第34話 取引
第04節 北の国から〔6/7〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
ボクが向かったのは、雑貨屋さん。本当の目的は「無属性の魔石」でした。
冒険者ギルドでは取り扱いがなく(納品対象でもないようです)、雑貨屋さんでも取り扱いはありませんでした。
店員さんに話を聞いてみたところ、魔石動力の製品は基本官製で、一般には流通しないのだそうです。例外が、住宅設備。これは建築時点からそれを組み込まれ、だからその設備単体で販売されることはないのだとか。
となると、購入する為には役所で直接交渉するしかなく、その為には飯塚くんの〝肩書〟に頼らざるを得ない、という事です。
ともかく残念ではありますが、この雑貨屋で紙などの消耗品の他織機と足踏み式裁縫機械を購入しました。髙月さんには使途はかなりあるでしょうから。なお、織機とミシンの両方に、「野麦」の章印が捺されていました。あゝ野麦峠。
◇◆◇ ◆◇◆
昼過ぎ。
冒険者ギルドで皆と合流して、次に行く場所は鉄工所。鋼材を直接仕入れようという事です。
「はぁ? おめぇら冒険者だろう? 未加工の鋼材なんぞ、何に使うんだ?」
「まぁちょっと、金属加工に手を出してみようと思いまして。端材で構いませんから、購入出来ませんか?」
当然ながら、ここではT/Cは使えません。だから、両替したイェン紙幣で買える量の鋼材を購入しました。
そして、これから行うことは、結果が保証されていません。だからこそ。まずは少量で試す必要もあったのです。
それは、〔倉庫〕を開き、部屋を一つ作って、そこの中で鋼材を加工する。
金属鋼材が、粘土のように加工出来るのか。否、そういう疑いの気持ちが、ここでは出来るはずのことを出来なくするんです。だから、出来ると信じて、試行。
結果。それは溶鉄ではなかったはずなのに、面白いように加工出来ました。うん、これなら理論真球のみならず、鋳造なら鋳型があれば何でも作れるでしょう。
さて、鉄工所では。ボクらが鋼材を購入してから、時間の経過がありません。
だから、ボクらの手の中にある軸受け用の真球が、今買ったばかりの鋼材が原料になっているという事は、予想も出来ないでしょう。
「ところで、このベアリング用の鋼球。もし宜しかったら買い取っていただけないでしょうか?」
「はぁ? 軸受け用の鋼球だと? ちょっと見せてみろ」
そしてボクらの手から真球を受け取り、機械に当てて試験しているようです。しばらくして。
「これは、最近流通している鉄球に遜色ない精度のモノだ。おめぇら、どこからこれを手に入れた?」
「ボクらが加工しました。その方法は勿論秘密ですが。
多分、最近流通しているモノも、ボクらが加工したモノのはずです。確認を取ってくださっても構いませんが、ボクらもこの町に長逗留する予定はないので、今現在で評価してください」
これは、この職人さんにとっては博打要素がある取引になります。もし従前に流通している真球より精度の低いモノであれば、当然損をすることになる一方、同等或いはそれ以上の精度のモノであれば、ボクらは即決を要求している以上、かなり安い値段で妥結されるのですから。
悩んだ末、職人さんが提示してきた金額は。
その原材料となった鋼材の、200倍以上の値段でした。
その対価で買えるだけの鋼材を購入し、鉄工所を離れます。
さすがにその鋼材をすぐに真球に加工したら怪しまれますし、それ以上にこの工場の支払い能力を超えるでしょう。
というか、この国で流通しているベアリング用の鉄球は、そのほとんどはボクらが作ったもの。少なくとも、「高級品」と言われるものは、間違いなく全てがボクらの作ったものです。
となると、一民間鉄工所に大量に卸してしまうと、ちょっと困ったことになってしまうかもしれません。
ので、一旦冒険者ギルドに戻り、受付嬢に交渉することにしました。
「えっと、どういう事でしょうか?」
「まず、最近この国に、高品質のベアリング用の真球が流通するようになったのをご存知ですか?」
「否、流通はしていません。確かに、ナーギニー公爵を経由して、超高品質の真球が輸入され始めていますけど、その取引は政府によって管理されており、民間業者が札束を積めば手に入るものではありません」
「はっきり申し上げますが、その真球の製作元は、ボクらです。
現在、約1t相当の、鋼鉄製の真球を即時に納品出来ます。また規格を指定してくださればそれに合わせた真球を作成することも出来ますし、材料を提供してくだされば、特殊鋼の合金製或いは神聖鉄製の玉軸受も作成出来るでしょう。
一方、ボクらは無属性の魔石が欲しい。これもまた、一般に流通していないと聞いています。
だから。
真球の納品と、無属性魔石の購入。この取引が出来るところに、紹介状を書いてもらいたいんです」
「……そういう事情なら、納得しました。応接室にご案内致しますので、そちらで少々お待ちください」
◇◆◇ ◆◇◆
それから、少し経って。
「キミたちが、旅団【縁辿】。カケル王子、否、ショウくんとその仲間たちね?
