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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第五章:婚約破棄は、よく考えてから行いましょう
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第40話 決別

第08節 ふたつの結末〔2/5〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


 夕刻の、来客。

 それがエラン先生だという事は、すぐにわかった。先生には美奈が〔泡〕を付けていたからだ。そして、朝と違ってお供もいないようだ。


「ソニア。エリスを連れてベルダとリーサ(パトリシアひめ)のところに行ってくれ。着替えが必要だしな」

「……終わりましたら、戻って来ましょうか?」

「その必要はない。エラン先生のことは、俺たち五人でカタを付けなきゃならないんだ」

(かしこ)まりました。ご武運を」


 そして、ソニアが席を外してから。俺たちは、エラン先生を迎え入れた。


「久しぶりだな」

「ええ。先生もお元気そうで」

「そうでもない。この〝違約紋〟の所為(せい)で、かなり苦労をさせられたからな」

「心中お察し致します」


 だけど、エラン先生が今日再訪したのは、挨拶する為じゃない。


「お前たちは、あれからどうしていたんだ?」

「実はよくわかりません。気付いたら、『ベスタ大迷宮』にいたんです」

「『ベスタ大迷宮』……? そういえば、別の迷宮を探索していて出口を見つけたら、そこはモリスの町だった、という話があったが――」

「おそらくは、そういう事でしょう。どんな法則が働いているのかは存じませんが」


 今では大体理解しているし、その管理者たる存在がいることも知っているけど。


「だが、お前たちは、独自に〔契約〕に従って活動していた、という訳か。

 なら、俺はお前たちを教皇猊下に紹介出来る」

「その必要はありません。既に魔王、〝悪しき魔物の王(サタン)〟との戦いは始まっています」

「何だと?」

「ご存じありませんか? (オールド)ハティス、エラン先生の故郷の地にて、小鬼(ゴブリン)が国を興したという話を。

 その、ゴブリンたちの背後にいるのが、〝魔王(サタン)〟です」


「ちょっと待て。ドレイク王国が、ゴブリンを操って国を興した、という事か?」

「何故ここにドレイク王国が出てくるのですか? 〝魔王(サタン)〟とは、善神(アザリア)を滅ぼさんと目論む〝悪しき魔物の王〟のことでしょう?」

「お前たちこそ、何を言っているんだ? 誰が、そんな存在を〝魔王〟だと言ったんだ?」

「〔契約〕には、『精霊神を否定し、(まもの)を従え、世界秩序の脅威となる者』が〝魔王〟だと定義されています。俺たちが召喚された理由は、キャメロン騎士王国の、政治的・軍事的な意味での敵を(たお)す為ではありません。俺たちはテロリストではないのですから。

 〔契約〕の、一体何処(どこ)に『ドレイク王アドルフを暗殺せよ』と記されていましたか? 何なら改めて〔契約〕書を確認なさいますか?」

「……確かに、アドルフ王が〝魔王〟である、とはどこにも記されていない。だが、アドルフ王以外にそれに値する対象は、いない」

(いいえ)。アドルフ王、ドレイク王国でさえ、それは成し得ないんです。それは、俺たちが証明出来ます。


 あの、ゴブリンたちが使っていた兵器。あれは、俺たちの世界の兵器です。

 この世界のモノではありません」

「何だと!」

「だとすると、〝魔王(サタン)〟とは、異世界の存在を知る者、と断定出来るんです。

 ドレイク王と、俺たちの出身世界。どんな関連があるか、エラン先生はご存知ですか?」

「……、知らない」


「そうなると、候補は限られます。すなわち。


 俺たちを召喚した、騎士王国の魔術師長。

 或いは、その協力者であり騎士王国の同盟国の国主である、教皇猊下。


 このどちらかが、〝魔王(サタン)〟、だと断じる事が出来るんです」


◇◆◇ 雄二 ◆◇◆


 ドレイク王アドルフ陛下が、転生者であるという事実。

 その事実に客観的な証拠を与えさえしなければ。飯塚くんの論法には、説得力があるんです。そう、他に該当者がいないのですから。

 それに反論する為には、キャメロン騎士王国が『ドレイク王は転生者である』という事を知っている証拠を出す必要があります。

 けれどその為には、たった一人の異国の騎士相手に、キャメロン騎士王国は近衛騎士団全軍と、陸軍師団全軍、おまけに海軍艦隊全艦が、完膚なきまでに敗北した、と告白しなければならないのです。

