/12/16 03:00掲載予定)

・ 地球史上で、この飯塚翔くんの示した政策で交易都市を維持しようとした例は幾つかあります。けれど結局は近隣国に呑み込まれて終わっています。とはいえそれは、その都市の支配者が隣国政府・軍隊をコントロールし切れなくなったというのがきっかけです。

・ バトルロイヤルは、結局のところ、ゲームマスターの総取りにしかなりません。なら、プレイヤーとして立つこと自体が既に負けフラグ。観客になれないのなら、ゲームマスターの立場で他のプレイヤーを誘導することを選びましょう。「強者同士の潰し合い」を演出出来るのは、弱者だけなのですから。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 地球史上で、この飯塚翔くんの示した政策で交易都市を維持しようとした例は幾つかあります。 日本だと戦国末の堺ですかね? ハンザ同盟諸都市も似てるといえば似てるかな? イタリアのヴェネツィ…
[一言] > あの方は多分、|特売《バーゲン》では最強の女戦士となるでしょう  特売《バーゲン》最強の女戦士【奥様《オバチャン》】!?  ブービー……元は普通に最下位に与えられるものだったけど最下位…
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