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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第六章:進路調査票は、自分で考えて書きましょう
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第27話 禁断の園

第03節 教えて、魔王様〔6/7〕

◇◆◇ 雫 ◆◇◆


 今日は、どうやら休日のようだ。学校の規模に比して、見える生徒の数が少ない。

 けれど、その生徒たちは一人残らず走り回っている。ある生徒は洗濯物の山を抱えて。ある生徒はゴミ箱を持って。ある生徒は掃除道具を振り回し。うん、見事なほどにパニックになってる。

 あたしも、運動系の部活動に籍を置いていたから。事情はよく分かる。あたしが所属していた弓道部の部室自体も結構散らかっていたし、男子立ち入り禁止の女子更衣室内は、はっきり言って魔境を通り越した腐海だった。生徒会が視察に来る、なんていう時には、前日から女子部員総出で大掃除をしたものだ。それが、前触れもなくいきなりだと。


「陛下。部室棟の視察は、少し時間を置いてからの方がいいと思います。いえ、大した理由じゃないんですけど……」

「俺も、前世の高校時代は生徒会役員だったからね。状況はよくわかるよ。男子部の部室にはエロ本があるものだし、女子部の部室には生理用品や下着なんかが平然と散乱しているものだ。彼らも、役員の視察の前には片付ける努力をしていたけど、どうしても漏れ(・・)が出るんだよね。それが当然だから、たばこの吸い殻や酒瓶でも見つからない限りはスルーするのが恒例で、だからこそ女子部室の視察には男子役員は関わらないようにしていたんだ。

 けど今回の場合は、見ない訳にはいかない。シズクくん。カケルくんやヒロシくん、それに雄二らに立ち入らせるかどうかは、君の判断に任せるよ」


 ……なんか、適当にブン投げられたような気もする。けど、その配慮ははっきり言って、無駄だった。


◇◆◇ ◆◇◆


 教務室で、アドリーヌ公女の担任になる予定の教師――正妃殿下の姉姫である、ルーナ女侯爵――と面会をし、言葉を交わす。

 うん、特定の偏向思想は持っていなさそう。いや、この世界で「武装するから戦争が起こるんだ! 基地は最低でも圏外!!」なんて叫ぶ人間がいたら、そっちが怖いけど。

 宗教的には、むしろ精霊神に対して否定的。「国が滅び、父王(ちち)首級(くび)(さら)され、私自身敵の慰み者にされても、精霊神は救いの手を差し伸べてくれませんでした。私を救ってくださったのは、陛下です」と。成程、こうして狂信的な陛下信奉者が生まれる訳だ。でもその意味では。精霊神を信仰する国でありフェルマールを滅ぼした国家でもある、スイザリア王国の大貴族の令嬢、というのは、ちょっと立場的に(まず)いかな?


 次に、公女が学ぶ教室を視察する。うん、異世界チート定番の、「黒板」がある。今更それに驚く気にもならないけれど。

 そして教室の後方にある棚。そこには。


「ふぅん。この国の繊維産業は、随分進んでいるんですね。この下着の意匠(デザイン)も可愛い」


 美奈が、普通のことのようにそう言うけれど。……教室に下着が脱ぎ捨てられているって状況は、(しと)やかさとは対極にあるよね?


「……なんか、女子校の実態を目の当たりにしたって感じだな?」

「うちの女子は、〔倉庫〕内でも整理整頓していますからそういうモノだと思っていましたけどね」

「彼女らは、俺たちと共同生活しているって言う前提があったからな。もし女子だけだったら、こうなっていたかもしれないぞ」


 男子も、言いたい放題言っている。うん、使用済みの下着を見て目の色を変えるようなことはないみたい。取り敢えず合格、かな?


「えっと、あの、皆様、申し訳ありません」

「どうしてソニアが謝るの?」

「いえ、私もこの学校の出身ですから。後輩のみっともない所をお見せしてしまい、申し訳なく……」

「こういう点は、女子校の良し悪しだよね。男子のいやらしい視線に(さら)されることはないけど、男子の目がないから油断も多いし、男子の目がないからどうしても身嗜(みだしな)みに気を使わない。

 うん、陛下は小まめに視察に来ると良いんだよ?」


◇◆◇ ◆◇◆


 更衣室どころか、教室内で下着が脱ぎ捨てられている状況を考えると、部室の状況は()して知るべし。もはや男子の部室立ち入りを拒んだところで意味がない。そのまま運動施設の視察を兼ねて、部室棟の視察を行うことにした。

 最初は、約束通りラクロス部。

 ラクロス。その道具(クロス)は、武具『投擲スリング(ロッド)』であり、武技から派生したスポーツだといえる。つまり、戦技教練の一環としての競技(スポーツ)なのだろう。

 少女たちは、汗だくになりながら取り敢えず物が無くなった部室に整列している。

 ……いや、せめて道具くらいは置いておきましょうよ。何もないのはさすがに不自然だから。それに、ロッカーから何やらはみ出しているし。


「ところで、この中に一年四組の生徒は、いる?」


 ソニアが、少女たちに問う。


「はい、私は一年四組です」

「そう。では貴女のクラスに、留学生が来ます。私共から頼むことではありませんが、仲良くしてあげてください。

 それから、教室の棚に下着が脱ぎ捨てられていましたよ。あれが我が国の淑女(レディ)の日常だと異国の姫君に思われたら我が国の恥です。陛下もアレを目になさいましたからね。もう少し慎みというモノを学んでください」

「はい、先輩。申し訳ありませんでした」


(しまった、教室までは気が回らなかった)

(うちの教室、大丈夫だったかな? 陛下が見ないでくださっていたのならいいんだけど)

(ってか、1の4にあった下着って、誰の? まさかアンタのじゃないでしょうね?)

