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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第六章:進路調査票は、自分で考えて書きましょう
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第24話 教育行政

第03節 教えて、魔王様〔3/7〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


 俺が、この国で〝王子〟と呼ばれる理由はわかった。

 ソニアは、この国には〝王の落胤(おとしだね)〟が珍しくないと言っていたけど、つまり俺はその中の一人と認識されているという事だ。そして、エリスの保護者として、エリスの母親から一定の信用を得ている(あかし)、と。


 そして。俺たちの使う〔亜空間倉庫〕の正体。

 〔倉庫〕が、時空間単位で完全に独立した〝世界〟だというのなら。確かに、接続の仕方で地球への扉を開くことも出来るだろう。

 ただ、〝時空間単位〟というのが問題だ。平行(パラレル)世界(ワールド)という観点から、確かに俺たちの出身世界だといえる世界を特定するのも一苦労だろうし、世界を特定出来ても位置を特定するのも難しい。そして、時間。例えば、俺たちがあの世界を離れた瞬間から一億年後の地球に戻っても意味はないだろうから。

 世界を繋ぐ、確実な(アンカー)になるもの。それはおそらく、その世界・その時間との、〝縁〟。「縁があるから繋がる」のではなく、「縁が無ければ繋がらない」と考えるべきだ。なら俺たちは、〔縁辿(えんてん)〕の意味を考える必要がある。

 また、〝繋ぐ縁〟を特定出来るのなら。〔倉庫〕それ自体が、長距離転移魔法としても作用するだろう。ここから先は、だから色々イメージを固める必要がある。


 そんなことを考えているうちに。


「もう一つ聞かせてください」


 武田が、魔王に対し質問を重ねていた。


「エリスの(ファミリーネーム)。それに先程陛下は〝あの駄女神〟とおっしゃっていましたね。それは――」

「武田。それを聞く必要はない」

「ですけど!」

「はじめから言っているだろう? エリスが人間か魔物か神様か、なんてことは、どうでもいいことだって。

 エリスはエリスだし、その母親が何者であっても、俺たちには〝エリスの母親〟以上の意味はない。それだけだ。

 仮に、それがこの世界の秘密に関わることで、俺たちが元の世界に戻る為には知らなければいけない真実だとしても、今ここで(あわ)ててSANチェックしなきゃいけないことじゃないしな」

「……確かに、そうですね」


「そうだな。ちなみに、エリスとその母親が、〝神話〟に(うた)われた奉仕種族なのかどうかは俺も知らない。ただその印象から、俺が勝手にそう名付けただけで、その正体は〝這い寄る混沌〟の方かもしれないし、それどころか〝白痴の王〟かもしれない。(いや)、そもそもが〝神話〟とは全く関係ない可能性の方が高いんだからな。

 だから、ただそういう〝名〟だと思ってくれればいい。俺の、〝アドルフ〟という名と同じ、不治の厨二病の症状の顕現だ、とな」


 ……魔王の返事は、むしろ俺たちにとっての〝最悪の想像〟がまだマシなレベルでしかないって言っているのと同じなんだが。


◇◆◇ ◆◇◆


 それはともかく。


「陛下。俺も陛下にお尋ねしたいことがあります」


 関係ないけど、「俺」という一人称と「陛下」という二人称のミスマッチさ。敬語の用法としてはあり得ないけど、魔王に、しかも公的な場ではない酒場の一角で、無意味に謙遜し(へりくだっ)た表現は使いたくない。その結果、一人称「俺」で二人称は敬称ではなく呼称としての「陛下」、そして年齢に配慮して丁寧語。(あたか)も敬語を使い慣れていない高校生が、先生に対して語りかけるような(しゃべ)り方になっている。


「何だ?」

「アドリーヌ公女が留学する学校のことです。

 公女自身も後に、公爵閣下に報告なさるでしょうけれど、それでも事前に確認を取っておく必要があります。

 カリキュラムは確認しました。その教育方針は、ノートPCにも書かれていましたし、それらから読み取れる教育思想は理解出来ました。

 けれど設備や環境、教師の程度や学友の質などは、それらからは読み取れません。


 ご存知でしょう? 平成日本でも、教育要領や教育方針でどれほど立派なことを謳っていても、現場の教師の質で、生徒たちの人生は簡単に左右されてしまいます。

 教師が特定の政治思想や宗教に染まった結果、思想信条の自由を盾に、生徒に〝不偏不党の教育〟を行わない(・・・・)ことを是とする教室もあります。

 生徒の個々の事情を配慮することが〝面倒〟だからと、長い物に巻かれる教室もあります。

 教師はその〝労働環境〟を考えたら過酷な職業ではありますが、だからといって労働三法を盾に取り、生徒の監督より労働者としての自分の権利を守ることに腐心する教室もあります。


