第23話 魔王国の、王子様
第03節 教えて、魔王様〔2/7〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
この、ドレイク王国盗賊ギルドの元締めが店主を務めるという、酒場。その諜報能力には、舌を巻きます。
ボクらの素性(異世界からの被召喚者ということ)がばれていることくらいなら理解出来ますが、ボクらの足跡から、ボクらの(と言うより飯塚くんの)目論見まで読み解くというのは、かなり凄い。そしてこれは同時に、同等の諜報能力があれば、他の国にも見抜かれている危惧がある、という事です。
もっとも、他国からは察知し得ない、この国とボクらの関係性まで知っているからこその推論なのかもしれませんが。
ええ。ボクら自身も知らないんですから。何故飯塚くんが、『ドレイク王国王太子候補の、王子』と目されているかなんて。だから。
「ではまず教えてください。何故飯塚くんが〝王子〟と呼ばれ、〝王太子候補〟なんていう立場にあるのかを」
だからまず、それを尋いてみることにしました。
「そうだな。まずそれを伝える必要がありそうだな。
この国の王位継承には、血縁を重視しない。二人の大公、エリスの母であるリリス・ショゴス大公と、もう一人、クリス・ドラグーン大公の二人が認めることで、王太子となる。
もっとも。両大公共に、人間社会に縁がないからな。二人が認めるからと言って、国の王権を託して構わないかと問われれば、そうとも言えない。だから、王太子〝候補〟には、相応に試練を課すことになる。
ショウくん。飯塚翔くんは、その意味では完全にイレギュラーだ。
エリスの保護者であることから、間接的にリリスの承認を得ていることになる。もう一人、クリスの承認を得られるかどうかはまた別の話だろうけれどな。
そして、君たちの目的は、俺の前に立ち、俺を真正面から超えることだとマティアスから聞いている。なら、それ自体が〝王位継承試練〟と同等の意味を持つことになる。
もっとも、試練を突破したからと言って、この国の王位を継がなければならないという義務を課すつもりはない。まだ俺も、引退するには早過ぎるだろうからね。それに、俺の他の息子たちがショウくんの姿を見て奮起し、その〝資格〟を手にするかもしれない。それ以前に、ショウくんはまだ〝リリス大公の〟承認を間接的に得たに過ぎない。まだクリス大公の承認は得られていないからね。
だから、今はこの国で一定の立場を保証されている、という程度の認識で構わない。
それから、〝王子〟呼ばわりされるのは。
いくら王位継承に血統を重視しない、と言っても、一般には血縁で継承されるというのが常識だ。だから、全く無縁の翔くんが王太子候補だ、と言うよりも、実は翔くんが俺の隠し子だった、と言った方が、人々は納得し易い。だからそういうモノだと思い込んでいるんだろう。
翔くんにとって、それを肯定する必要はないが、否定しないでおけばこの国の中では色々便利だ。その程度の認識で構わない」
成程。幾つか不穏な単語があったけど、取り敢えず状況は理解しました。
「もう一つ。これを聞くのはカンニングになるかもしれませんけれど、ジi……じゃなく、陛下を弑し奉らなくても、ボクらの〔契約〕を満了させることが出来るのでしょうか?」
「それに関しては、何とも言えない。
契約当事者である、先代騎士王と、契約実行者である、騎士王国先代魔術師長は、君たちが斃す相手たる〝魔王〟として、『ドレイク国王アドルフ』を認識している。
一方で、契約受託者である雄二……君たちは、その認識がなく、ただ〝魔王〟の討伐を目的としている。
だから、君たちが今行っているように、世間がその相手こそが〝魔王〟であると認識した状況で、その相手を倒すことが出来れば。〔契約魔法〕それ自体が、契約満了したと認めることになるかもしれない」
すると、飯塚くんが。
