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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第六章:進路調査票は、自分で考えて書きましょう
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第35話 後ろ髪を引かれながら

第04節 北の国から〔7/7〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


 前夜確認した時は、アドリーヌ姫(000-0007)から俺たち(000-0008)宛の手紙は〔ポストボックス〕には入っていなかった。けれどそれはタイミングの問題だったようで、今朝〔ポストボックス〕を確認してみたら、俺たち(000-0008)宛の手紙が投函されていた。

 早速開いて中を確認してみたところ。これまでの護衛と勉強についての礼とこれから学校で頑張るという事が、短い文章で記されていた。ただそれは、別れ際にも言われていたこと。けどよく見ると、公爵家の透かしの入った上質な植物紙に貴族言葉(それも文章用の飾り文字)で、形式ばった文章。文末にはアドリーヌ公女自身の章印が()されていた。

 もっとも、公女殿下個人の紋章は公式にはまだ与えられていないから、それに公的な意味はない。ただ、公女自身の気持ちの(あらわ)れ、という事なのだろう。「12歳の女の子」としてではなく、「公爵家令嬢にして、未来の伯爵夫人」として、の。俺たちが騎士志望の冒険者なら、この手紙は家宝になる。そのくらいの重さのある手紙という事だ。俺たちにとっては家宝にはならないけれど、妹分にして出来の良い生徒であった〝ドリー〟からの手紙。大切にする理由に事欠かない。

 だからその場で返事を書いた。これから頑張れ、と、ありきたりな言葉ではあったけれど。


 今日の昼。俺たち(000-0008)の〔ポストボックス〕宛に、ウィルマーギルド(000-0006)からの手紙が。確認してみたところ、依頼(クエスト)達成を(ねぎら)う言葉の他、案の定、「ドレイク王国王子にして王太子候補」についての質問があった。

 だからそれに対し、「俺たちも昨日はじめて聞いた。訳が分からない。詳細はドレイク王国(000-0009)に問い合わせろ」と返事をし、その他アドルフ王に〔ポストボックス〕を渡したことと、陸路(リングダッドけいゆ)でモビレアに戻る旨記した。

 また同時に、アドルフ王(000-0009)にも手紙を投函した。スイザリアの皆に対し、ドレイク国王の立場で釈明をしてほしい、と。

 なお、アドルフ王(000-0009)宛の手紙は、〔ポストボックス〕に入れて(ふた)を閉める前に、消滅した。うん、そんな事が出来る邪女神は一柱(ひとり)しかないから、気にする必要はないだろう。地味にSAN値が削られるけど。


 そして夕方。ドレイク王国(000-0009)の〔ポストボックス〕には、スイザリア王宮(000-0001)宛、モビレア領主城(000-0002)宛、サウスベルナンド伯爵(000-0003)宛、モビレアギルド(000-0005)宛、ウィルマーギルド(000-0006)宛の手紙が投函されていた。多分、内容は全て同一だろう(ウィルマーギルド(000-0006)宛には他にもプライベートな内容が記されているのかもしれないけれど)。

 俺たち(000-0008)宛の手紙もあった。内容は、理論真球の納品について。今後注文がある時はソニアの〔アイテムボックス〕に、材料と仕様書を届けるとされていた。そしてその〔ポストボックス〕には、無属性魔石が4石と、鉄工職人ギルドの会員(ギルド)(カード)が一緒に入れられていた。確かに、鋳造(ちゅうぞう)は鉄工職人の領分。今の俺たちは、鋳型(いがた)さえあれば、どんな鋳造も思いのまま。しかも加熱しない加工だから、材料の膨張収縮もない上、重力さえ無視出来るから凝固(ぎょうこ)のタイミングでの(かたよ)りもない。理想的な鋳物が作れることだろう。


 一夜明けて、第866日目。ソニアの〔アイテムボックス〕には、さっそく注文書と材料が送られてきていた。ちなみにその半分は、神聖鉄(ヒヒイロカネ)のインゴット。確かにヒヒイロカネの鋳造も簡単に出来るのなら、その価値はこれまで以上に跳ね上がる。

