第06話 護衛依頼
第01節 姫君の留学〔6/8〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
アドリーヌ姫さまの、留学。
目的は、花嫁修業と、異国異文化に触れることで見聞を広める為。
そして。
「留学先は、ドレイク王国ネオハティス市。期間は一応、四年を予定しているわ」
そして、おそらくは、有翼獅子の調教法について、学ぶ為。
でも、そんな大役を、まだ幼いお姫様にさせるのは、ちょっと荷が重過ぎるんじゃないかな?
「アレク、ぢゃなくアディ、でもなく、ドレイク王陛下は、公爵閣下や王子殿下に対し、『姫様の学びの機会を邪魔するな』って言って――おっしゃっていらっしゃったわ。
『可愛い娘には、旅をさせろ』って言うんですってね、〝遠い国の言葉〟では。
それに、ポストボックスを使えばすぐに連絡が取れるし、半年に一度は帰省も出来るみたいだから、ここは思い切って行かせてみよう、って話になったの」
成程。そうなんですか。
……って、でも、それはそうと。
「ギルドマスター、言葉が乱れていますよ?」
おシズさんもツッコミを入れてきた。
うん、一介のギルドマスターが、一国の王のことを語るには、ちょっと気安過ぎる。
でも、マティアス氏もプリムラさんも、〝魔王〟さんとは旧知の仲だから、プライベートではやっぱり親しく会話したりもするんだろうけど。
それでも、これまでこんなに呼称が乱れたことはなかった。
しかも、最近の蕩け切ったプリムラさんの表情を考えると。やっぱり、そういう事?
「……シズも、結構意地悪ね」
「姫様の留学先が、プリムラさんの〝彼氏〟さんのところだから、プリムラさんにとっては何にも心配ない。それどころか姫様の件、って口実で、これまで年単位で会えなくても不思議じゃなかった相手と、頻繁に手紙の遣り取りも出来るようになる、ってことですね? じゃぁウィルマーギルドとドレイク国コンロン城の遣り取りは、検閲が必要でしょうか?」
「松村さん。さすがにボクらが検閲するのは問題です。誤配を装ってモビレアギルドに一回送って、叔父上様に中身を確認してもらった方がいいでしょう」
「あぁ、そうか、そっちに身元引受人がいるんだものね」
「シズ。ユウも。お願いだからそれだけは止めて」
まぁさすがに、冗談だけどね?
「そ、それでね。モビレアギルド所属金札冒険者旅団【縁辿】には、アドリーヌ公女殿下の、留学先までの護衛任務に就いてほしいの」
!
笑い話や冗談話、恋愛話などに紛れていても、美奈たちにとってはこの依頼、無視出来ない意味を持っているんだよ?
だってこれは、美奈たちに「〝魔王〟さんに会え」というのと同義だから。
もう既に。美奈たちは、その気になったら魔王国に行く事が出来る程度の資金も、時間も、そして口実もあった。美奈たちは、この国に縛られている訳じゃないんだから、本来の目的に沿った行動をするとなると、プリムラさんたち冒険者ギルドはおろか、アマデオ殿下をはじめとする王族の方々でさえ、美奈たちの行動を掣肘出来ないってことになるんだから。
一方、今回は〝ア=エト〟の名前じゃなく、【縁辿】の名前でクエストが提示されているの。つまり、『悪しき魔物の王包囲網』関係の仕事、この世界の複数国家を巻き込んだ、世界正義の敵との戦いとは無関係に、美奈たちの個人の都合で『縁を辿る』口実にして来なさい、という意味。
なら、美奈たちにとっては感謝しかない。
「かしこまりました。【縁辿】名義の依頼となると、モビレアギルドで改めて受注する形になりますね?」
「そうね。アドリーヌ姫は今ウィルマーにいるから、モビレアでは形式的なものにしかならないけれど、それでも姫様は領主ご夫妻にご挨拶しなければなりませんので、アドリーヌ姫を連れてモビレアに行ってもらい、そこからクエスト開始となります」
