第14話 参戦要請
第03節 外交使節〔7/7〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
ドレイク王国への、此度の戦争への参戦要請。
それが、今回の訪問理由です。
だけど、ちょっと不安もあります。それは。
「何故、我が国がアザリア教国の内戦に、介入しなければならない?」
アドルフ陛下の言葉。そう、そういう事。この王国が、今回の戦争に介入しなければいけない理由は、無いんです。
「おっしゃる通り、介入しなければいけない理由は、ありません。
が、介入する口実は、あるんです」
飯塚くんの、言葉。って、え?
「ほう、介入する口実、か。具体的には、それはどういうことか?」
「現教皇、ジョージ四世は、ドレイク国王アドルフ陛下こそが〝魔王〟と断じ、セレーネ一世猊下を、陛下に誑かされた者、と指弾するでしょう。
陛下にとって、これは意識する必要もない妄言です。が、逆に。
この言葉ゆえに、ドレイク王国が此度の戦争に介入することは、当然のことと解釈されるのです」
つまり、「不可抗力で参戦する」のではなく、「売られた喧嘩を買う」という形式が整う、という訳ですか。
「だが、その戦争に介入するメリットは、見出せない。何故他国の内戦の為に、我が国の民を死地に追いやらなければならない?」
だけど、仮令教国から敵視されたとしても。〝無敵無敗〟のドレイク王国にとってみれば、どれほどのことでもありません。現に、ドレイク王国は精霊神殿からあまり好意的には見られていないようですから。その意味では、大差ないんです。
「私が貴国に要求したいことは、索敵と補給。それだけです。
貴国の民を、――ソニアは例外ですが――死地に追いやることはないと、約束しましょう」
「索敵と補給。つまり、有翼騎士団による後方支援、か。だが、なお我が国が介入する理由としては不十分だな」
「参戦することで供出した資材並びに人材に関する、諸経費。それは、二重王国延いては新体制下のアザリア教国に請求してもらって構いません。そして、貴国の民、兵に損害が生じないように立ち回ることを、連合軍総司令である私の責任の下に約束しましょう。
つまり、貴国は一切の犠牲なく、経費は利益を上乗せして補填され、その上で二重王国と教国に対して貸しを作る事が出来るのです」
ノーリスク・ハイリターン。それが、飯塚くんが提示した、「この戦争に介入するメリット」、という訳です。勿論、それには前提条件があります。すなわち、ボクら、二重王国側、否、〝セレーネ新教皇〟派が、此度の戦争に勝利する、という。
だけど、「敗北したら投資した資金を回収出来ない」のは、戦争投資では当然のこと。今回のドレイク王国の立場では、「勝ち馬に乗る」ことが前提だから、飯塚くん率いる二重王国軍が負けない、という保証が必要になるんです。
「それで、どのように戦術を構築するつもりだ?
ジョージ四世は、魔物を支配する方法を会得しているという。
その相手に、必勝を期する保証は、どこにある?」
「テイムされた魔物を、怖れる必要はありません。テイムされているが故に、大規模戦闘に於いては処し易い相手となっています。
そして、此度の戦争を教皇猊下のその資質を証明する為、と断じたら。
それは、ジョージ四世の、というよりも、この世界のあらゆる軍司令官よりも。
私の方が、それを証する為の戦略を知っている、という事になります」
この世界の、『正義』を司る、〝善神〟アザリア。
その代弁者に相応しいのは、誰か。
それは、言うまでもありません。
この世界の常識に従って、当たり前のように敵を虐殺し、占領下の庶民から略奪することを許す老獪な現教皇と。
世間知らずの令嬢ゆえに、当然の権利さえ否定して、偽善を貫く美しき姫君と。
第三者の目線では。或いは、蹂躙されるのが当然の庶民の目線では。
後者にこそ、軍配を揚げるでしょう。
「だが、後方支援は良いとして。その兵糧を、誰がどのように前線まで運ぶというのだ?
補給線を襲撃するのは、誰でも考える基本の戦略のはずだ。つまり、輸送隊は相応に危険に曝されるのではないか?」
追求するのは、脇に控えていたドレイク王国の官僚の一人。当然、ボクらのことは通り一遍の情報しか持っていないでしょう。
「輸送は、私たちが責任を持ちます。
それに携わるドレイク王国市民は、王国内から一歩も外に出る必要はないと、約束致します」
「だが、お前らだけでどうやって全軍の兵糧を支える、というのだ?」
「それは、私たちの秘儀に類することですので、回答を差し控えさせていただきます」
その回答は、つまり。〔倉庫〕と〔アイテムボックス〕の連携を利用した、物資の大量移送という事です。ええ、こんな場所で、その秘密を披露する訳にはいきません。
「よくわかった。だが、今この場で答えを出すことは出来ぬ。
暫しの猶予を頂戴したいが、如何か?」
「否やはありません。出来れば此度の問題に関係する、全ての者に幸福が約束される選択を成されることを、期待しております」
◇◆◇ ◆◇◆
そうして、この謁見は終わりました。
ボクらは、王妃の一人、スノー=ルシル・フェルマール公爵殿下に招かれて、別室に。って、この方は、旧フェルマールの王女様。その方が接待役となるという事は、それだけボクらの立場を高く評価している、ってことになるんです。
もっとも。案内された先には、王妃全員と、アドルフ陛下がいました。
つまり、「スノー=ルシル妃殿下に接待される」、というのは対外的な形式でしかなく、実はそういった外交的儀礼を全て排して、裸の身分で語り合おうという意味になるんです。
また、ボクらもこの立場であれば。言わなければならないことも、あるんです。
「陛下。お約束に従い、お借りしていたものをお返しに上がりました」
それは、柏木くんのお兄さんが使っていた鞄と一緒に手渡された、無属性魔石を使用した充電器や投光器。これの借用期間は、ボクたちがコンロン城に来るまで、となっておりましたから。
「では、我々も、返さなければならないものがある訳だな?」
そして、それらを借りることになった理由は、幾つかの電子機器を、陛下が継続して使用しているから。
「否。それらはそのままお納めください。オレたち……私どもが元の世界に帰る時、一旦兄さんのスマホをお預かりさせていただきたいとは思いますが。
むしろPCも、陛下の許にあった方が良いのではとも思います」
柏木くんのこの言葉は、ボクらの内で既に何度も話し合っています。
「そうか。では、充電器なども正価で君たちに売却すべきだな。そういえば、先日納品してもらった、神聖鉄製の真球の価格計算が間違っていた、と主計庁の方から連絡が来ている。良ければそれで相殺させてもらえないだろうか?」
「問題ありません」
そう、それは単に、陛下が配慮してくださったという事だから。
ボクらはただ、それを感謝するだけで、良いんです。
(2,755文字:2018/12/24初稿 2019/10/01投稿予約 2019/11/04 03:00掲載予定)
・ ドレイク王国主計庁。所謂財務省のこと。