 また、スイザリア王宮(000-0001)の〔ポストボックス〕には、かなり分厚い封筒がドレイク王国(000-0009)宛で投函されている。間違いなくその内容は、俺たちに関することじゃない。(れっき)とした二国間のホットラインとして、この〔ポストボックス〕を活用しようとしているという事だ。その内容が俺たちに()れるリスクを考慮しても、異国の王(それも今まで得体の知れない魔王とされていた相手)とリアルタイムで手紙(ふみ)を遣り取り出来ることのメリットに軍配が上がったという事だろう。勿論(もちろん)、その封蝋を破るつもりはないけれど。


 アドルフ陛下の注文を片付けてから。ふと気が向いて、矢や(クロスボウ)矢弾(クォレル)小型弩砲(バリスタ)大型弩砲(アーバレスト)矢砲(ボルト)などの(やじり)の鋳型と材料となる鉄鋼も注文した。この〔倉庫〕での鋳物の製造能力は、間違いなく戦略級。なんせ俺たちがやる気になれば、材料がある限り鋳物製の武器は外界時間では瞬時に完成するという事だから。だからこそ、それを知っている相手(まおう)には俺たちの武器の為にしか使わないと表明する必要もある訳だ。


◇◆◇ ◆◇◆


 〔倉庫〕を出て、そしてアドリーヌ公女の寮を訪問。ちょうど通学時間だったようで、ランドセルを背負った公女が領の玄関から出てきた。


「あ、先生がた!」

「おはようございます、姫様」

「おはようございます。でも、どうなさったんですか?」

「俺たちはこれから出立します。そのご挨拶に」

「そうですか。でも、いつでもお手紙書けますから、寂しくありませんね」

「そうですね。それに、夏には一度モビレアにお戻りになるのでしょう?」

「その予定です」

「その時に、どれだけ成長しているか。楽しみにしていますね」

「うわぁ、宿題出された気分です」


 一通り笑い合い、侍女さんたちに挨拶してから一緒に路面鉄道(トラム)の駅に向かった。

 けど、乗るトラムは逆方向。公女様は学校へ、俺たちは逆方向にある、広軌鉄道の駅へ。


◇◆◇ ◆◇◆


 さて。俺たちがモビレアに帰る為には、リングダッドを経由する必要があり、その手前にはアプアラ王国がある。ドレイク王国とアプアラ王国、アプアラ王国とリングダッド王国では、それぞれ国境を越える訳だから、相応に手続きが必要だ。そう考えていたのだが。


「まずはドレイク王国ビジア伯爵領都オークフォレストに行ってください。オークフォレストで越境の手続きが出来ます。出入国手続きは車内検札で終わりますから、それほど難しく考える必要はありませんよ?」


 駅員さんに聞いてみたところ。あっさりそう言われてしまった。そしてアプアラからリングダッドに入るときは、また別の手続きが必要になるのだとか。そちらはロージス領都シュトラスブルグで手続きが出来るらしい。

 そして、ネオハティスからオークフォレストまでの路線は、サフロアブルグ市を経由する路線とブッシュミルズ市を経由する路線があり、具体的にはボルド河の北岸を走るか南岸を走るかの違いなのだそうだ。


 ブッシュミルズ。あの、『ティアードロップ』という銘柄のウィスキーの蒸留所がある町。松村さんの方を見てみると、やっぱりそちらが気になるようだ。

 だから、俺たちはブッシュミルズ経由の路線の切符を購入することにした。

(2,615文字:2018/11/05初稿 2019/07/31投稿予約 2019/09/09 03:00掲載 2021/08/03脱字修正)

・ ヒヒイロカネの加工。「熱溶解」なら固有の魔力パルスに合わせた〔神鉄炉〕が必要ですが、〔倉庫〕内の加工部屋は、「固体のまま流動性を持たせる」という性質の為、〔神鉄炉〕なしでヒヒイロカネの加工も出来るのです。ちなみに、この部屋に入る時は金属を身に帯びてはいけません。常温のまま溶けるから。

 なお、鋳物の鋳型は陶器製です。

・ ネオハティスからオークフォレストまで、サフロアブルグ経由でノンストップだと半日ですが、駅に停まって貨車の接続・切り離し等で時間がかかるので、おおよそ30時間かかります。

 ボルド・ブッシュミルズ経由だと、ノンストップで走っても丸一日。駅での停車時間を含めると約二日かかります。

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