第26話 新しい武器
第05節 備えあれば〔3/6〕
◇◆◇ 宏 ◆◇◆
勿論、〔亜空間倉庫〕の整備だけをしていた訳じゃない。
エラン先生の下で武術の鍛錬もしていた。
オレと飯塚は、〔倉庫〕内で松村の指導を受けて鍛錬していたから、その技術の向上っぷりはエラン先生が驚くほどのものだったらしい。
オレの課題は、長柄戦槌を使った小技・連携技。
その為に、松村に棒術の技を学んだ。棒術は制圧の為の武技であり、対人戦特化だから対魔物戦を考えたときの攻撃力・破壊力は充分とは言えない。けれど、防御技として棒術を学んでおくのは間違っているとは思わない。棒術の技で、柄の部分で魔物の攻撃を受け流し、そのまま槌頭で攻撃する、という連携も可能だろうから。
また、武田は魔術師長に、変な武器を注文していた。
それは、長さ30cm程度の鎖分銅。しかも、それを三つだ。
そんなものをどうするのかと思ったら、更に鍛冶師の下にそれを持ち込み、一つの金属環で繋いでしまった。
「そんなモノ、どうするんだ?」
「これは、古来日本の忍者が使用していた、〝微塵〟っていう武器なんです。
非力なボクの、日常使う武器にはちょうどいいかな、って」
使い方を見せてもらった。近距離では、金属環の部分を持って、三つの鎖分銅をまとめて目標に打ち付けた。時間差で襲い掛かる三つの分銅は、確かに防禦し難いだろう。
更に距離を置いて、今度は分銅を持って他の分銅で打ち付ける。さっきに比べて射程が倍になる一方、狙いが雑になった。けど、握る分銅を二つにして、残りひとつの分銅で打ち付けたときは(威力は下がるが)命中率は上がった。成程、腕を柄の代わりにした有刺鉄球連接棍という事か? 否、分銅による直接の打撃より、標的を一旦鎖に絡めてからの遠心力の籠った一撃の方が効果があるようだから、厳密には違うのだろう。
と思ったら、更に距離を置いて、今度はこれを投げた。金属環を中心に、回転しながら目標に飛来し、それを絡め取った。絡めながら、分銅で目標を打ち据えながら。
「この投擲のやり方。原始的狩猟道具の一つ、『ボーラ』と同じです。鎖の長さ分だけ広がるから回避し難いし、前から襲い掛かって来るのに真横から撃ち据えられるから防禦も難しいんです。
そして、ボクたちは今後、食料は可能な限り自前で調達しなければなりません。
この国にいる間は、食料も資金も毟れるだけ毟るつもりですが、東大陸に移った後は、教国のサポートは受けない方針ですから」
自給自足の為には、食料を狩れなければならない。その為の道具、という事か。
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武田が用意した、へんてこ武器はそれだけじゃなかった。
麻紐を用意して、髙月に紐の真ん中あたりが籠のような形になるように編み上げてもらっていた。
「なんだ、それは?」
「これは、〝投擲紐〟って言います。こう使うんです」
と、籠の部分に石を載せ、紐の両端を握り、野球のピッチングのフォームで振りかぶり、リリースの瞬間紐の片方を手放した。
すると。
石は、明後日の方向に飛んでいき、松村にしこたま怒られた。
「えっと、失敗です」
「みたいだな。だけど、使い方はわかった。オレにもやらせろ」
勿論、すぐに練習することは禁止された。髙月が麻紐を編み、防護ネットを作ってくれるまでは。
その後何度か使ってみたら。
「結構威力が出るな。それに、コツさえ掴めば弩より当て易い」
「この投擲紐っていう武器は、格上殺しという表現の元ネタに使われた武器です。弾丸はそこら中にあるし、スリングそれ自体は隠せるから暗器としても使えるし、威力も充分。狩猟と不意の戦闘どちらでも使えます」
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そんなオレたちを見て、飯塚もまた変な武器を作ったようだ。
まずは鎖分銅を注文。また、髙月に3m程度の長さの網を作ってもらい、その網の片側先端に分銅を結び付けた。
「なんだよ、投網か? 海に出たとき用か?」
そんなことを思ったが、武田の知識にその武器があったようだ。
「成程、〝戦闘投網〟ですか。槍使いの副武器と考えると、むしろ王道ですね」
聞いてみると、ローマ時代の剣闘士奴隷には、「投網闘士」というのがいたらしい。投網で相手を絡め獲り、槍で突く形で攻撃するのだとか。対戦相手にとってみれば、網は厄介。よく漫画の描写で、「網を引きちぎって逃げる」というシーンがあるけど、現実には引きちぎれても、残った網の部分が脚を取るから、「戦闘」という一局面に於いてはかなりの不利を強いられるそうだ。
これも狩猟道具兼用武器。初見でその脅威を測れる人は少ないだろうし、やはり魔物相手にも充分有効。但し、相手が格上の場合、敵と繋がる訳だから、逃げられなくなる恐れもあるのだが。
そして、微塵、スリング、レーテに共通する性質は、中近距離戦用・対単体・収納性(レーテは除く)。基本狩猟道具だからガチの戦闘では決戦力不足となるけれど、ちょっとした露払いとか、不意を突かれた(奇襲を受けた)時に即座に対応出来る武器というのは心強い。
ちなみに、髙月は大小様々な網を作っている。漁師から買い上げたものだけでは足りないようだ。
「網って、色々使えるんだよ? 防護ネットにもなるし、物干し紐代わりにもなるし、ベッドにもなるし、縄梯子代わりにも使えるし。束ねて紐として使うとかなり頑丈だし。それこそお船だって引っ張れるんだよ? 普通なら置き場所に困るけど、〔倉庫〕はまだかなり場所的に余裕があるから、いっぱい作っておくんだよ?」
そんな髙月の言葉を聞き、網寝台を皆で試したくなってしまった。
実際はあまり寝心地が良いとは言えないけれど、少なくとも板の寝台より数倍マシ。それに、野営を考えたらかなり安全になるし。
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そんなことをしながらも、また何度かエラン先生引率下で野外実習を行った。
最初は、「戦闘」を体験することが主目的だったが、〔契約〕後の実習は、(エラン先生が出した課題は別の話として)サバイバル技術の向上を目的とした。実際に獲物を狩り、自分たちで捌き、調理する。或いは皮や角、魔石など売れる部位を可能な限り傷付けることなく採取する。
微塵などの新しい道具のおかげで、ほとんど傷付けることなく(というより殺すことなく)捕縛出来、最小の傷でその息の根を止められる為、エラン先生が驚くほどに状態の良い素材を回収出来た。
また、飯塚はレーテと槍を使って野生のシカを仕留めてこれもまたエラン先生を驚愕させた。
こうしてオレたちは、反撃の為の準備を着々と整えていくのだった。
(2,862文字:2017/12/12初稿 2018/03/31投稿予約 2018/05/21 03:00掲載 2018/06/09誤字修正byぺったん)
*「ぺったん」は、ゆき様作成の誤字脱字報告&修正パッチサイト『誤字ぺったん』(https://gojipettan.com/)により指摘されたモノです。