(うぅ、そうだったら死ねます)


◇◆◇ ◆◇◆


 その後も幾つかの部室・部活を視察して、次はプールに。


「この国では、水練は必修科目なんだ。まだ海で泳ぐというレジャーは一般的とは言えないし、川でも泳げるような流れの緩やかなところでは、懸念していた通りに地方病(寄生虫病)の被害が出たから、気軽に水遊び、って訳にもいかないけれど。

 でも泳げればそれは自信に繋がるし、いざという時の選択肢が一つ増える。それにやっぱり、男としては目の保養だしね」


 地球では、義務教育課程に水泳を取り入れている国は少ない。もしかしたら日本だけかもしれない。昔起こったという海難事故で、その船に乗っていた小学生のほとんどが犠牲になったという事件をきっかけに、全国の小学校にプールを作ることが指導されたと聞いたことがある。だから陛下も、この国の学校にプールを作ったのだろう。

 そして、まだ異性に肌を見せるのははしたないという風習が残るこの世界では、そうそう海水浴などというレジャーが流行るとは思えない。けれど、ここから変わっていくのかもしれない。


 そう思いながら、水泳部の部室の扉を開いてみたら。


「陛下、いらっしゃいませ!」


 下着姿の少女たちが、陛下を迎えた。……なに、これ?


「あたしたちを、(すみ)からスミまで見ていって、って、え? オトコぉ!」

「きゃああぁあああああぁああああああぁ」


 ……成程。「肌を晒すのははしたない」⇒「水泳部は日常的に薄着だから、肌を見せるのに抵抗感がない」⇒「どうせなら陛下にお持ち帰りしてもらおう」と三段跳びで思考が飛躍した結果、視察の目的さえ考えずに積極的に売り込みに走り、果ては夜のお店の待合室状態になってしまった、と。


「陛下。メイド学校では、娼婦の育成もしているんですか?」

「……ないよ、それは」


 この年頃の少女たちにありがちな暴走、という事にしておきましょう。

(2,995文字⇒2,906文字:2018/10/19初稿 2019/07/01投稿予約 2019/08/24 03:00掲載予定 2019/07/05令和元年07月03日の「なろう」仕様変更に伴う文字数カウント修正)

・ 男女の別のない共学の文化部の方が、部室が整頓されているというのが普遍の真理だったり。

・ 狂信的な魔王信仰。これ、れっきとした「特定の偏向思想」では?

・ 飯塚翔くんが気にしていた、「学友の質」。狂的な魔王至上主義と、陛下に閨に呼ばれることを名誉(ほまれ)とするという価値観を持っていると考えると、もしかしたらアドリーヌ公女は彼女らと一線を画すべきかも(笑)。

・ この国の婦人下着は、〝趣味人である転生者〟と、〝異世界デザインに興味津々な伯爵夫人〟と、〝人間の生殖行為に興味津々な神話生物〟の三頭(トロイカ)体制で開発されていますので、かなり趣味性が高いです。

・ 男子三人にとって、婦人肌着等はもう見慣れたもの。使用済みのパンツなど、ただの汚れた布切れです。そして、部室内で「キノコの栽培」をしていなかっただけまだ救いがあります。……苗床は、直前に棄てられていただけなのかもしれませんけれど。

・ 一年四組のラクロス部員さん。「私のだったら死ねます」って、「私のじゃありません」って即答断言出来ない時点で有罪(ギルティ)だと思います。猛省してください。

・ 松村雫さんの語った「昔起こったという海難事故」は、昭和22年の紫雲丸事故のことです。なお水泳教練を義務教育課程に含めている国は少ないですが、ほとんどの先進国は児童に対する水泳教育を奨励しています。

・ アドルフ王が口にした「地方病」とは、日本に於ける宮入貝(ミヤイリガイ)という淡水巻貝を中間宿主とする、「日本住血吸虫症」の俗称です。武田二十四将の一人である小幡昌盛は地方病で死亡したと謂われ、また武田信玄の死因説のひとつに地方病が挙げられています(但しこちらは根拠薄弱)。三国志の赤壁の戦いに於ける、魏軍に蔓延したという疫病も住血吸虫症の疑いがあります。

 日本では、日本住血吸虫という寄生虫それ自体を根絶することは難しかったものの、中間宿主が宮入貝ただ一種であったことから、宮入貝の生育環境を破壊することで、日本住血吸虫の根絶に成功しました。宮入貝は流れの緩やかなところに生息することから、流れの速い、直線の、コンクリート補強された用水路を作り、宮入貝が生息出来なくしたのです。地方病の罹患を最後に確認されたのは、昭和53年。日本住血吸虫の存在が確認されてから、100年以上経った後だといいます(終息宣言は平成8年)。なお、本来の撲滅対象は「日本住血吸虫」であって「宮入貝」ではないことから、平成12年に、宮入貝が最後に発見された福岡県久留米市に「宮入貝供養碑」が建立されました。

 令和元年現在、住血吸虫症を克服した国家は日本だけです。

 ドレイク王国は、建国時に人為的に河川経路を誘導した(流域を広く採る為に流速が犠牲になっている)ことから、淡水巻貝にとっては天敵のいない、生育に適した環境になっており、住血吸虫が繁殖し易い環境になっています。アドルフ王は、それを知りつつ放置しています。「日本住血吸虫症」の対策なら知識として知っているけど、この国の住血吸虫が「日本住血吸虫」であるとは限らず、また中間宿主も宮入貝と断定出来ている訳ではありませんから、同じ方法で撲滅出来ると断ずることは出来ませんから。犠牲者が出ても、時間を掛けて、国民の不断の努力で克服する方が、異世界チートで対処するより億万倍意義があると考えています。

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