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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第六章:進路調査票は、自分で考えて書きましょう
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第39話 越境

第05節 示された道〔4/5〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 出来立てカップルは、皆に冷やかされながら祝福され、でもまだ「美奈たち五人」の関係としては、大して変化はなかった。変わったことは、二人のお互いに対する呼び名が変わった事と、おシズさんが武田くんに対して以前より大胆になった事、そしておシズさんが〔倉庫〕の中で肌を見せることを武田くんが叱るようになった事、くらいかな?


 ソニアのアタックも、始まったばかり。「消去法で選んだ」と思っている柏木くんを攻略するのは大変かもしれないけれど、それこそ多様な戦況に即応出来る〝独立騎士(オールマイティ)〟の面目躍如。自分のペースに持ち込んで、柏木くんが対応出来ない状況に(から)()って、既成事実を作っちゃえば。うん、正面から勝負する必要なんか、どこにもないんだから。


 そんなこんなで(先駆者の余裕?)二組のカップル(未満)を見守りながら、美奈たちは再び車中の人に。夜汽車に乗って、武田くんとおシズさんは肩を寄せ合い眠りについた。


「本当に、可愛い。もしかしたら、おシズさんのこんなに無防備な姿、初めて見たかも」

「美奈。お節介小母(おば)さんみたいだぞ?」


 ! ショウくん、それはさすがに失礼だよ?

 そう思いながら、視線を転じると。ソニアと柏木くんは、今まで通り。別に膝枕をしてあげる訳ではなく、「あ~ん」してあげる訳でもない。そんなあざとい(・・・・)ことをしたら、逆に引かれるってことを、知っているから。ただ(そば)にいて、それが当たり前になるように。それが、ソニアが選んだ現段階での戦術みたい。


◇◆◇ ◆◇◆


 一夜明けて、第868日目の朝。列車は、オークフォレストの駅に到着したんだよ。

 そのまま駅舎内の窓口に行って、越境手続きをするの。


「まずアプアラに入り、ロージス地方からリングダッドへ、ですね?

 身元の照会は終わりました。アドルフ陛下からの連絡も来ております。

 皆様が越境することに、何の問題も御座いません」


 どうやらここでも、陛下が手を打ってくれていたみたい。何だかんだでお礼を言っておかないと。


「これが旅券になります。国境を越える際に提示を求められますので、肌身離さずご持参ください」


 渡されたのは、B5くらいのサイズの書類。これがあれば(持ち物検査くらいはされるでしょうけれど)国境を越える事が出来るんです。

 そして、次に切符を買いました。この切符はアプアラ王国首都ウーラまで。ウーラで、改めてロージス領都シュトラスブルグまでの切符を買うことになるみたい。


 そしてウーラ行きの列車は、お昼前には発車します。手続きは、思ったより早く済んだけど、それでも時間がかかったことには変わりない。客車は午前に三本しか出ずに、午後に発車する列車は全て貨車なんだとか。つまり、これから乗るのは今日の最終便。乗り遅れたら一日待たないといけなくなるから。急がないと。


 でも、何故客車は午前中にしか発車しないのか。

 それは、越境手続きの為だったんだよ?


 国境地帯で列車は完全停止し、乗客全員の切符と旅券、それに身分証明書(美奈たちの場合は冒険者(カード))を確認される。この時間、乗客は客車内を移動することが禁じられ、展望デッキだの食堂車だのに立ち入ることは禁じられる。実際、トイレに立つことさえ許されず、検札を待たなければいけないの。

 これは当然、違法越境を遮止(しゃし)する為に必要なことだから、窓を開けることも禁止。不正に乗車している人を見つけ出し、或いはこのタイミングで不正に乗車することを試みる人を遮止するのが、検札官(えんまさま)の役目だから。


◇◆◇ ◆◇◆


 検札が済み、列車は再び動き出す。

 国境地帯は下り坂を鉄橋のような形で下っていくよ。


「へぇ、面白いですね」

「何が?」

「この鉄道、です。万一アプアラとドレイクの間で戦端が開かれた時、このレールが進軍ルートにならないように考えられています。つまり、この坂道の部分を爆破してしまえば、アプアラ側から列車を走らせても、ドレイク側に入境出来ないんです」


 そして、ドレイク側の方が高い位置にあるという事は、その選択権はドレイク側にあるという事。しかも、有事にはこの検札場が防衛戦の(とりで)になるの。それこそリュースデイルの(せき)と同じく、ドレイク側に一方的に有利な。