◇◆◇ ◆◇◆
このクエスト、というかアドリーヌ姫の留学の事を知ってから。
美奈たちも改めて、ドレイク王国ネオハティス市のことを勉強したんだよ? 幸い美奈たちの仲間には、ネオハティス市出身のソニアがいるから。
「新学期は、新暦の9月から始まります」
「新暦の、9月? あ、そういえば、ドレイク王国は太陽暦なんだっけ?」
「はい。陛下は時々、『グレゴリオ暦』と言っていました。その『ぐれごりお』とは一体何なのかは、よくわかりませんけれど」
「〝グレゴリオ暦〟、というのは、その暦法を決定した『グレゴリウス』という人の名にちなみます。四年に一度の閏年、百年に一度の閏年のない年。けれど四百年に一度はやっぱり閏年を置く。つまり、四百年に97回の閏年を挟むことで、実際の地球の公転周期に限りなく近づけることを考えた暦法です」
武田くんが解説をしてくれる。けど。
「そこまで厳密に、地球とこの世界には天文学的な差異がない、ってこと?」
「おそらくは逆でしょう。そこまで天文学・暦学が発展していないから、『同じ』という前提で暦法を定め、それでも問題が顕在化したらその時改めて調整方法を考えれば良い、という事じゃないでしょうか」
ああ、成程。零からルールを定めるよりも、既にあるものを持って来て、現場に合わせて調整する方が、絶対に簡単だものね。
「それで、新暦の9月って、こっちの暦法ではいつ頃なの?」
「はい、秋の二の月の上旬、ですね。そして現在は秋の二の月の中旬ですから、既に学校は始まっています」
「うわ。じゃぁ急がないと」
「そうなると、姫様にはご不便をおかけすることになるけれど、馬車で優雅に旅することは出来ないね」
「うん、騎乗して二人乗りで、って感じかな?」
それはそうと。
今、美奈たちがこの世界に来てから、832日目になっている。武田くんの時計(この世界に来た日を2000年1月1日に設定し、外界経過日数を数えている)では、今日は2002年4月13日を示しているの。
そして、美奈たちが地球を離れたその日は、5月23日。だから、同じ時間が経過したと考えると、今日は9月1日、と読み解くことも出来る。
新暦のカレンダーを取り寄せないと正確にはわからないけど、多分1~2週間の誤差で、地球にいた頃と同じ季節を巡っていると解釈出来そう。
美奈たちの時間はともかくとして、アドリーヌ姫。
なるべく急いでネオハティス市に行かなければならないとなると、まずはマキア港から船に乗り、沿岸航路でドレイク王国ボルド港までというルートになるみたい。この季節は北風が強くなり出す時期の上、潮の流れに逆行するんだって。だからどうしても時間がかかる。春なら5日で着く船旅も、この季節だと7-10日は予定しておいた方がいい、と。
そして、マキア港。スイザリアが租借しているとはいえ、そこに二年前の戦いで中核を成したモビレア領の、お姫様がやってくる。
……ちょっと、否かなり問題が起きる予感しか、しないんだよ?
(2,962文字⇒2,724文字:2018/09/01初稿 2019/06/01投稿予約 2019/07/13 03:00掲載予定 2019/07/05令和元年07月03日の「なろう」仕様変更に伴う文字数カウント修正)
・ この世界の貴族の令嬢は、屋敷の中で礼法等を学ばされるのが普通です。だからこそ、敢えて外に出す。『可愛い娘には、旅をさせろ』。同じ格言でも、日本とは使われ方が違います。……と言っても、その〝格言〟を持ち込んだ人間(誰とは言わない)は、確信犯ですが。
・ 髙月美奈さんたちは、自分たちがマキア王党派(当時のゲリラ首魁)に指名手配されていたという事実を完全に忘れています。ちなみに当然ながら、解除されていません。
・ ここまであいまいにしていましたが、本話で明示。五人が転移した日は、平成30年5月23日(水)でした。




