第22話 ミーティング・2 ~ビハインド・ゲーム(中篇:逆転の一手)~
第04節 契約〔5/6〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
美奈たちにとって、元の世界に帰ることは、何を措いても成し遂げたいこと。
それを見抜かれていたからこそ、交渉は王様たちの思惑通りに展開したの。
けど。
美奈にとっては、元の世界に帰るより、大切なことがある。
それは、ショウくんと一緒にいること。
それが果たされるのなら、元の世界に戻れなくても構わない。
でも、それは美奈の勝手な想い。
皆は、お家に帰りたいんだと思う。ショウくんも。
なら、美奈の身勝手で、皆の希望を潰すことは出来ないんだよね。
◇◆◇ ◆◇◆
「美奈の言う事は今後の課題として、現状の打開策を考える必要があるな」
ショウくんに、スルーされた。少し悲しいけど、美奈の気持ちを言ったらまたおシズさんに「色ボケ娘」って言われちゃう。自重しなきゃ。
「現状の打開策、か。
具体的には?」
「まず、契約内容の分解だ。
契約の本旨は、〝魔王〟の打倒。つまり、東大陸に渡った後の話だ。
けど、〔契約魔法〕は、距離の制約があるのか?」
柏木くんの問いかけに、ショウくんが答える。と、武田くんが否定する。
「東大陸に渡ったら効力を失う、或いは弱まる契約なら、西大陸の人たちがわざわざ魔法を介してまで交わすことはないでしょう。なら、〔契約魔法〕は距離の制約を受けないと考えた方がいいと思います。
また、契約書は二通存在し、ボクたちと連中がそれぞれ持っています。
〝誓約の首輪〟の件を考えると、契約書それ自体は、魔法の核とは考え難いと思います」
「おい、つい今さっきお前は、契約書が魔法の核だって言っていなかったか?」
「さっきは冷静さを欠いていました。謝罪します。
落ち着いて考えれば。〝誓約の首輪〟は、ボクたちが契約を承諾したことで顕れたと魔術師長は言っていました。この言葉を疑う根拠はありません。
なら、契約書を作ることも、そこに署名することも、ただの儀式である可能性が生まれます。
もしかしたら、仮令口約束でも、〔契約魔法〕は成立し、〝誓約の首輪〟は顕れたかもしれません。こればっかりは、可能性の話でしかないですが」
「だとしたら、大陸を隔てても、また世界を隔てても、契約の効力は消えない可能性もある訳だ」
「『世界を隔てて』って、飯塚くん、何を考えているんです?」
「例えば、俺たちが独自に元の世界に戻る方法を見つけ出し、元の世界に戻れたら。〔契約魔法〕は効力を失うんじゃないか? ってな」
「可能性としては、あり得ます。けど、そうでないかもしれません。その場合、――契約違反を犯したら額に〝違約紋〟が顕れるそうですが――それが日本でどのような意味を持つか。
……ただの刺青と思われても、それはそれで外聞が悪いですね。
それに、この首輪。触れないのに、触感がある。こんな首輪をして日本を歩いたら、色んな所から注目されてしまいます。
元の世界に戻る前に、是非〔契約魔法〕を解除すべきでしょうね」
確かに、美奈もこんな不格好な首輪をしたまま日本に帰りたくない。
「だけど、東大陸に渡れば、この国の連中の監視の目も遠のく。なら、出し抜ける可能性も増えるはずだ」
「けど、アザリア教国、でしたっけ? そこが、担当を引き継ぐのではないですか?」
「東西大陸間の移動に、三月かかるって言っていた。そのタイムラグを考えれば、俺たちがアザリア教国に出頭しない限り、新たな監視は付かないと思える。
そしてもう一つ。これはこの大陸に居ながらに出来ることだ」
ショウくん、なんか凄く悪い顔をしている。小母さまに悪戯を仕掛けようとしていた時の顔だ。
「契約は、俺たちにとっては『〝魔王〟を討つこと』。この国にとっては『俺たちをフォローすること』だ。
なら、俺たちが『〝魔王〟を討つ為』に取った行動が、この国とって害悪だったら?
例えば、〝魔王〟を討つ為には、この国の王様を殺さなければならないなんてことになったら。それを妨害することは、契約違反だ。だから、連中はそれをサポートしなきゃいけないんだ。さもなければ、契約を解除するより他はない。
そしてその場合、『契約解除に関する合意』を、連中と俺たちで取りまとめる必要がある。そのときは、――契約解除を必要としているのは連中なんだから――今回と条件が完全に逆転する。それこそ、国が傾くくらいの財貨を要求することだって出来るんだ。
その合意を取り交わす相手が他の文官や貴族なら、国を傾けるくらいなら王を殺せ、ってことになるかもしれないけれど、『契約解除に関する合意』の当事者になれるのは王様だけ。なら、国が傾くほどの財貨を要求しても、王様はそれを貴族に押し付けてでも呑むだろうさ」
それは、今日の契約をひっくり返す一手。文字通りの「倍返し」。
「具体的とは言い難い。けど、一つの指針だな。
同じ考え方で、連中は契約に『あたしらの生活資金及び装備に関しては、全て国が責任を持つ』と記している。『生活資金』だ。『最低限の生活保障』ではない。
なら、『劣悪な環境では、〝魔王〟を討つ為の性能を維持出来ない』と言って、最上級の待遇を求めることも出来よう」
「例えば、一人ひとりに個室を与え、侍女を付けろ、とか?」
「相変わらず、メイド好きだな武田。だが今となっては、個室はあたしらの連絡を絶つ、連中を利する選択になる。
生活環境の改善を求めるのは有りだろうが、個室にはしない方がいい。
勿論、美奈がお前ら男子の前で肌を晒したくない、というのなら話は別だが」
おシズさんはそう言ってくれるけど、でも。
「否、武田くんや柏木くんなら、気にしない。
恥ずかしくないって言ったら嘘になるけど、おシズさんが何度も言ったように、美奈たちは〝運命共同体〟だから。ショウくん以外で、二人はやっぱり例外だよ?」
「ま、そういう事だ。
但し! 日本に戻れた後も、同じような馴れ馴れしいことを当たり前だと思ったら、薙刀で膾斬りにするか、弓で標的代わりにするけどな」
「わかってます。それこそ現状は、所謂〝緊急避難〟ですから。
良識や配慮、羞恥心や世間体より優先するものがあるから、今の環境があるんですけど、元の世界に戻れたら、ちゃんと身の程を弁えますよ」
うん、それはともかく。
「ならまずは、生活環境の改善と、物資の要求が必要だね?
表の世界での生活環境と、この〔亜空間倉庫〕の生活環境を整える為の物資。
男の子たちとの共同生活も、もう気にならないけど。
でもお互い、やっぱりプライベートスペースはあった方がいいもんね」
女の子だって、時には人に知られないように処理しなきゃならないこともあるから。
男の子も、同じでしょ? さすがに防音までは期待出来ないけど、でも視界を遮るものくらいは欲しいし。
(2,909文字:2017/12/09初稿 2018/03/31投稿予約 2018/05/13 03:00掲載予定)
・ 髙月美奈さんたちは、まだこの世界の文字を読めません。けれど〔契約魔法〕の性質上、「髙月美奈さんたちが理解している契約内容」が有効になりますから、万一契約書に別の文言が書かれていたとしても、それは〔契約〕上無効になります。『契約書』は、むしろそういった「一方が有効だと思っていても実は無効になる内容」を避ける為に取り交わすものなのです。だから、「契約書を燃やせば契約は無効」とはいかないのです。




