第04話 収支決算報告
第01節 姫君の留学〔4/8〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
当然ですが、柏木くんの斧槍『バルディッシュ』は、正規の代金で支払いました。制作者が遊んだ分、「新構想のギミックのテストプレイ」という口実で、かなり割引かれた価格になっていましたが、それもあって今回のガラス器の販売で得た収益で充分支払い可能でした。
ついでにリーサ捜索用資金として、事前に渡されていた経費の残金は精算せずにそのままボクらの懐に収めて構わない、とのことでした。ちなみに、リーサ捜索経費は、生活費等を自前で費出したこともあり、かなり残りました。
その一方で、エラン先生との戦闘で、大型弩砲の矢砲や小型弩砲の散弾などを景気良くばら撒いてしまった為、その補充の為かなりの費出になっています。捜索経費の残金を収入に含めて、ようやく「リーサ騒動」(リーサの駆け落ち騒ぎ並びにリングダッドへの身柄移送)の報酬分だけが手元に残る、というのがこの三ヶ月間の収支です。もっともその報酬は、(王族案件だという事とリーサに関する口止め料も含んでいるという事でしょう)かなりの額でしたけど。
なお、ベルダは聖都での娼婦業収入のほぼ全てを、ボクらに渡しています。だけどこれは全額貯金。ベルダが所帯を持ったり、妊娠したりした時に、これを返すつもりです。
それはともかく、割引いてもらえたのだから、と、『バルディッシュ』のテストもしました。
槍の部分や鉞の部分に関しては、普通のハルバードとして過不足なし。
というか、バランスが絶妙で、刃近くの、柄の深い部分を持てば、重量に比して取り回しがし易く、柄の浅い部分(石突側)を持てば、重量に値する大威力が期待出来るとのことです。ましてやオプションの錘を付けると、当然その分狙いはぶれるけど、威力は凄い。刃がそこらの石には負けないから、字義通り「岩を両断」することも可能でした。
その、アタッチメントパーツの方の、「平刃」。これは、意外に使い勝手が悪かったようです。
「刃がもっと大きければ、鍬として使えるかも」とは、実際に振るった柏木くんの弁。ただ、「Sラバークッション」を挟んだ振動魔法対応版の方は、隙間に刃を差し込んで、振動魔法を付与することで、楔効果で結構な対建造物破壊力が見込めそうです。
ドリルは、玉軸受が完成したことで、随分信頼出来るものになったみたいですが、やはり武具のオプションに使うものではない、というのが結論。工具として使うにはバルディッシュは図体が大き過ぎ、武具として使うには破壊に時間がかかり過ぎます。ドリルで破壊するくらいなら、楔効果で破壊が出来る平刃の方がよっぽど役に立ちます。
炸薬式砲弾型ハンマーヘッドは、論外。って言うか、発案者は梃子の原理を百回勉強し直すべき。
その反動を、手首を軸にして指の力だけで支えらえるはずがないでしょうに!
柏木くんの手首の関節は、いっそ見事なほどに、簡単に砕けてしまいました。
特攻兵器『伏龍』だって、爆発の反動を全身で支える為に、爆発軸線と柄の向きを一致させていたって言うのに、こちらは直角ですから、抑え切れるはずがありません。
傘刃は、試しもせず。対生物殺傷力だけに特化した武具のようですが、刺さらなければ効果も低く、野獣などで試したら、皮や肉をずたずたにしてしまいますから、素材としての価値がなくなります。そもそも対生物殺傷力と言っても、鉞より大威力という訳でもないし。
結局、使えるのはオーソドックスなパーツばかり、という、ちょっと間抜けな結果となりました。
◇◆◇ ◆◇◆
本来、聖都での情報収集の為に買った物は、経費の精算で全て依頼主に提出するのが筋です。けど、今回はそれもボクらが収めて善し、とされてしまいました。
そうなると、女子はやっぱり女の子。しかも、自分の趣味が評価されると気合を入れて選んだ装飾品ですから、それなりに愛着もありますし、人に贈ることを考えても自信を持って選べるでしょう。
もっとも、冒険者としての平服(単衣)にはどうしたって似合わないし、自信を持って選んだといっても以前領主夫人に仕立ててもらった礼服に合わせられるものもそれほど多くはありません。そして、貴族じゃないんだから、アクセサリーに合わせて服を仕立てるといった贅沢も出来ず。
結果、礼服や学校制服(ソニアはメイド服)に合わせられるアクセサリーは皆で分配し、それ以外はお気に入りを何点か選び、または友人・知人に贈る物を残してやっぱり懇意の商人に売却しました。
