第28話 美味しく、召し上がれ?
第03節 教えて、魔王様〔7/7〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
肌を見せる風習の無いこの世界で、日常的に薄着になる、水泳部員。
そして海水浴等のレジャーが無い為、「水泳」(水練)の重要性はまだ認知されていないようです。
その結果、「水泳」という競技は。
国王陛下の目を楽しませる為の、性的な娯楽、と認識されているのかもしれません。
だから見目麗しい女子生徒が揃い、むしろ見せることを念頭に置いた水着や下着を着用し、セックスアピールを忘れない。うん、駄目ですね。
「陛下。水泳という教練の意義が、現場に全く浸透していないように思えるのですが」
「……すまん。これは完全に行政側の不手際だ」
「ちなみに、水着のデザインはどんなのです? まぁ性的魅力を主張しないようにとデザインされたスクール水着が一部変態どもに歓迎されると考えると、どんなデザインでも無駄かもしれませんけれど」
「……普通の、水中での体温保存と局部を隠すことを目的とした普通の水着はあるが、それ以外にもビキニやハイレグ・マイクロなどの〝魅せる〟為の水着もある。言い訳無用で、俺の趣味だ」
「この様子だと、そのエロ水着が水泳部の活動着になっていそうですね」
「……カリキュラムを、見直そう」
「って言うか、この水泳部の卒業後の進路についても、追跡調査した方がいいんじゃないですか?
それに、水泳教育にしても。水泳部を作るより先にヨット部を作り、落水事故に備えて水泳を教える、という形で進めていったらいいと思います。普段泳がないのに泳ぎを教える、のではなく、海に出ることを前提に練習する子たちに、事故に備えて泳ぎを教える、とした方が受け入れられるのではないかと思います」
「そうだな。その方が現実的だ。
少なくとも、風俗嬢の養成所になっている現状は、問題が大き過ぎるな」
それにしても。
あの一瞬の情景を脳裏に再生してみて、改めて思います。
ソニアを含め、うちの女子のレベルの高さを。
胸の大きさとか、腰のしなやかさとか、足首の細さとか。
パーツの一つ一つを取ってみたら、うちの女子に勝っている娘もいましたけど、総合評価でうちの女子に勝てる娘は、一人もいませんでした。
「武田。女を品定めするな。比べられて喜ぶ女はいないぞ」
……すぐに、松村さんに叱られました。はい、脳内映像削除します。
◇◆◇ ◆◇◆
そんなこんなで部活動の視察を終えた後。
アドリーヌ公女と合流し、陛下お勧めのレストランで食事を採ることになりました。
「……いきなり会食、って、予約していたんですか?」
「さっき、空席の確認はしたよ。
このレストランは、この町でも数少ない、〔アイテムボックス〕を貸与している店でね。多くの料理を出来立てのまま保存しているんだ。だからその気になったら、席に着いた直後に熱々の料理を供してもらえる。まぁ他店との競合の関係上、お値段は割高で且つ税金も重課されることになるけれどね」
この店は、どちらかというと上流階級向け。商談・政談の為の場という趣向があり、店員もそれを弁えています。普通のフルコースなら、ある程度の間隔を置いて料理が供されるか、或いは客の箸の進み具合で次の料理を供する判断をするのだろうけれど、この店の場合はむしろ会談が主目的だから、料理の順番やタイミングはホストの指示に一任するのだそうです。だからどのタイミングで指示が出ても即座に料理を運べる、というのが、この店の売りなのだとか。
そして、この会席は魚尽くし。内陸国のスイザリアではなかなか見られない、魚料理が次から次へと運ばれてきました。
「魚に限らず獣もだけど、大型のモノは仕留めた後の残存体温で腐敗が始まる。だから鮮度保持の為には、冷凍技術が重要なんだ。だから我が国では、冷却魔法と気圧操作魔法を併用して作った液体窒素を大量に備蓄して、漁船に託している。
マグロなんかも、はじめの頃は加熱しないと食中毒の危険があったけど、ようやく刺身で食べられるようになったんだ」
「うぅ。白いご飯が欲しいです」
「うん、この前二度目の世界周航から戻ってきたサリア、リンドブルム公爵が、稲の種籾を持ち帰ってくれたから。栽培実験をして、味を確認して、それから品種改良。って言っても遺伝子操作や掛け合わせなんかは出来ないから、優良種の選別と生育環境を変えて淘汰、みたいなやり方で少しずつ整えることになるから、まぁ50年から100年は軽くかかるだろうな。
俺の生きているうちに、懐かしい前世の味を楽しめるようになればいいと思っているよ」
ちなみに、各農村にも〔アイテムボックス〕の貯蔵庫があるのだそうです。収穫物の一部を納税の為に換金して、また自分たちで食べる分と生活の為に販売する分、更に翌年の種とする分を選り分け、更に余った分を(有料だけど)貯蔵庫に預けておくことで、不作・凶作に備えるのだそうです。通常の勤勉な農家にとって天候が順調なら、5年もすれば1年間くらい収穫物0でも生活に困らない程度の備蓄を準備出来るのだとか。
