表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第七章:支配者は、その責任を自覚しましょう
297/382

第17話 軍略と政略

第04節 契約更改〔3/9〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


 893日目。俺たちは、強襲揚陸艦『ひょうが』、じゃなく護衛艦『グレイサー号』で、ボルド西港から出港した。


 ネオハティスからコンロンシティまでは、丸二日もかかったのに、崑崙(コンロン)御所からネオハティスの王邸までは、隣の部屋に行くくらいの気安さだった。これが、『リリスの不思議な迷宮(ダンジョン)』。コンロン城も、ネオハティスの王邸も、共にダンジョンの一角であり、物理的な位置関係は、どうでもいい話だという事だ。さすがに、これは卑怯だと思うが。

 ちなみに、外部から無許可で侵入を試みると、もれなく『ベスタ大迷宮』に転移させられるのだという。……そういえば、そんなエピソードもあったなぁ。


 そして、グレイサー号。正直言って、その推力は、帆船の比ではない。帆船では3ヶ月(約90日)掛かる航海を、(わず)か10日ほどにまで短縮出来るというのだから、比べる方がどうにかしている。

 ちなみに、このグレイサー号の武装は。何と、衝角(ラム)だけ、なのだそうだ。その、帆船の数倍の速力。それが生み出す慣性を背景にした、体当たり。それが、このグレイサー号の武器。とは言っても、火器が存在せず、海戦用兵器が火矢と投石機(カタパルト)だと考えると、帆を持たず、また鉄甲(ヒヒイロカネごうきん)製の艦体を持つグレイサー号を遠隔攻撃で破壊することは、事実上不可能。それに、艦内は有翼騎士団の基地でもある訳だし。

 現に、ここには(元)〝テレッサ隊〟の有翼騎士(メイド)12名が同乗している。そして、ルビー=シルヴィア・ローズヴェルト公爵専用の飛竜(ワイバーン)が。

 ルビー=シルヴィア妃殿下は、有角騎士団の団長だけど、必要に応じて飛竜を駆るのだそうだ。


 ちなみに、ルビー=シルヴィア妃殿下が同行しているのは、此度(こたび)の戦争に於ける、純軍事的な打ち合わせの為だった。


「ドレイク王国には、ひとつ約束をしてほしいことがあるんです」

「それは?」

カラン(ゴブリン)王国で、多分実戦テストを行っていた、ガトリング砲。

 或いは、それに類する、連射式火器の、開発の中止。」

「……それは、我が国に対する過度な干渉と断ぜざるを得ないわ。キミが、正式に王太子として立ったとしても、即位まではそんなことを命じる権利はないし、軍も開発局もそれに従う(いわ)れはないわ」

「おっしゃる通りです。なにも、実際に開発を中止してほしいという訳ではなく、またそう宣言してほしいという訳でもありません。

 『そういったものは、開発していないし、その能力もない』。対外的には、そういう事にしておいてほしいのです。如何なる密偵にも、その事実を悟られないように」

「……理由、は?」

「当然、俺たちにとっての都合です。

 俺は、各所で『カランで使われているガトリング砲は、この世界の技術力では作れない。これをこの世界に(もたら)せるのは、〝魔王(サタン)〟のみ』と吹聴しています。にもかかわらず、ドレイク王国で、それに類する兵器を開発していると知られたら。

 それこそ、アドルフ陛下こそが〝魔王(サタン)〟であるという根拠になってしまいます」

「それは、全てキミの責任じゃない?」

「そうです。だからこそ、『これは俺の都合だ』と言いました。

 しかも、この件に関しては。約束を守ってもらう対価は、用意していません。だから、それを強制することも出来ません。

 なら、あとは。俺の策に(はま)り、アドルフ陛下こそが〝魔王(サタン)〟だと全世界に向けて宣言するか、それとも俺の策に従い、〝魔王〟との疑いの目を()らすか。

 選ぶのは、アドルフ陛下です」


 叙爵だ同盟だ王太子だ、と浮かれていても。

 俺の立場は、まだ魔王(アドルフ)陛下の敵だ。その戦い方が、「殺し合い」ではない、というだけで。だから敵として、要求を突きつけることを、躊躇(ためら)うつもりはない。俺の一手に対し、俺が提示した選択肢とは違う選択が出来るのなら、してみればいい。これはそういう勝負なのだから。


