第27話 魔法なら、全属性
第05節 備えあれば〔4/6〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
美奈たちは、戦いの準備ばかりをしていた訳じゃないよ。
お勉強もいっぱいした。
例えば、魔法。
あの後、魔術師長(もう「さん」付けする必要はないよね?)と共に神殿に行き、〝加護の儀式〟を受けたけど、誰一人加護を得られなかった。この世界の神様に疑問を持っている所為なのか、それとも既に「属性魔法」と言われるものは全部使えるからなのか。
火の属性。
「火を飛ばす」ことは、やっぱりイメージが難しいみたい。その一方で、〔烈火〕を改良して、〔赤熱〕という魔法を作ったの。これは、おシズさんやショウくんが前線で戦う時、その武器の刃を真っ赤に熱することで、ダメージを増強する魔法。〔烈火〕とは違って「手元にある武器」を加熱するから、思った以上に難しくはならなかったよ。但し、〔烈火〕の時みたいに「鉄をも熔かす熱」をイメージすると、本当に刃が融けちゃうから、イメージは「数百度C」。「鉄が真っ赤に染まる熱」。ほら、「鉄が熱に弱い」のは小学生レベルの常識だから(笑)。
またこの派生で、単純に温度を上げる〔加熱〕の魔法も作ったの。これで簡単にお風呂に入れるよ。
水の属性。
水属性は、その相転移を自在に操れる。つまり、氷(固体)・水(液体)・水蒸気(気体)を自在に移動出来る。なら、水を一旦水蒸気に相転移させてからすぐに水に戻せば、不純物の無い綺麗な水になる。〔蒸留〕と名付けた。けど、これでせっかく買ってもらった蒸留器の意味がなくなっちゃった。おシズさんが、アルコールの蒸留に使うことにしたみたいだけど。
ところで、武田くんが水の相転移で出来ることに凄く興味を持っていた。
水が蒸発すれば、潜熱反応で温度が下がるのが、自然界の法則なんだって。でも、魔法の相転移では、温度は変わらない。魔法で氷を作ったら寒くなるのは、その氷が融ける時の潜熱反応なんだって。
なら、潜熱やその逆の顕熱を伴う相転移と、伴わない相転移の両方を魔法で出来るかもしれない。例えば、顕熱を伴わずに水を凍らせ、潜熱を伴ってその氷を融かす。それを際限なく繰り返せば、気温はどんどん下がっていくはず。このテーマで新しい魔法の研究をするって言ってたわ。
風の属性。
これは、使い勝手が良すぎて、わざわざ名称を付けるのが面倒になるくらい。
だって、風を動かせるのなら、換気とかにも使えるし、気圧も操作出来る。圧縮空気の解放で相手を吹き飛ばす〔空気砲〕は、柏木くんの嫌いなあのマンガの定番だし。
それに、空気を操れるのなら、空気の振動も操れるはず。そのアイディアをくれたのは、おシズさん。声を大きくしたり、遠くの会話を聞いたり、逆に声を聞こえなくしたり。或いは音の波をぶつけて、その反射で色々知覚したり(蝙蝠みたい、って言ったら、正しく蝙蝠のやり方の模倣で、〝エコー・ロケーション〟っていうんだって教えてもらった)。
武田くんは、気圧操作による温度操作(断熱膨張と断熱圧縮)と、潜熱・顕熱を合わせれば、もっと色々な事が出来るかも、って言っていた。
土の属性。
これは、「土」って言っていても、実際は物体を動かすんだから、無属性でしょ? ってことで落ち着いた。土属性で植物を育てる事が出来るなら、やってみたいことが色々あったんだけど。
そして無属性。
こちらも出来ることが多過ぎて、困っちゃうくらい。日常でも使い勝手が良いし、戦闘でも、投擲武器の誘導とか、ロープで相手を捕縛する時とか、発想次第で何でも出来る。何でこの魔法が「加護を享けられなかった人に対する、精霊神の慈悲」なんて言われるか、わからない。
オマケに、雷属性(仮)。
属性としては知られていなかったけど、実際簡単に再現出来た。マンガみたいに一直線に飛ばす、みたいなことは出来なかったけど、触れた相手を感電させるとか、一定距離離れたところに高電圧を発生させるとか、或いは電気を誘導して磁場を作って、雷を落とすとか。
ただ、「1Aの電流」なんかを具体的にイメージすることは出来なかったので、スマホやパソコンの充電には使えそうにないみたい。
他にも、〔契約魔法〕やその他の生活魔法の類についても、改めてちゃんと勉強したの。真新しいことは何も見つからなかったけど、「新しい発見は無かった」ことがわかった、と言うべきだ、とは武田くんとおシズさんの共通見解。というか、この世界の人たちは、魔法のことはもとより生命の事、毒や薬の事、時間と空間の事とか、そういった色々なことについて、「知らない」んだってことがわかったんだって。
ちなみに、野営の時に〔亜空間倉庫〕を開くのは、エラン先生が寝る時間帯にすればいいことに気付いたの。だって、〔亜空間倉庫〕の開閉は、表の世界での経過時間はおよそ1秒。なら、エラン先生が自分の寝ている間にあたしたちが何かを企んでいるって訝しんでも、その「1秒」を見咎められなければ何とでも言い訳出来るし。
その〔亜空間倉庫〕の性能確認で、生きたウサギを中に置き去りにしてみた。連れて入ることも出来たし、置いてけぼりにして表の世界に出た後、また〔倉庫〕を開いたら、閉じる瞬間のウサギがそこにいたの。美奈たちが出るその瞬間、ウサギは逃げ出そうと出口に向かってジャンプしたんだけど、次に美奈たちが入ろうとしたら、その時ジャンプしたウサギと正面衝突しちゃった。つまり、美奈たちが外の世界にいるとき、〔倉庫〕の中では文字通り時間が経過していないことが、それで証明出来たって訳。
なら、食料に出来る家畜や家禽は、生きたまま〔倉庫〕で保管出来そう。ただ、獣臭さだけはどうにかする必要があるけど。最悪は、生きたまま凍結庫行きかな?
その他にも、旅に必須な馬さんたちも、〔倉庫〕に入れる事が出来そうなのは、多分嬉しい情報。
あと、この世界の文字の勉強も始めた。
発音を気にすることなく単語と文法を覚えればいいだけだから、ある意味英語のグラマーより楽。しかも、基本的な文法は、どうやら英語と同じ「SVO式」らしいから、単語の意味さえ分かれば後はどうとでもなる。おシズさんが、辞書作りを始めてた。
そんな風に色々やっていたら、ある日、あたしとおシズさんは、この国のお姫様に呼ばれてしまったの。
あたしたちが要求した、洋服や生理用品が、贅沢過ぎるってお姫様が怒っているんだって。
(2,694文字:2017/12/12初稿 2018/03/31投稿予約 2018/05/23 03:00掲載 2018/06/09誤字修正byぺったん 2021/04/07誤字修正)
*「ぺったん」は、ゆき様作成の誤字脱字報告&修正パッチサイト『誤字ぺったん』(https://gojipettan.com/)により指摘されたモノです。
【注:「鉄が熱に弱いのは、小学生レベルの常識」というのは、あるなろう小説に出てくるフレーズを基にした、ある種のなろう小説に対する愚弄表現です】
・ 「赤熱」は、大体600℃~800℃。900℃を超えると「白熱」です。




