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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第七章:支配者は、その責任を自覚しましょう
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第20話 違約行為とは

第04節 契約更改〔6/9〕

◇◆◇ 雫 ◆◇◆


 おおよそ三年ぶりの、キャメロット城。

 だが今回この城を再訪するにあたって、飯塚が全員に(あたしたちだけじゃなく、随行の有翼騎士(メイド)たちにも)念を押していたことがある。


 それは、あたしらはこの城で。

 決して平伏してはならない、と。


 一国の使者が、一軍の将が。

 一国の王と謁見する時の、態度ではない。けれど。

 あたしらは、「一国と契約を交わした個人」として、イライザ女王の前に立つのだから、と。


 だから、謁見の()に足を踏み入れ、女王の前に進み出て。

 だけど、(ひざ)を折ることなく、(こうべ)()れることなく、飯塚は口を開いた。


「お久しぶり、と言わせていだきましょう、イライザ()。お元気そうで、何よりです」


 それは、個人が個人に、対等の友人に、語り掛ける程度の言葉遣い。

 男が女に語る時の、最低限の礼儀を保っていても、決して目上の人相手の言葉遣いではない。


「なんと、無礼な!」

「使者殿、控えよ!」

「それが東の礼儀か!」


 周囲の貴族たちが騒ぎ出す。が、あたしたちは、そして飯塚はそれを全て無視して。


「姫。語りたいことはいくらでもあります。が、その前に片付けなければならないことも多くあります。

 その為にも、まずはお人払いをしてください。

 〔契約(・・)()基づき(・・・)、俺の言葉に従ってもらえることを期待しています」


 更に騒然となる周囲。だが、その火に油を(そそ)いだのは。他でもない、イライザ女王だった。


「わかりました。では座を移しましょう」


「陛下! 何をおっしゃいます。このような得体の知れない者と、余人を交えずに言葉を交わそうなどとは」

「そうです、今すぐにでもこの者たちの首を落とし、東に送り返してやりましょうぞ」


 女王の言葉に、貴族たちは反駁(はんばく)した。そして、それに対して女王が再度口を開こうとした時。


「それで、良いのかや?」


 リリスさまが、発言した。


「何だと?」

そこの(イライザ)(じょおう)をよく見ると良い。

 何が起こっておる?」


 リリスさまの言葉の意味は、あたしたちもわからなかった。だから、女王の方に視線を向けた。

 それでも、最初はその意味が解らなかった。けど。


「……〝首輪〟が、消えた――」


 飯塚が、それに気付いた。そしてその言葉で、女王自身も自身の首に手を当てて、その事実を確かめた。


「〝誓約の首輪〟とは。〔契約〕を交わせし二者間に於いて、明らかに(かたよ)った義務を背負いし者が、その義務を明示する為に(あらわ)すものじゃ。

 そして此度(こたび)の〔契約〕に於いて、ア=エトらに、それが顕れておる。しかし。

 明らかに、軽き義務しか負っておらぬ、騎士王国側は。その軽き義務さえ履行せぬ状況じゃった。ゆえにこそ、〔契約〕はその履行を求め、この国の王の首に〝首輪〟を顕したのじゃ。