初めまして。ハティスの冒険者ギルドのギルマス、オードリーです」
ここでもまた、女性の幹部。「あらゆる意味で女性優遇」というのは、誇張ではないようですね。
「話は聞きました。
真球の納品と、無属性魔石の購入。
実は、無属性魔石は我が国の戦略物資に該当しますので、販売はされていません。
が、同時に。ショウくんたちが納品してくれるベアリング用の真球も、最近戦略物資に指定されました。
そうなりますと、戦略物資である真球の供給源である貴方たちに、戦略物資である無属性魔石を譲渡出来ないというのは、正常な取引とは言えません。
これは、国家戦略上の問題として、奏上する必要のあることですから、しばらく時間をください。
とはいえ、貴方がたは遠からずこの町を離れるのですよね?」
「はい。この町に来たのは依頼で、ですから、そのクエストが完了した以上、長居する理由はありません」
「そうなりますと――。
あ、ソニア。貴女は有翼騎士としての籍は、まだ残っているわよね?」
「是。というか、有翼騎士として、勅命により王子殿下らの護衛の任に就いております」
「なら、貴女が連絡役になってくれるって思っていいのね?
むしろ、今までは納品された真球を有り難く買い取らせていただいていた我が国だけど、それがちゃんとした経路を以て注文出来るようになるというのであれば、そのメリットは計り知れない。
そういう訳だから、この場での回答は出来ません。後日、真球の注文と同時に譲渡出来る無属性魔石の数を交渉することになると思います」
「わかりました。それで結構です」
(2,669文字:2018/11/03初稿 2019/07/31投稿予約 2019/09/07 03:00掲載予定)
・ ミシンや織機、そして繰糸機(製糸用の機械)を製造しているのは『ワィルドウィート商会』といい、『セラの孤児院』の関係会社(商会長は名義上セラ・ハティス男爵夫人の御令嬢――まだ十代だから、実務は別の人に委託――)です。女性鍛冶師・女性技師・女性職人と、見習いの児童たちで運営しています。この商会で製造された製品には、全て〝野麦〟の章印が捺されます。
・ 武田雄二くんは、製糸(蚕の繭などから糸を作る)の為の繰糸機も、紡績(綿や毛などから糸を作る)の為の糸車或いは紡績機も買いませんでした。さすがにそこまでは必要ないと考えた模様。ちなみに髙月美奈さんは、下着類もそれなりの数買いました。但し、紳士下着でデザインが凝ったものは無かった模様。
・ お買い物価格ランキング:1位……織機、2位……足踏み式ミシン、3位……マグロ(20kgクラス:解体手数料込み)、4位……生糸・反物等。鋼材は評価対象外。
・ 鉄工業者さんは、理論真球の鉄球を指して「最近流通している鉄球に遜色ない精度のモノ」と言っていますが、一方冒険者ギルドの受付嬢は「否、流通はしていません」と言っています。これは、鉄工所が役所から買い付ける(希望量を買えるのではなく、用途と必要量そして現在在庫有高を申請し審査された後対価を支払って支給される)モノも〝流通〟と認識しているという意味です。「要求した量を無条件で入手出来る」といった〝ホワイト国扱い〟はありません。
・ この日、彼らから鉄球を買い取った鉄工業者さんですが、それはすぐに役所に全量買い取られてしまいました。「同一品」ではなく「同等品」と査定していたので多少安めの値付けをしていた為、差額が業者さんの利益として残りましたが。