 エラン先生だって、「〝魔王(サタン)〟の手によって壊滅した」事実は知っていたはずです。けど、「ドレイク王たった一人の手によって壊滅した」という事実は、知らないはずなんです。だからおそらく、エラン先生は、「ドレイク王国軍との交戦の結果」壊滅した、と理解しているのでしょう。


 正直言えば、この辺りの真相は、ボクらにとっても想像に過ぎません。けれど、騎士王国は〔契約〕の文言で、〝魔王(サタン)〟を異形視し過ぎました。その文言からは、「人間国家対人間国家」の、単なる戦争をイメージすることは出来ません。「神に仇なす存在」を討つことが〔契約〕に定められた、としか読み取れないのです。


 そう、「正義(かみ)(あだ)なす存在」。これが、ボクらが〔翻訳魔法〕で翻訳した「魔王」の正しい解釈でしょう。そこに『ドレイク王アドルフ』という名はないのです。

 そして、その〝神(正義)〟を、特定国の大義名分ではなく、全ての民が信じるに値するモノ、と定義し直せば。それは、それだけを理由にドレイク王は該当しないのです。


「エラン先生。まさか騎士王国は、ボクらをテロリストに仕立て上げ、ドレイク王を暗殺する為にあんな大仰(おおぎょう)な〔契約〕を定めた、なんてことはありませんよね?

 騎士王国は、〝善神(アザリア)〟を滅ぼさんと目論む〝魔王(サタン)〟の存在を察知して、それを討つ為にボクらを召喚した。そして、ボクらはその〝魔王(サタン)〟の尻尾を(つか)み、その正体に至るべく現在活動をしています。


 なら、エラン先生は、〔契約〕に基づきボクらに協力する義務があるんです」


◇◆◇ 翔 ◆◇◆


「それが、お前らの解釈か」


 エラン先生が、武田の言葉に反論する。


「解釈、じゃありません。それが〔契約〕の本旨です」

「だが、そんなことは認められない。

 俺は、お前らの判断を認めない。


 明日にでも、お前らを教皇猊下の前に連れていく。

 そこで、お前らは自分たちがすべきことを確認せよ」


「残念なことに、教皇猊下に対し、俺たちは深刻な疑念を持っています。

 教皇猊下こそが、〝魔王(サタン)〟の表の姿であり人類を支配しようとしているという疑念です。

 それが晴れるまで、俺たちは教皇猊下に謁見する訳にはいかないんです」

「そんなことがある訳がない!」

「先生も、どうやら〝魔王(サタン)〟に洗脳されている可能性があるようですね。

 字義通りの、それは〝違約〟です。


 先生が〔契約〕を履行するつもりがないとおっしゃるのなら。

 俺たちは、先生は〝魔王(サタン)〟の走狗、否、それ以前に〔契約〕に仇なす敵と看做(みな)さざるを得ません」

「そう、か。なら、仕方がないな。

 俺は今、教国の聖堂騎士だ。

 お前たちを〝善神(アザリア)〟の敵として、討つことになる」


 これで、俺たちと先生の道は、完全に別れた。


「先生、(いえ)、エランさん。

 エランさんに教えてもらったことが、今まで俺たちを生かしてきました。そのことは、感謝致します。

 ですが、たった今を(もっ)て、エランさんは俺たちの敵です。


 どうぞ、この場はお引き取りを。この場でエランさんの首級(くび)を取ることは、過去の恩に(むく)いる為に慎むこととします」

(2,994文字:2018/08/22初稿 2019/05/01投稿予約 2019/06/09 03:00掲載予定)

・ エラン先生は、ドレイク王アドルフが転生者だとは知りません。その可能性に思い至るだけのヒントも持っていません。そもそも転生者という存在は、松村雫さんの話を聞いて初めて知りました。また、「ドレイク王アドルフ」と「飛び剣のアレク」が同一人物だという事も知らないんです。

・ 〔縁辿〕がもともと〝廃都の王(リッチー)〟こと、『(いにしえ)の大賢者タギ』が作り出した魔法であることも、エラン先生は知りません。

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