第03話 権力なんかに、負けない!
第01節 姫君の留学〔3/8〕
◇◆◇ 宏 ◆◇◆
ウィルマーの町は、オレたちが離れていた数ヶ月の間に、随分活気が増している。
人々の表情に意欲があり、希望に満ちている。
オレたちが旅立つ前と後では、違いと言えるのは冒険者ギルドが「モビレアギルドウィルマー支部」だったのが「サウスベルナンドギルドウィルマー本部」に変わった程度。だとしたら、この活気の源泉は、冒険者ギルド?
そんなことを思いながら、ギルドの扉をくぐった。
「こんにちは。見ない顔ですけど、出向ですか? それとも転籍ですか?」
と、見知らぬ受付嬢に言われた。
「ウィルマー所属の冒険者旅団【ア=エトとその一党】です。長期依頼から帰還しました。
ギルマスはいますか?」
一瞬、どっちのパーティ名を名乗るべきか悩み、出向扱いになると面倒だからア=エトの方を名乗った。というか、そんなパーティ名にした覚えさえないけど。
「ああ! 貴方がたが。
どうぞ、こちらに。白金札パーティを、こんなところで待たせる訳にはいきません」
そして、身分の高い客を迎える為の応接室に案内された。
「少々お待ちください。今すぐギルマスを呼んでまいりますので」
その間、オレたちは無言。……いや、さすがにこんな待遇されたことはないし。
それにしても、今の受付嬢。白金札相手に、慣れた対応していた。何処からそんな優秀な(というか経験豊富な)職員をスカウトして来たんだ?
少し待つと、プリムラさん(と、アドリーヌ姫)がやって来た。
「いらっしゃい。じゃないわね。
改めて、おかえりなさい。ようこそウィルマーへ」
「はい、改めまして、ただいま戻りました」
「どう? この数ヶ月で、ウィルマーも変わったと思わない?」
どうやら、ウィルマーの町の変化は自然になったものではなく、プリムラさんが何らかの形で関わっている模様。
「はい。随分活気が増しています。それに、さっき相手をしてくれた受付嬢も、これまで見たことのない女なのに、随分手慣れていました」
「そうでしょ、そうでしょう?」
プリムラさん、ご満悦。どうやら現状は、プリムラさんにとって喜ばしい方向に変化しているようだ。それも、プリムラさんの働きかけが功を奏した結果として。
と。
「実は、プリムラさんの〝好い人〟が、プリムラさんの為に人材を派遣してくださったんです」
アドリーヌ姫が、そっと囁きかけてきた。
成程。彼氏が助けてくれた。彼氏の助力で、町が良い方向に向かっている。なら、この表情も斯くあるべし、か?
「ちょ、アドリーヌさま。好い人だなんて、彼は未だ、そんな――」
「〝未だ〟、ですか。ごちそうさまです。けどそんな蕩け切った顔をしていたら、誰でもわかりますよ?」
姫様の、容赦のないツッコミ。でもまぁ、プリムラさんも立派な大人の女性だから。
それに、やっぱり〝彼女〟の立場では、〝彼氏〟の助力で町が良くなっていくってことは嬉しいことだろう。
けど、「可愛い姪っ子」がこんな蕩けた表情していたら、モビレアの叔父さんはどう思うか。……って、だからあんな、ブスっとした表情していたのか。
……しかし、町一つ動かし得る〝彼氏〟さんって、一体何者だ?
