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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第七章:支配者は、その責任を自覚しましょう
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第08話 再び、ドレイク王国へ

第03節 外交使節〔1/7〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 皆で考え、ショウくんが決めた、ショウくんの旗印。

 三叉戟(トライデント)に重なる稲穂と種子島(マスケット)は、日本(いせかい)の文化と日本(いせかい)の知識を(あらわ)しているの。ショウくんが今後、この世界で生きるのなら。それらを三叉戟(このせかい)に重ねることになるんだから。


 そしてその旗印は、その日のうちに各所に届けられることになったんだよ?

 〔ポストボックス〕を使い、封印どころか旗印の図案の裏面に郵便番号と「これがア=エトの旗印となるからよろしく頼む」と言ったような王太子殿下のメッセージが書き込まれたものが、そのまま入れられていたの。


 そして、翌朝。

 王様や王太子様と朝食をともにしながら、日常会話の延長としておふたりが口を開かれたの。


「それにしても、あの〔ポストボックス〕は便利だな。もう少し数を増やせれば、他にも使途(つかいみち)がありそうだ」

「そうだな。最低でもあと一つ。リングダッド王宮にもあると良いな。

 冒険者ギルドにとっても、あれは便利に使えるもののようだ。もっとも、商人ギルドの方がそれを必要とするだろうけれどな。

 そして、各領有貴族たちにも一つずつ持たせると、色々便利になる」

「おっしゃる通りではありますが、残念ながらあれは私たちで作れるものではありません。ドレイク王国からの貸与品、とお考え下さい。

 一つ造るのにどの程度のコストを要するのかも、実は我々にも存じ上げないことなのですから」


 便利なのはよくわかるよ。手軽な高速通信の利便性は、手紙⇒電話⇒メールと発展していった地球の歴史が語っているから。

 けれど、あれの仕分けは結構大変なの。今はまだ、10に満たないボックスを管理すれば良いから、大して問題にならないけれど、これ以上数が増えたら、郵便事故が起こらないと断言出来ないんだよ?

 発信者が、必ず自分の郵便番号と宛先の郵便番号を漏らさず記してくれればまだ何とかなるけれど、もし記載し忘れとか、記載間違いなんかがあったら、もう美奈たちが責任を負える範囲を超えるから。

 今でも、一応事故が起こらないように全ての郵便物に関する記録を付けているけど、そして現在の利用者さんたちは皆ルールを守ってくれているから良いけれど、でも今後利用者の数が増えて、郵便番号未記載とかの郵便事故が発生したら、ちょっと面倒臭くなるんだよ?


 でも、それはそうと。


「リングダッド王宮にあった方が良いというのは、理解出来る注文だと思われます。

 こちらは、機会があればアドルフ王に要請させていただきます」

「機会があれば、か。だが、その機会はすぐにも来ると思うぞ?」

「え?」

此度(こたび)戦争(いくさ)、ドレイク王国は他人事ではあるまい。

 セレーネ姫がジョージ四世猊下を〝魔王(サタン)〟と糾弾すれば、当然ジョージ四世猊下はドレイク王アドルフ陛下こそが〝魔王(サタン)〟であり、セレーネ姫はそれに(たぶら)かされていると反論するだろう。

 なら、此度の戦争に向けて、ドレイク王国との連携は、不可欠だ」


 二重王国にとって、ドレイク王国は敵国だったはず。でも、陛下は明確に、態度を変えていらっしゃる。これはやっぱり、〔ポストボックス〕を活用した文通の、成果なのかな?


「そういう訳で、ア=エト。ドレイク王国から戻って来たばかりだが、改めてドレイク王国に向かってほしい。用件は、〔ポストボックス〕の追加注文、並びに此度の戦争に関する協力要請だ」


◇◆◇ ◆◇◆


「さて、そうすると、ドレイクへとんぼ返りすることになるのか」


 朝食後の、〔倉庫〕内のミーティングで、柏木くん。


「そうですね。昼前にも王太子殿下から旅券が発行されるでしょうから、それでリングダッド王都チャークラを経由してロージス領シュトラスブルグまで。そこから先は、また鉄道、ですね。

 今度はサフロアブルグ市経由で行きましょうか?」

「雄二。観光旅行に行くんじゃないんだぞ。今度は仕事だ」


 雫に叱られました。ですが。


「ですが、ドレイク王国王都コンロンシティのある崑崙(コンロン)平原に行くルートは、ネオハティスからと、サフロアブルグからの二通りあります。こちらからだと、サフロアブルグから行く方が近いはずです」


