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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第五章:婚約破棄は、よく考えてから行いましょう
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第32話 娼婦と商人と冒険者

第06節 善なる神の聖なる地〔2/4〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


 731日目。

 ちょうどこの世界に来てから2周年を迎えた訳だけど、今年は別に宴会(パーティー)などをする予定はなく。淡々と冒険者ギルドに行って依頼(クエスト)を物色することにした。


 一応全員冒険者として出向登録したけれど、冒険者として活動する予定があるのは俺と武田だけ。ベルダは娼館主ギルドにも登録し、フリーの娼婦として客を取ることにした。

 ギルドに登録せずに客引きすると、怖いお兄さんがやってくるのは、どこの町も同じこと。そして娼館に就職すれば、安定して客が宛がわれる代わりに、新人の間は一日に何人もの客を取らされることもあるのだという。

 一方で個人営業の街娼としてだと、客を取れない日もある上に、商売に使う宿は娼婦側が提供する必要がある。また客を()り好みしたり金額交渉したりは娼婦自身の手腕に()る為、ヤバい筋の客を取ってしまう場合もあるのだとか。加えてこの町では、基本売春婦は「不浄な職業」とされている。見つかれば、取り締まりの対象になる。だからこそ、「ギルドに対する上納金」という名目の、「神殿に対するみかじめ(・・・・)料」を払う必要があるのだ。そうすれば、(取り締まりを免れる訳じゃないけど)その日の警邏(けいら)の神殿衛士の巡回ルートを教えてもらう事が出来、逮捕される危険が薄れるという訳だ。ちなみに神殿衛士は上客に数えられるから、神殿もやはり本音と建前を使い分けている、と考えるべきだろう。

 そして仕事で使う宿はキープしておく必要があり、客が取れなければ当然使わなかった宿代で足が出てしまう危惧(おそれ)もある。しかも、「一晩に二人以上の客を取っちゃダメ!」と美奈に厳しく言い含められている。みかじめ料の問題もあり、フリーの街娼は、商業的には結構リスキーな職業なのだ。


 柏木と女子たちは、「女商人(ソニア)そこの(ミナと)使用人(まつむらさん)用心棒(かしわぎ)」という役割(キャスティング)で、宝石商や古物商を(まわ)る。

 今回は、彼女らには散財して良しと告げてある。商人たちだとて、やはり太客に対してこそ口が軽くなるだろうし、逆に(やす)い小物ばかり買う客には警戒するだろうから。

 その一方で、買う物に関しては条件が付く。「小振りで、且つ上品なモノ」。

 最終的にはパトリシア姫からの流出品に辿(たど)り着かなければならない訳だが、同一系統の物の方が商人の喰い付きも良いだろう。パトリシア姫は一応駆け落ちしている身分なのだから、大物(姿見だとか箪笥だとか)を持ち出しているとは思えない。

 また仮にも王女なのだから、(ひん)の良いモノを揃えていたはずだ。本人の美意識はどうであれ。だから、ここは女子一同の腕の見せ所。彼女らが選ぶ品が、「派手だけど安っぽいモノ」でしかなければ、おそらく王女の流出品には手が届かないだろうから。


◇◆◇ ◆◇◆


 聖都(アザリア)の冒険者ギルド。ここでのクエストは、意外に種類が無かった。

 町の掃除や雑用などは、神殿からのボランティアで(まかな)え得るし、〝信用〟が有名無実なこの町(そんな事情は商人たちにもすぐわかる)では、棚卸(たなおろし)などの商業系のクエストも忌避(きひ)されている。〝違約紋〟を(ひたい)に付けた冒険者に商品を(いじ)らせたいと思う商人など、いる訳がない。

 ちなみに、所謂(いわゆる)信用取引に類するものはこの町にはない。商人ギルドが発行する為替(かわせ)でさえ、この町ではほとんど通用しないのだ。

 この為替に関しては、別種の問題がある。まずアザリアシティの商人ギルド発行の為替。これの信用度は最底辺。そしてアザリア商人は、為替での取引をしない。だから、為替取引をする外国商人は、自分と取引相手の身分証を見て、国籍を確認してから行うのだという。