そうして「リーサ騒動」の後始末も終わり、けどカラン王国方面が落ち着いていることを確認して。そうなると白金札としての仕事も当面ないはず。ならのんびり銅札で依頼を探しましょうか。
「ああ、ちょうどよかった。
貴方たちに、ちょっと特殊な依頼があるの」
そんな時、プリムラさんが、声をかけてきたんです。
◇◆◇ ◆◇◆
「クエストのランクはC、旅団【縁辿】に対する指名依頼。
依頼主は、複数貴族による合同依頼」
「貴族からの依頼なのに、Cランクなんですか?」
「そうよ。ちょっと色々特殊なの。クライアントである貴族の名前も、――どうせすぐにわかるけど――当面は言えません。
という訳で、請けて、くれるよね?」
「強制依頼じゃないんですよね? という事は、断る自由はある訳ですね?」
「うん、まあ、そうね。実際このクエストの内容は、取り敢えずこの場で試してもらうだけだけど、それが成功したら今後ずっと続けてもらうことになる。
だから、断るっていうんなら、それはそれで仕方がないと思う。アドリーヌ姫さまが悲しむと思うけど、それもまぁ仕方のないことだし」
……アドリーヌ姫さまって、依頼人の一人が誰なのか、言ったも同然ですけれど。
「どう?」
「……そう言われて、断れるクエストじゃないじゃないですか。
何をすればいいんですか?」
「今、してほしいことは一つだけ。ここにある箱を、貴方たちの〔収納魔法〕に一旦収めて、そして取り出してほしいの」
その、プリムラさんの依頼内容が示すことは、ひとつ。
「ギルドマスター。そのクライアントの中に、〝ドレイク王アドルフ陛下〟が混じっていますよね、絶対?」
「うん、そのとぉり。さあ、お願い」
九つあるその箱には、「000-0001」から「000-0009」までの番号が振ってあります。もう、皆まで言わなくてもわかります。この番号は、郵便番号ですね?
苦笑しながら〔亜空間倉庫〕を開扉すると。
それは親切にも、部屋ではなく、棚のような形に整理されていました。
「つまり、ボクらは一日に一回なり二回なり、このボックスを開け、中に入っている物を宛先のボックスの中に移し替える、という仕事をしろ、という事ですか」
これは、〔亜空間倉庫〕と〔アイテムボックス〕を同期させることで実現させる、郵便事業という訳です。
(2,983文字⇒2,746文字:2018/08/31初稿 2019/06/01投稿予約 2019/07/09 03:00掲載予定 2019/07/05令和元年07月03日の「なろう」仕様変更に伴う文字数カウント修正)
【注:「特攻兵器『伏龍』」は太平洋戦争末期の、旧日本帝国海軍が開発した本土決戦用の秘密兵器です。具体的には潜水服を着た水兵が海底を歩き、敵艦の船底に、棒の先に付いた機雷を直接刺して点火するというモノで、使えば水兵自身も爆圧で殉職確定という兵器でした。もっとも、それ以前にその潜水服ではまともに呼吸が出来ないとか、視界を確保出来ないとか、自由に行動出来ないから運良く敵船の方から近付いてくれないと使えないとか、そもそも棒の長さが2m(初期設計段階で5m)でそこまで接近すること自体が不可能だとか、機雷の爆発力は水兵を爆殺することは出来ても船を破壊するには力不足だとか、色々戦争末期の混乱ぶり(支離滅裂ぶり)を証明するようなモノでしたが】
・ 冒険者ギルドが徴収する手数料は、「報酬の○割」という計算方法ですので、「経費」はその対象に該当しません。はじめから「精算不要の前渡し経費」と謳われていればそれは「名目違いの報酬」になりますけど。
・ 「出張経費」で自腹を切ってはいけません。会社の経理が混乱しますから。本人は良かれと思ってやったのでしょうけれども、会社にとっては迷惑にしかならないんです。
もっとも、今回の場合は。矢弾の補充も必要経費と考えると、前渡し経費の額と実際に費消した経費の額はほぼ同じくらいの金額になります。
・ 平刃やドリルは、バルディッシュのアタッチメントパーツとしては使えませんけれど、工具としては使い道があるので、別途ボディ部を作ってもらい単独で使う予定です。またこれらのアタッチメントパーツは、ソニアの箒と互換性があります。
・ アタッチメントパーツの錘。皮膜を裂いて核となっている中身を売ればひと財産。という事実を彼らは知りません(オプション類はシンディ妃殿下の遊び、という理由で、無料だから)。その〝芯〟に使われている金属が何かを知ったらwww