「連射式、に、限るの? 有翼騎士(メイド)(たい)が持つ、単発式の(ブルーム)は?」

「単発式なら、『新開発の魔法』という言い訳が使えます。ましてや(アレ)は、空気圧で撃ち出すものでしょう? なら、真実魔法ではありませんか」

「そう、よくわかったわ。

 それに、そういう事なら、敢えて『約束』しない。キミの言葉は聞いたし、陛下には伝えるわ。だけどどうするかは陛下が決めることで、その決定内容をキミに報告したりもしない。何か問題、ある?」

(いいえ)。それで結構です」


 もし陛下が、第三の選択肢を見つけ出し、その手を打つのなら。俺は可能な限り早くそれを察知し、対応策を練らなければいけないだろう。それだけのことだ。


◇◆◇ ◆◇◆


「ところで、あたしからも、ひとつ。

 此度の戦争。どういう形で始まると思う?」


 ルビー=シルヴィア殿下が、俺に問うてきた。


「それは当然、セレーネ様が、ジョージ四世を弾劾し、それに対してジョージ四世が討伐の為の軍を派遣する、という形でしょう」

「真っ直ぐ軍を派遣したりはしないわ。まずはセレーネ姫に対する、破門宣言。そして姫君と、二重王国の両国王に対して、『弁明の機会を与える』という名目で、聖都に招聘(しょうへい)するでしょうね」

「だけどそれは、戦う前に無条件降伏するに等しい。特に二重王国にとっては、教国を事実上の宗主国と認めるようなものですからね。そんな提案には乗れない」


 つまり、二重王国にこそ先に手を出させようとしている、という事、か。


「ジョージ四世も、セレーネ姫も、どちらも〝善神(アザリア)〟を奉じていることには変わらない。仮令(たとえ)それが表面上のものに過ぎないとしても。

 だから、『先に手を出した』と言われることを避ける必要があるの。どうしても先制攻撃をしなければならないとしたら、その口実が必要になる。


 例えば、ローズヴェルト王国がスイザリアに侵攻し全土が戦場になるから、政治的対立を度外視してセレーネ姫を救出する為に、とか」


 ローズヴェルト王国。それは、このルビー=シルヴィア殿下の、実家のはず。


「ローズヴェルト王国の現王は、あたしの兄よ。そして兄にとって、ドレイク王は、今なお変わらず〝セレストグロウン卿〟なの」


 〝セレストグロウン〟?


「セレストグロウン。これは、アドルフがかつて〝アレク〟と名乗っていた時代、フェルマールの騎士に叙爵された時。国王陛下から(たまわ)った、騎士姓よ。

 兄にとって、ドレイク王国は。

 フェルマールが崩壊したことで乱立した、新興国のひとつ。だから、旧フェルマール建国以来の譜代の貴族であるローズヴェルトは、それらの国々の盟主たるべし、と思っている。

 あたしの、ドレイクへの輿入れさえも、先王たる父による政略だ、と(かたく)なに信じているから」


 ローズヴェルトとドレイクが、お互いをどう捉えているか。

 その齟齬(そご)に関しては、以前ソニアが語ってくれたけれど、もしかしたら、それ以上なのかもしれない。


「兄は、フェルマールを滅ぼした二重王国を、決して許さないでしょう。

 ならむしろ、この機会に大侵攻を目論んでも、不思議ではないわね」


 やっかいな要素が、また一つ。カラン(ゴブリン)王国の件もあるし、ローズヴェルトとの協調は、諦めた方が良いのかもしれない。

(2,816文字:2018/12/26初稿 2019/10/01投稿予約 2019/11/10 03:00掲載予定)

・ テレッサさんも、「ア=エトらの案内役」という口実で、グレイサー号に乗り込んでいます。

・ 既に。「ア=エト vs. 魔王陛下」の戦いは、ゲームマスターの権限の奪い合い。キャスティングボードを巡るものと化しています。

・ ルビー=シルヴィア殿下が予想する、ローズヴェルト王国の行動。これを考えると、ローズヴェルトは当然、ドレイク王国に、自分たちと協力して二重王国に侵攻することを要請するでしょう。そしてその場合、ドレイク王国の一般市民や官僚の多くにとっては、そちらの方に心が傾くと思われます。結果論として、五人が転移により(第02話以前に)ドレイク王国を訪れたことで、ローズヴェルトに先んずる事が出来たのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あれだな、感覚的には境界線上のホライゾン並みの相対戦だな。 火薬兵器の停止なら今度は大火力砲だな。 例えばテルミットとか
[一言]  何? ガトリングは魔王の武器? そうかなら今度からは砲身が一つしかないチェーンガン使おう! 目撃者「あれはガトリング!(日本人並みの混同) 魔王様だ!」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