 これだけでも、ドレイク王国とアプアラ王国の、力関係がわかるんだよ。


 そして夜に、アプアラ王国首都ウーラに到着したの。

 ここでは乗り換えだけど、次のシュトラスブルグ行きの列車は明日朝発車だから、宿で一泊するんだよ。

 なお、これは強制。駅舎での雑魚寝は許されないの。それを目論む場合、浮浪者・貧民と断じられ、市街から強制排除(外国人の場合一晩営倉(えいそう)に留置されたうえで出発地に強制送還)されるんだって。国際列車で旅行するのなら、その程度の資金力はあるはずだというのが前提で、逆に「物乞(ものご)行脚(あんぎゃ)は許さない」という事だって駅員さんが言っていた。

 だから、駅舎に併設された宿(ホテル)に入り。この宿は、列車の乗客が宿泊客の前提となる為、旅行者に有利なサービスが幾つかあるみたい。出発便に間に合うようにコールしてくれるとか、その日に使わない旅行荷物は先に列車に運び込んでくれるとか、列車の中で食べる為の駅弁を前夜のうちから注文出来るとか。美奈たちは、駅弁を人数分と、発車時刻のコールをお願いしたんだよ。


◇◆◇ ◆◇◆


 そしてシュトラスブルグ行きの列車に乗り。この行程は三日間。但し、ドレイク王国内のような「途中下車自由」の切符じゃなかったの。これは、ドレイクの方がサービスが良いのか、それとも美奈たちが外国人だからなのかはわからないけど。

 で、列車の中で丸一日過ごし、翌870日目の午後。ロージス領に入境した。


「あれ? 鉄橋の上に駅があるの?」


 領境にある鉄橋を渡っているとき。反対方向へ行く列車が鉄橋の真ん中で止まっているのに気が付いた。


「ああ、あれは入境検札所だよ」


 そうしたら、近くの席に(すわ)っている人が教えてくれた。


「でも、こっちの線路にはないですよね?」

「そうだね。君たちは外国人かい?」

「はい。スイザリアに戻る途中です。来るときは海路でボルドに出ました」

「あぁ、そうか。じゃあ知らないのも当然だね。

 ロージス領は、何処(どこ)の国の民でも、入境審査はないんだ。例外は軍隊くらいなもので、農民でも職人でも、誰でもロージス領に入境出来る。

 その一方で、ロージス領から出るときは、同じアプアラ国内の移動でも、国境審査と同じくらい厳格に検査されるんだ」


 あの、ゲマインテイル地方を思い出します。けれど。


「だけど、アプアラ本領からは、この鉄道で大量の物資がロージスに送り込まれるからね。下手をしたら近隣の、ローズヴェルト王国メーダラ領や、カナリア公国、そしてリングダッド王国などとは比較にならないほどに豊かな領地になっている。

 だから、近隣領国からロージスに入境する人数は、出国する人数よりはるかに多いし、アプアラ本領への移動を希望する人もまた多い。

 だから、入境検札には時間がかかるみたいだね」


 ゲマインテイルとは違い、敢えて複数の文化を融合させることを前提とした、領地。

 これも、魔王陛下の政策なのかな?

(2,859文字:2018/11/06初稿 2019/07/31投稿予約 2019/09/17 03:00掲載予定)

【注:「遮止」(仏教用語)とは、文字通り「(さえぎ)り止める」ことで、原典では「〝亡者が現世に戻ってくることを〟遮り止める」ことを指して言います。なお「遮止」はサンスクリット語で「यमराज(ヤーマラージャ)」といい、それを漢訳(音訳)すると「閻魔羅闍(エンマラジャ)」つまり「閻魔(えんま)」になります。なお、(遮り止める)閻魔様と(道を導く)地蔵様が同一人(神)物なのは、公然の秘密(日本仏教と中国道教)】

・ 貨車に積み込まれる荷物は、規格コンテナ。目的地までは、誰であっても開封出来ません。だからこそ、出発地での検査が終わっていたら、越境に際して封印の確認以上の再検査の必要はなく、その為貨車は夜間でも越境出来ます。勿論、コンテナの隙間に人間が隠れていないかなどの点検はされますけれど。

・ 『旅券』は、国家或いは領主が発行する身分証明書。『手形』は、越境許可証。国際列車の旅では旅券だけで事足ります(切符が手形の役目を果たすから)。

・ 彼らがドレイク王国と取引する理論真球の代金は、商人ギルドの為替で支払われています。その国の、商人ギルドに持ち込めば、その国の金貨に換金してくれる為、下手に金貨やイェン紙幣で支払われるよりも利便性が高いんです。ちなみに、国際列車の駅には、商人ギルドの出張所があります。

・ 「物乞い行脚は許しません」。言い換えると、不正な移民となるべく有り金はたいて切符を買った人は、乗換駅のホテルに泊まるお金がない為、出発地点に送り返されます。

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