第37話 聞き込み捜査
第07節 とあるひとつの恋物語〔3/4〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
この、強盗団改めレジスタンスの皆さん。
ショウくんは、無条件で解放することにしたんだよ?
普通に考えたら、強盗を無条件解放するなんて、ってことになるけれど。
でも、もし彼らがただの強盗団で終わったとしても、ショウくんにとっては何らデメリットもないし、もし彼らが化けて歴としたレジスタンスになれば、ショウくんの大戦略に関して極めて有効な切り札になる。
ショウくんの大戦略。
教国の教皇を、〝悪しき魔物の王〟と認定し、民衆にそれを認めさせたうえで、〝ア=エト〟の名で討つ。
確かに、それが可能なら一石二鳥。美奈たちの〔契約〕も満了するし、盛大な意趣返しになる。
けど、本当にそれが出来るんだろうか? 〔契約〕の達成或いは不達成を判断するのは教皇だと定められている。その教皇を〝悪しき魔物の王〟と指弾するには、まだ何手か足りないような気もするけれど。
とはいえ、ショウくんにはまだ何か策があるのかもしれないし、無いのかもしれない。無くても場当たり的に、使える札を見つけ出すのかもしれない。この、強盗団と出会えたように。
◇◆◇ ◆◇◆
さて、それはそうと。今日は結構忙しい。
多分明日(早ければ今夜)には、エラン先生がまたうちに来るだろうから。そして、美奈たちとエラン先生が友好的な関係を再構築出来るのだとしても、それとベルダの一件は別扱いになるだろうから。だから、取り敢えず捻出出来たこの一日で、出来ることを済ませないと。
美奈たちは、二班に分かれたの。
一班は、ショウくんとベルダ、そしてソニアの三人。三人は、まず娼館主ギルドに向かうの。
もう一班は、残りの美奈たち。いつもの装飾店に行って、パトリシア姫の紋章が削られていたブローチについて、改めて確認を取る為。言うまでもないけど、エリスは〔倉庫〕でお留守番。
◇◆◇ ◆◇◆
「やぁ、お嬢ちゃんたち。今日はあの女主人さんは一緒じゃないのかい?」
「ご主人、このブローチについて教えてほしいんですけれど」
店主の挨拶を無視して、武田くん。
「このブローチを売ってきた相手は、どこの誰ですか?」
「お客さん、申し訳ないけれど、仕入れ先の情報は漏らせないよ。こんな町だけど、それでも商売は信用あっての物種だからね」
この店主さんは、〝違約紋〟はおろか〝誓約の首輪〟も付けていません。
「おっしゃる通りだと思います。けれど、それを枉げてお願いしたいんです。
このブローチ。裏に削られた跡があるのをご存知ですか?」
「あぁ。だからこれは瑕疵品として、高い値付けは出来なかった」
「『擦り出し』という方法があります。この上に薄い紙などを乗せて、その上から力を入れて炭を擦り付けるんです。すると、この凹凸に合わせて陰影が出来ます。
そうして浮かび上がったものは、某国の高位貴族の紋章でした。
おわかりですか? 店主は、そうとは知らずに、某国の高位貴族の紋章入りのブローチを、民間人に販売してしまったんです。それを購入したのが我々だったのは不幸中の幸いでしょう。けれど、これをこの店に持ち込んだ人は、それを知っていたのでしょうか?
知っていたのであれば、その人はどうやってこれを入手したのでしょうか?」
「……その、『某国の高位貴族』ってのは?」
「それは申し上げられません。否、店主に意地悪をしている訳ではありませんよ。それを知れば、店主は今回の事件の当事者になってしまいます。何も知らない〝善意の第三者〟ではいられなくなってしまいます。それでも、聞きたいですか?」
「それは、願い下げだな。だけど、それでも。
私は、このブローチを持ち込んだ女の素性は言えない。商人の矜持に懸けて、それを告げることは出来ない」
……ふぅ。こうまで言い切られちゃったら、もうこっちが折れるしかないんだよ。
この店主は誠実な商人で、本拠がこの町なのか外国なのかは知らないけれど、仮令本拠のある国の大貴族を怒らせたとしても、枉げられないものがあると宣言したんだから、暴力を以て尋問しても、答えてはくれないんだよ。
でも、そう言いながら。「女」ってことは教えてくれた。
なら、パトリシア姫が直接売りに来たってことだよね?
時間があれば、この店を監視していれば、パトリシア姫を捕まえられるかもしれない。
けど、既に紋章入りのブローチを売りに出してしまった以上、他に売れるものは残っていないかもしれない。
どっちにしても、ここでこれ以上の情報を得ることは出来そうにない。
「わかりました、有り難うございます。
ボクたちは、遠からずこの町を出ることになります。次にこの町を訪れるのはいつになるかわかりません。
けど、次にこの町に来た時。この店が健在なら、また、この店で買い物させてください」
「ああ、わかった。その時までに、掘り出し物を仕入れておくことにしよう」
残念ながら空振りだったけど。それでも、嫌な気はしないんだよ?
◇◆◇ 翔 ◆◇◆
俺とソニアとベルダは、娼館主ギルドに向かった。
この面子だと、まるで俺が女衒のようにも思えてしまうけど、まぁそれは仕方がない。むしろ向かう先を思えば、そう誤解される方が都合がいいかもしれない。
「何だ、ベルダか。
済まないが、ベルダにはしばらく、客を紹介することは出来ないんだ」
「わかってる。今日聖堂騎士がうちに来たから」
「……なんか、面倒に巻き込まれているみたいだな」
「かなり、ね。ただ、ギルドにはその騒動をこれ以上持ち込まないと約束するわ」
「是非、そうしてくれ」
ベルダは、ギルドの職員とかなり良好な関係を築いているようだ。
「それはそうと、ちょっと教えてほしいんだけど」
「何か?」
「最近登録した、新人の娼婦についてよ。
これまでこういった仕事をした経験がないような、手管をいちいち教えなければ商売も出来ないような初心な新人は、いる?」
「……何故、それを知りたがる?」
「昨日、あたしが巻き込まれた事件に関係しているかもしれないの」
「……そうか。だが、お前の言う条件に該当する新人はいない。新人自体はいない訳じゃないがな」
外れ、か。だけどこの場合、最悪に該当しなかったという事で、朗報というべきだろう。
「わかった、感謝するわ。
あたしは多分、今後この町では仕事が出来ないと思うから、このギルドに足を運ぶこともこれが最後になると思うわ。
お世話になったわね」
「残念だよ。長く居続けてくれれば、間違いなくナンバーワンになれたのに」
「別の町でナンバーワンを目指すから」
軽口を叩いて、ベルダはギルドのカウンターに背を向けた。俺とソニアもその後に続き。
◇◆◇ ◆◇◆
そして、娼館主ギルドを出て、町の山の手を抜け、聖堂近くの高級住宅街を目指す。その途中で、美奈たちとも合流した。
行く先は、昨夜のベルダの客の屋敷。個人情報云々という以前に、簡単に身元が割れるほどの一族の出身だったという訳だ。
その屋敷に近付くと。
どうやら先任庭師に叱られているらしい、一人の若い庭師の姿を見る事が出来た。
(2,971文字:2018/08/21初稿 2019/05/01投稿予約 2019/06/03 03:00掲載予定)
・ 強盗団改めレジスタンスの方々。彼らを神殿に突き出せば、ベルダの無罪(正当防衛)の証明も出来るでしょうが、そもそも五人は神殿の取り調べを受けるつもりはありません。司法が真っ当な仕事をするかどうかも不明だし。だから、どうでもいい(笑)。