◇◆◇ ◆◇◆
さて。オレはルシアおねーさんの下に、注文した斧槍が出来ていることを期待して顔を出した。
「あぁ、ヒロ、か……」
「ど、どうしたんスか?」
「ヒロには、謝らなきゃだね」
「何かあったんですか? オレが注文した斧槍が、完成していないってことですか?」
「そうじゃない。だけど。
ごめん、やっぱり権力には勝てなかったよ……」
まるで、〝くっころ〟された森妖精のように、山妖精のロリおねーさんが項垂れていた。
権力に負けた。という事は、つまり。
「シンディ妃殿下が、手出しされたってことですね?」
つまりそういうこと。
「うん。それでね、これが、シンディ叔母さんが作った、斧槍」
じっくり検分させてもらう。
鉞の部分は、力負けしないような、肉厚の刃。
槍の部分は、工具のプラスドライバーのように、十文字に溝が彫られており、その山の部分は一つ一つが刃になっている。
この辺りまでは、リクエスト通り。刃は神聖鉄製で、思った以上に軽く、思った以上に重く、思った以上に使い易い。
そして。
「この、ハンマーの部分が曲者なの。」
それは、ソニアの箒と同じく、QD端子になっており、交換可能なのだそうだ。
そして、その交換パーツ。
通常の、鋭角鈍器の戦槌型。
騎兵戦用の、鉤爪型。
ここまでは良い。交換可能というところに、物言いを付けたいけど。
鉞側の攻撃力増強用の、錘。
これを付けると、重さが格段と増す代わりに、鉞での攻撃力が倍増する。リクエストしたものじゃないけれど、交換可能であることから、これも有効に活用出来る。
だけど、問題はそれ以外のパーツだ。
火薬内蔵でインパクトの瞬間に射出可能な、砲弾型。
オレたちが卸した理論真球の鉄球を軸受にした、回転刃。
同じくボールベアリング内蔵の、十文字刃(電動ならぬ魔動ドライバー、ってか?)。
マイナスドライバーか、或いは工具の鏨か、というような、平らな刃。
戦槌に見え、けれど衝撃を受けると内側から外側に向けて刃が広がる傘刃型。
振動魔法対応用に、接続部に〝Sラバークッション〟というゴム状の物質を挟んだ、十文字刃。同じく一文字刃。
……どう考えても、シンディ妃殿下はオレ(というかこの斧槍)で遊んでいるようにしか思えない。
というか、妃殿下はこの斧槍で、何をしたかったんだ?
色々言いたいことはあるけれど、使える武具であることは間違いなく、そしてそのギミックも使いどころを間違えなければ、有効に使えるだろう。
「えっと、取り敢えず礼を言います。
ちなみに、銘は刻まれているんですか?」
「うん、〝バルディッシュ〟、って謂うそうだよ」
後で、武田に聞いた。「バルディッシュ」というのは、ハルバードに類似する斧槍の名称ではあるけど、それ以上に某アニメのヒロインの武具の名前なのだそうだ。
つまり、名付け親は魔王陛下。
また、借りを作ったみたいだ。
「あ、そういえば、ドリルになっている奴は、〔無属性魔法〕で回転させるんだけど、動力用の魔石は組み込まれてないから。自力で回してね。
それから、回転させてから目標に叩きつけると壊れるから。目標に接触させてから回転させるようにしてね」
店の奥から、そんな声がする。……いたんかい。
ルシアおねーさんと、顔を見合わせて、苦笑した。
(2,861文字⇒2,573文字:2018/08/30初稿 2019/06/01投稿予約 2019/07/07 03:00掲載予定 2019/07/05令和元年07月03日の「なろう」仕様変更に伴う文字数カウント修正)
・ ウィルマーギルドの(新人)受付嬢。ソニアが冒険者として活動していた時の拠点の町のギルドにいた訳ではないので、ソニアの顔は知りません。但し、メイド服を着ていることから、ある程度のことは察していますけど。
その受付嬢「いや、白金札って言ったって、別に王族って訳でもないし。否、噂は聞いているよ。うちの国の王太子候補かもしれないって。陛下の落胤の中の優良株って噂もあるし。だけど、その程度でしょ? 国王陛下御自らとか、王妃殿下とか、子爵様がたが、顔も身分も隠さずに、冒険者業をしようとするのに比べたら、それほど大騒ぎする内容でもないでしょう?」
・ 柏木宏くんのハルバード『バルディッシュ』。実は、ハンマー部分にロケットバーニヤを付けて、鉞の攻撃力を増強するだの、ハンマーヘッドに炸薬を詰めて、インパクトの瞬間に爆発するだのといった、訳の分からないアイディアもあったとか。なお、傘刃は、先端から手前に向かって開く形の刃です。「苦悩の梨」みたいな?