 じゃが、今その娘は、〔契約〕への復帰を宣言した。ア=エトの言葉に従う態度を表明してみせたことでじゃ。それゆえ、〝首輪〟はもう、必要なくなった、という事じゃ。


 どうじゃ? この国の貴族ども。其方(そなた)らにとっては、其方らの君主の首に〝首輪〟があった方が、都合が良いとでも言いたいのかや?」

「だとするのなら。〝首輪〟だけでなく、〝違約紋〟も消していただきたい」

「その為の話し合いをせねばならぬと言っておるのじゃ。そんなこともわからぬ阿呆か、貴様は?」

「だが、それなら人払いをする理由もないはずだ!」

「其方らに、それを知る権利があると思うかえ?」


 騎士王国貴族とリリスさまの言い合い。だけど、そこに口を挟む者がいた。


「なら、先王ウィルフレッド陛下と、魔術師長リトル・マーリン卿の両名を呼んできてください。彼らは、この〔契約〕の当事者ですから」


 他ならぬ、飯塚だった。


◇◆◇ ◆◇◆


「彼らは、この部屋の一部と思ってください。彼らを排除することは、さすがに出来ませんから」


 座を移し、あたしたちも有翼騎士(メイド)たちを別室に待機させ。

 イライザ女王が扉に控える衛兵たちを指してそう告げた。そして、それほど間を置かず、そこにウィルフレッド陛下がやって来た。


「貴様ら、コソ泥風情が、良くもおめおめと余の前に姿を見せられたものだ」

「何をおっしゃっているのか、わかりませんね。

 俺たちは、〔契約〕に禁じられたこと(・・・・・・・)は一切行っておりません。

 一方貴方たちは、〔契約〕に定められたこと(・・・・・・・)を一切行っておりません。貴方たち自身が、定めたことを、です。

 〝背約者〟がどちらか、など、問うまでもないでしょう」


 それが、〝違約紋〟の、意味。


「そして、俺たちは。元の世界に自力で戻る、その手掛かりをこの三年間で、掴んでおります。つまり、貴方がたが〔契約〕の対価として提示したそれは、既に無価値となっているのです。

 無価値の報酬を対価に、〔契約〕を交わす。これは、詐欺(さぎ)であり、これもまた〝違約〟です。


 おわかりでしょうか。俺たちの為だけでなく、貴方たちの為にも、〔契約〕を更改(こうかい)する必要があるのです」


 飯塚の言葉を理解したのか、先王は口を(つぐ)んだ。


「ところで、イライザ姫。魔術師長は?」

先代(・・)魔術師長は、既にその任を辞し、ブロウトン騎士爵と共に国を離れています。私からも、質問をさせてください。貴方たちは、父上と先代マーリン卿の同席を求められましたが、ブロウトン卿の名を出さなかったのは――」

「エラン・ブロウトン()とは、アザリア教国でお会いしました。そして、〔契約〕への復帰を要請しましたが、拒絶され、そして聖堂騎士の名の(もと)に、俺たちに刃を向けました。

 よって、〝背約者〟として、この手で処断させていただきました」


 飯塚の、この言葉は。女王と先王にとっては、かなりの衝撃だったようだ。

 エラン先生は、この国にとって「最強騎士」、という訳ではなかっただろう。けど、対してあたしらは、この世界に来るまで一度も剣を握ったことのない、同年代の平民にさえ劣る、素人(しろうと)以下だったのだから。

 そして、敵を殺すことにさえ躊躇(ためら)いを持つあたしたちが。一度は教えを()けた知人を殺す。そう思い切れたこともまた、彼らの驚きの原因だったのかもしれない。


「わかりました。では、話を〔契約〕に戻しましょう。

 正直、私は、貴方がたは〔契約〕の破棄を望むと思っておりました」

「それは、〔契約〕の内容が不当だから、ですか? なら、それは是正すれば良いことです。

 俺たちも。以前は出来る事なら、〔契約〕を破棄したいと思っておりました。けど、仮令(たとえ)俺たちが無知にして無力であったのがその不当な〔契約〕を交わした原因だったとしても、一度(ひとたび)交わした〔契約〕は、履行するのが筋でしょう。

 ですので、お互いが納得出来る内容に、〔契約〕を書き換えたいと思っているのです」


「そういう事なら、〔契約〕を見直すことに異論はありません。

 では、如何に契約を書き換えましょうか?」


僭越(せんえつ)ながら、俺たちの方で試案をまとめて来ております。

 (よろ)しければ、これを叩き台にして、新たな〔契約〕としたいと思っております」

(2,752文字:2018/12/30初稿 2019/10/01投稿予約 2019/11/16 03:00掲載 2022/06/18誤記修正)

【注:新旧契約の内容は、本日09時00分に投稿されます】

・ 騎士王国に於いて「マーリン」とは職業姓であり、すなわちその任を解かれたリトル氏は「マーリン」ではなくなっています。が、便宜上彼のことを「リトル・マーリン」と呼んでいます。当代「マーリン」氏は本作での登場予定がないので。

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― 新着の感想 ―
[一言] 契約対象者である当時の魔術師長がこの場にいないのに契約更改したら、 遠方にいる魔術師長の契約も更改されてしまうのかな? そこらへんは、更改時に当時の魔術師長の名前を入れないことで回避できるの…
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