「この〔契約〕の対価として、元の世界への帰還が挙げられています。
もし、俺たちが独自に元の世界へ帰還する方法を発見出来たなら。その場合、〔契約〕はどのように作用するのでしょうか?」
「君たちにとっては、何も変わらない。履行すべきことを履行しなければならない。
けど騎士王……今はイライザ女王か。女王と魔術師長にとっては、君たちがその方法を見出した瞬間から、その額に〝違約紋〟が顕すことになる。
現状、君たちをフォローするという要件を履行出来ていないことから、〝違約紋〟を顕しているだろうけど、そちらに関しては、今からでも君らをフォローすれば、消すことが出来る。けど、〔契約〕の対価が無価値化したとなると、改めて〔契約〕を結び直さなければ、〝違約紋〟を消すことが出来ないだろう。
そして。我が国には、君たちの〔契約〕を破棄する手段もある」
「その可能性に関しては、モビレアのギルマスから伺っていました」
「まぁそれに関しては、無償で、という訳にはいかないけれどね。翔くんが我が国の王太子として、〝立太子の礼〟に臨んでくれるというのであれば、話は変わってくるけど」
「さすがにそれは。でも、わかりました」
「ちなみに、君たちは独力で帰還する方法を見つけているのか?」
「否、まだ――」
「――是、お父様。彼らはもう、その手段を得ています」
否定した飯塚くんの発言に被せるように、エリスが。って、え?
「それは?」
「お父様も御存じのはずです。ぱぱたちが使う収納魔法、〔亜空間倉庫〕。
あれは、迷宮主が使う、〔迷宮創造〕の魔法と同じです。否、それより上位の空間魔法です。なんせ、時間の流れからも切り離されていますから。時空間単位で独立していますから。
ぱぱたちは、五人の意思を合わせることで、『この世界』と『〔倉庫〕内世界』を繋ぐことが出来るんです。なら。
座標の特定さえ出来れば、『地球世界』へと繋ぐ扉を開くことも、出来るでしょう」
「……エリス。君が何か力を貸したのか?」
「否。ぱぱたちが、最初に生み出した、独自の魔法です」
エリスの言葉に。ボクらは誰よりも衝撃を受けていました。
〔亜空間倉庫〕が迷宮魔法。それにも驚かされました。けど考えてみれば、確かに『ベスタ大迷宮』等との共通項は多いです。けれどそれよりも。
ボクらは最初から、帰りの切符を手にしていたんです。それも、ちゃんと自分たちの力で。あとは、帰る為の扉を見つけ出せばいいんです。
それは、これまでの苦労に比べれば、どれほど容易なことでしょうか。
(2,744文字⇒2,556文字:2018/10/01初稿 2019/07/01投稿予約 2019/08/16 03:00掲載予定 2019/07/05令和元年07月03日の「なろう」仕様変更に伴う文字数カウント修正)
【注:「立太子の礼」とは、正式に王太子としてお披露目される式典のことです。「立太子宣明の儀」とも言います】
・ ドレイク王国の王位継承の特殊性から、エリスは「大公女」ではなく「王女」の身分を持ちます(正しくは、ネオハティスの冒険者ギルドで魔王の娘と公式に認められた瞬間から)。エリスがもし結婚することがあれば、その配偶者は自動的に王太子候補の立場を得ることになりますので。
ちなみに、リリス・ショゴス大公とクリス・ドラグーン大公は、寿命という概念自体がありませんので、爵位の継承もありません。それ以前に、嫡子の誕生という概念があり得るなどとは誰も想定していませんでしたけど。
・ 言葉の使い分けについて:「斃す」は、多くの出版社の校正基準では「倒す」に改めることとされています。が、「斃す」は〝殺害する〟という意味であるのに対し、「倒す」はそれに加えて(勝負に)〝勝つ〟、(政治的に)〝無害化する〟、(戦力的に)〝無力化する〟という意味が含まれます。その為、作中では前者の意味のみの場合「斃す」、後者の意味を含める場合「倒す」と使い分けています。