 生徒たちにとって、その人生で。『良い教師に出会えた』と言える相手は、意外に少ないという事実を、陛下はご存知のはずです」


 俺たちの学校は、はっきり言って右翼的な教育を行っていた。さすがに「教育勅語」で道徳を学ぶようなことはしなかったものの、漢文のサブテキストには「論語」を使っていたし、『国を守る』ことの意義を、国語や社会、倫理などの授業でサブリミナル効果の如く刷り込んでいた。

 こう言えるのは、あのノートPCで俺たちに教育行政の視点が与えられたうえで、アドリーヌ公女の使う教科書を精査する事が出来たからだ。

 とはいえ俺たちの学校では、「国」と「政府与党」或いは「天皇家」を直結させる思想は持っていなかった。社会共同体としての(実体を有さない)総称としての「国」であり、それを担保する機関としての「国家」を守ることの意義を、その授業の端々で語っていただけだ。けれど、それでも「国を守る」という教育が、戦前の皇国思想と同じだと、その立場から曲解して敢えて偏った教育をしていた教師もいたんだ。


 では、このドレイク王国は? ちゃんと教師の手綱(たづな)()れているのか?


「……驚いたな。君らに与えられた依頼(クエスト)は、アドリーヌ公女の護衛であって、公女に正しい教育が施されるかどうかを確認することではなかったはずだ」

「〝正しい教育〟なんていうものは、この世に存在しませんよ。

 『読み書き算盤(そろばん)』だって、子供に教育を施せる余裕がある、つまり児童労働力に頼る必要のない生産効率を確保出来ているという文明レベルが求められたうえで、農民たちにまで政府広報を行き渡らせる為に行ったものですから。

 政治的な意味での『偏向教育』だって、それ以外の政治思想(所謂(いわゆる)左翼()な教師の存在)を認めたら国が成り立たないという脆弱(ぜいじゃく)な国家基盤の上にあっては、中立的・多視点的な教育などは出来ません。それこそ、『自国の過去の行いに対する謝罪と賠償』をしても、なお一般市民の生活に支障を来さないという余裕があって、初めて教育内容が偏向しているか否かなどを問えるのですから。


 ……すみません、枝葉の話ですね。

 俺たちのクエストは、確かに公女殿下の護衛です。けど。

 言われたことを言われた通り(こな)すだけでは、〝信用と信頼〟という付加価値は生まれないでしょう」

「そのとおりだ。なら、君たち自身の目で、学校を視察するか?」

「学校は、女子校だから男子禁制だ、と聞いています」

「俺と一緒なら、誰からも文句は言われないさ」


 ……まさか、と思いますが。

 その学校って、女子校って。

 陛下の愛人養成所という側面も持っている、んじゃないでしょうね?

(2,945文字⇒2,806文字:2018/10/08初稿 2019/07/01投稿予約 2019/08/18 03:00掲載予定 2019/07/05令和元年07月03日の「なろう」仕様変更に伴う文字数カウント修正)

【注:「労働三法」とは、「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」「労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)」「労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)」の総称です。近年では「労働組合法」や「労働関係調整法」を、「労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)」や「最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)」などと入れ替えることもありますが。ちなみに「労働三法」は法律用語ではなく、講学上の用語であることから、学者によって定義が変わります。よって、これらを総称する言葉として「労働三法」ではなく「労働法」という言い方もあります。

 労働基準法は、労働条件の最低基準を定めた法律、労働組合法は、労使交渉を円滑に進める為の法律、労働関係調整法は、労働争議を予防しまた解決する為の法律、労働契約法は、雇用と解雇に関する法律、最低賃金法は、最低賃金を保証する為の法律、です】

・ 「思想信条の自由」を盾に、君が代斉唱の際に起立しない教師もいます。それは確かに「思想信条の自由」ですが、それを〝生徒に強要する〟ことは、生徒に対する偏向教育ではないのでしょうか? また、式典に於ける礼儀を考えると、「プログラムで歌えと指示されている」のなら、その式典で歌うのが筋だと思います(お葬式に参列して、「自分はキリスト教徒だから」と焼香・合掌・礼拝を拒否したら、他の参列者から白眼視されるでしょう)。ご自身の政治信条主義主張は、また別の機会に表明すればいいのですから。

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