 為替すなわち信用取引は、一種の借金。そして、「カネの貸し借りは低俗である」というのが神殿の教え。だからこそ、「いつもニコニコ現金払い」なのだとか。


 そうなると、請けられる商業系のクエストは、荷運びや商隊(キャラバン)の護衛・馬丁(ばてい)などの仕事ということになる。俺がこの町に立ち寄る商人だったとしても、この町の((ひたい)に〝違約紋〟を付けているかもしれない)冒険者に対して商品や数字を扱う仕事はさせないだろう。依頼人(クライアント)側からは、指名依頼でない限り冒険者を()り好み出来ないのだから。

 俺も武田も、肉体労働系は不向き。とは言っても日本にいた時に比べれば体力もついているので、その辺りの仕事を片っ端から請け負うことにした。


◇◆◇ 雫 ◆◇◆


「お嬢さんたちは、……商人さんか? 女だけの商隊って、珍しいな」

(いえ)、まだギルドに登録することを許されていません。今は商人の真似事をして、色々勉強しているんです」


 あたしたちは、ソニアを商人見習いに仕立て、市場調査と洒落込んでいる。飯塚が結構細かくオーダーを出していたけど、物価の確認の意味もあり、まずは雑貨や食料品から。

 ただ、この町は為替がほとんど使えない。けどだからこそ、商人ギルドに籍を置く意味が薄く、あたしたちのようなギルド未所属の人間が、商人を偽装することも難しくないようだ。

 ちなみに、偽装商人とそうでない正規の商人の違いは、〝違約紋〟の有無で判断するのだそうだ。この町ではともかく、外国では〝違約紋〟持ちが商人になれるはずがない。それは「失敗者に対して厳しい」という以前に、〝違約紋〟とは「〝誓約〟した内容を踏み倒した(あかし)」な訳だから、それを消さずに商人を続けられるはずがないのだ。

 だから、〝違約紋〟持ちが商人のように振る舞っていたら、それはこの町の小商人(つまり顔見知り)か、でなければ偽装商人ということになる。

 逆に、〝違約紋〟さえなければ、商人ギルドの身分証がない偽装商人であっても正規の商人と看做(みな)される訳だから、セキュリティはがばがばだと言わざるを得ないけど。


 そして、今日は小物を数点選ばせてもらった。正直、この世界の装飾品(アクセサリー)類は、よく言って素朴、悪く言えば洗練されていない。文化や歴史、そして経済活動の差を考えれば、仕方のないことかもしれないけれど。一般庶民が宝石類を購入出来る購買力を持ち、人工宝石が天然宝石に勝る純度・輝度を誇り、だからこそミクロン単位の瑕疵(かし)も許されない。そんな世界の宝飾技術と、職人の勘に頼るこの世界のそれとを比較すること自体が間違っている。この世界では金貨数枚出さなければ買えない物でも、某駅ガード下では一つ200円、三個500円で売っているだろうから。


 ともあれ。

 その宝石商には、あたしたちは近々予定されている某国のお姫様の輿入れに際する贈り物を探していると言い、その店を離れたのだった。

(2,808文字:2018/08/19初稿 2019/03/31投稿予約 2019/05/24 03:00掲載予定)

・ アザリアシティの冒険者ギルドに於ける(DE)級冒険者のクエストには、業務品質(クォリティ)評価のポイント制はありません。だから、一定数のクエストを(こな)せば自動的に鉄札(Dランク)に昇格出来ますし、銅札(Cランク)の昇格試験を受験出来ます。

・ 商人たちは、現金取引を強いられる⇒大口取引の為には、大金を用意しておくことが求められる⇒泥棒さんいらっしゃい⇒泥棒さんたちは、盗んだ金額の半分を喜捨すれば、その罪が赦される⇒神殿ウマー(*´▽`*)

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