 一応、ネオハティスに行ったときに、ドレイク王国の地理は(ざっとですが)憶えておいたんです。


「そうか。今の(ユニコーン)たちなら、ここからチャークラまでは二日もあれば着く。それからシュトラスブルグまでは四日。で、列車に乗って――」

「その事なんだけど」


 雫がドレイクまでの行程を確認していたら、朝食後ずっと黙っていた飯塚くんが、口を開きました。


「ちょっと、試したいことがあるんだ」


 試したいこと?


「あぁ。それは、〔倉庫(ここ)〕を使った、長距離転移についてだ」


 ! 〔倉庫〕を使った、つまり〝ゼロの転移攻撃〟の応用としての、長距離転移?


「だが、それは可能なのか?」

「そうだぜ? あの時、リリスさまがおっしゃっていたじゃないか。オレたちが〔契約〕を完遂したら、それを出来るようにする、って」


 雫と、柏木くんが否定的意見を投げかけます。


「柏木、それは違う。あの時、リリスさまはこうおっしゃったんだ。


 『其方(そなた)らが〔契約〕を満了させたなら。

 (わらわ)が、この空間を守護することとしよう。

 〔倉庫〕の開扉は(・・・)、五人全員ではなく、誰か一人の意思で良い。

 そして定点(マーカー)を複数定めれば、どのマーカー周辺にでも扉を(・・)開ける(・・・)ようになろう。

 制限事項として、世界を(・・・)渡る扉(・・・)は五人全員で開く必要があるが、世界の内側であれば事実上の瞬間移動が単独で且つ全く魔力の消費無しで可能になる』


 と。つまり、俺たちが〔契約〕を完遂すれば、リリスさまが〔亜空間倉庫〕内空間を守護してくださる。そうすれば、〝単独で〟〔倉庫〕を開ける。

 但し、〝世界を渡る扉〟は、五人全員で開く必要がある。言い換えれば、世界を渡らないのであれば、〔転移〕としての使用でも、単独で実行出来るようになるという事じゃないか。


 俺たちが普段やっている〝ゼロの転移攻撃〟だって、短距離であっても空間転移だ。つまり、現時点でも五人揃えば、俺たちは〔倉庫〕を利用した空間転移が出来るはずなんだ」


「で、でも、その為には定点(マーカー)が必要なんでしょう? 〝ゼロの転移攻撃〟の時は、『直前まで自分たちがいた場所』が起点(アンカー)になるけど、長距離転移の時は、どこをマーカーにするの?」


 ショウくんには何か考えがあるんだろうけれど、でもやっぱり不安だからちゃんと説明してほしいんだよ?

 だけど、美奈がそう問うたら、それに応えたのは意外にも、エリスだったの。


「美奈おねーちゃん、あれ」


 エリスが指差した先にあるものは、〔ポストボックス〕。


「そうだ。〔ポストボックス〕を、マーカーに使う。

 ドレイク国コンロン城(000-0009)に、という形で飛べば、一気に向こうに行けるはずだ」


 あ、成程。でも、出来るの?


「やってみて、失敗したら次の手を考えればいい。〔倉庫(ここ)〕では、時間の経過を無視出来るからな」

「えっと、ぱぱ、ごめんなさい。こんろん城への直接転移は出来ないみたい」


 けど、エリスちゃんが駄目出し。


「え? どうしてだい?」

「ままが今、お城のまわりに転移魔法除けの結界を張っているの。んっとね? 結界に『御屋形(おやかた)様がせっかく作った街並みなんだから、ちゃんと観なさい』ってメッセージをきざんでる」


 ……対美奈たち用の結界、みたいです。しかも、その目的はコンロン城の防衛の為、じゃなく、観光させる為って。

(2,934文字:2018/12/05初稿 2019/08/31投稿予約 2019/10/23 03:00掲載 2019/10/23一部加筆)

・ 「手軽な高速通信の利便性は、手紙⇒電話⇒メールと発展していった地球の歴史が語っているから」。電話は手紙の、メールは電話や手紙の、それぞれ上位互換という訳ではありません。

・ 「ままが()、結界を張っているの」(現在進行形)。外界の時間は止まっているけど、リリスさまには関係ありません。

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