そうなると、今度は品種改良を考える余裕が出来るんです。品種改良は当たるも八卦で、上手くいったら収穫量が増えたり味が良くなったりしますけど、失敗すればそれこそ無収穫ともなりかねません。だから余裕が無ければ出来ないけれど、貯蔵庫のおかげで一般農家でも普通に品種改良を試せ、また品評会などで優劣を競い合う事も普通に行っているのだとか。
そして、この貯蔵庫のおかげで。豊作・不作の別なく、この国から輸出される穀物の量も価格も一定。下手をすると、貨幣よりも価値が安定しているみたいです。
アドリーヌ姫も、これまで滅多に口に出来なかった魚料理が、バリエーション豊かに供されることに、興奮を隠せない模様。髙月さんに食べ方(骨の除け方)を聞きながら、楽しそうに食べています。
「そういえば。公女殿下の担任になる教師にお目にかかりました。
教師は言っていました。『国が滅びた時、精霊神は何もしてくれなかった。自分たちを助けてくれたのはアドルフ陛下だった』、と。
公女殿下。学校内で、精霊神を讃えるような言葉は、もしかしたら反感を買うかもしれません。その理非善悪ではなく、ただ人間関係を潤滑にする為に、言葉を選ぶことを助言致します」
「有り難うございます。先生のご配慮に感謝します」
◇◆◇ ◆◇◆
会食の後は、解散。公女たちは寮に戻り、陛下もボクらから〔ポストボックス〕を受け取って、市内の邸宅に帰ります。
ボクらは陛下に紹介してもらった宿へ。
「明日は、ショッピングだね。買いたいものがいっぱいあるよ」
この国でしか生産・販売されない、無属性魔石。この国の繊維産業で作られた、生地や衣服、それに紙類。この国には、使い捨てのトイレットペーパーも普通に販売されているようですが、この国でなければ買えない消耗品は、再調達出来るかどうかがわからない以上、避けた方が良いかもしれません。
そして、髙月さんはマグロに興味を示している模様。さすがに鮪の解体技術はないでしょうけれど、むしろ未解体状態のままで購入し、その場で業者に解体してもらったものを〔亜空間倉庫〕で貯蔵することを狙っているみたいです。
うん、魚料理が恋しかったから、そのアイディアには賛成です。
(2,976文字⇒2,911文字:2018/10/21初稿 2019/07/01投稿予約 2019/08/26 03:00掲載予定 2019/07/05令和元年07月03日の「なろう」仕様変更に伴う文字数カウント修正)
・ 水泳部のOGで風俗関係の職に就いている娘は、(幸運にも)ほとんどいませんでした。勿論経済的事情で、風俗落ちせざるを得なかった娘はいない訳ではないようですが。
・ ドレイク王国の農家の小麦の収穫量は、他国のそれの数倍あります。具体的には、他国(地球では欧州中世中期)の農家は1haあたり100kgの種を蒔いて350~500kg程度の収穫量(中世初期は300kg程度だったとか)であるのに対し、現在のドレイク王国の農家は1.2~2t程度の収穫量になっています。現代地球の収穫量は3t程度で、現代日本の変態農家は3.5~4tに達するそうですが。ファンタジーの設定で、「小麦の収穫倍率は3倍、稲は30倍」という話がありますけど、現代日本の畑作農家の収穫倍率を考えたら、それこそ知識チートでその差を埋められる可能性があるという事に。なお現代日本の農家では、四圃式農法は採用されておりません。
他国の農家はだから、小麦や大麦は納税の為に使い切り、生活の為にはライ麦やハト麦に頼り、それさえ一日一食の生活になるそうですが、ドレイクの農家は、毎日三食白いパンを口に出来ます。ちなみに、現代日本の稲作農家の収穫倍率は600~1,000倍(品質問わず。品質を問えば500倍程度?)だそうですけれど。
・ 普通の農作物は、鮮度の劣化や腐敗・発酵がありまた虫食いの危険がありますから、むやみやたらと貯蔵すれば良いという訳にはいきません。が、〔アイテムボックス〕の貯蔵庫であれば時間経過がありませんから、単純に品質で仕分けされることになります(但し魔素浸透による変質は警戒する必要があるかも)。現在のドレイク王国産の穀物は、大きく4ランクに分かれます。飼料用のDランク、非常時放出用のCランク、輸出用のBランク、国内流通用のAランク。それぞれのランクに更に10段階評価され、現在の最高品種はA4です(今後の開発を見込み、AランクはA1とA4しか有りませんが)。品種改良に本腰を入れる事の出来ない他国産の穀物は、この国ではC或いはDランクです。当然ながらCランク以上の飼料を与えられる家畜もいます。
・ 今回の会席。当然ながら、侍女さんたちは別料理。のはずですが、敢えて同じメニューが供されています。内陸国であるスイザリア人が知らない、魚料理を出し、実際に食べてもらい、またその調理方法を教えることで、ドレイクの食文化を侍女さんたちに紹介しました。ちなみに、醤油(穀醤)ではなく魚醤、山葵の代わりに葱と生姜ですが。
・松村雫「武田。女を品定めするな。比べられて喜ぶ女はいないぞ」
武田雄二「はい、脳内(にバックアップしましたから、網膜の)映像削除します」




