第28話 リアーノの駅
第05節 巡礼の旅?〔4/6〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
第717日目の夕方。美奈たちはリアーノの町に着いたんだよ?
この町は、多種多様な人々で溢れていたの。その多くは巡礼者、そしてその巡礼者相手の商売をしている人。それが、この町に集まっているみたい。
だから宿も、所謂高級宿は無い。格安の宿泊料で泊まれるけど、その部屋は雑魚寝部屋だけ。すし詰め・芋洗い状態で、手足を伸ばすのにも難儀する。でも、それでもそんな部屋でも泊まれるのは裕福な証。住民宅の納屋を借りれるのは身元が比較的確かな人だけ。道端で横になっている人も、少なくない。
巡礼は、特定の季節というモノはないみたい。だからこそ、今みたいな野宿をしてもそのまま凍死する不安がない季節には、巡礼者も増えるのだとか。
巡礼馬車も確認してきた。馬車は基本、毎日出発するみたい。一両20人くらい乗せ、多い日には5両馬車が出ることもある。けど、その時でも同時にとか列を成して、という事もない。一定の間隔を置いて出発することになるみたい。これは、盗賊などに襲撃された時、被害を最小限に抑える為なのだとか。
そして巡礼馬車は、安いだけに基本乗客も働かされるんだって。馭者は専門の職員が手綱を持つけど、例えば野営の際の設営や料理などは乗員が自分たちの手で行わなければならないの。例えば食材などは、義務じゃないから供出しなくても文句は言われないけれど、食材の供出もなく労働もしない乗客は、「何故か不明ながら」目的地に到着する前に、馬車からいなくなっているのだとか。
また、銅札以上の冒険者は、一定の優遇がされる。護衛としての報酬が得られる訳ではないけれど、乗車賃が値引きをしてもらえると聞いたの。
さて、明日の朝に出発する馬車に乗りたい。そう思っているけれど、馬車の駅には、既に多くの巡礼者たちが毛布を体に巻き付けてそこに座り込んでいる。今日出発する予定の馬車に乗れなかった人たちが、明日出発する予定の馬車に確実に乗れるように、もう列を作っているみたい。ざっと人数を数えてみると、大体30人くらい。つまり、今列に加われば、運が良ければ二台目の馬車に乗れ、列を作っている人たちのグループの人数が多ければ、四台目の馬車にも乗れない可能性もあるってこと。
ちなみに、昨日は四台の馬車が出たのだとか。なら今列に入らないと、明日の馬車には乗れないかもしれないんだよ。
全員で話し合った結果、列で場所取りは基本ベルダとソニアの仕事。とはいっても、美奈たちも基本列の中にいるけれど、必要に応じて五人で列を離れ、物陰で〔倉庫〕を開扉して中から食料を取ってくるなどをするってこと。だけど、美奈たちの食べ物を他の人に見られても不審がられないように、ちょっと工夫が必要になるけれど。そして勿論、ベルダやソニアがトイレなどで列を離れるときは、美奈たち五人が列を守る。エリスは美奈と一緒。
五対二みたいな班分けに関しても、ベルダは文句なく従ってくれた。はじめから五対二どころか六対一の立場になるかもしれないことは言ってあったし、それで納得してもらえないのなら同行自体を断るしかない。
ベルダは密偵としては、調査対象にその正体を知られている時点で失格なんだから、不満より同行が許されてまだ秘密を探れる機会がある、という環境の方を優先してもらうんだよ?
◇◆◇ ◆◇◆
第718日目の午後。
予想通り、美奈たちは目の前で三台の馬車を見送ることになったの。
実は美奈たちが銅札の冒険者、という事で、三人と四人に分乗すれば、一台目と二台目に乗れる、とも誘われたんだけど、それを断ったら定員の問題で三台目にも乗れなかった。そして、四台目は出るかどうかは現時点では未定なのだとか。
四台目が出るのなら、それには間違いなく乗れるし、出ないのなら明日の一台目には乗れるってことになるみたいだけど。
と思っていたら。どうやらトラブルみたい。
「ふざけんな。あの連中を下せば、俺たちが乗れるはずだ!」
「お待ちください。この馬車は基本、先着順です。グループの人数が多いという理由でその馬車に乗れないお客様が次の馬車に回され、その分その後ろの少人数のお客様が繰り上げになることはあっても、少人数のお客様をお乗せする為に大人数のグループの御乗車をお断りすることは出来ません」
「そうか、だがその大人数グループが、自分の意思で乗車を取り止めた場合は問題ないんだよな?」
「ご自身の意思であれば、我々が何か言うことはございません。また、お客様が個人的に、他のお客様と交渉為されることに関しては、当方で関知するものではございません」
どうやら四台目の馬車は出るみたい。だけど、人数の問題で乗れなくなりそうな巡礼者が、どうしても乗りたいからごねているってこと? 確かに、20人が定員の馬車に5人以上のグループが乗り込まれたら、割を喰う少人数グループは確かにありそう。
「おい、お前たち。お前たちみたいな大人数で乗合馬車を使うなんて、周りの迷惑だ。
馬車に乗るな、とは言わない。だが、他の乗客の迷惑にならないように、列の最後尾に並び直せ!」
……え? 美奈たちに言っているの?
「アンタは、単に自分が予定の馬車に乗れそうにないのが嫌なだけだろう?
オレたちは昨日から並んでいる。アンタもオレたちより先にこの列で並んでいればよかっただけのことだ。アンタの我儘に付き合うつもりはねぇよ」
柏木くん、当然の反論。だけど。
「ふざけんな。お前、俺を誰だと思っている? 俺がその気になれば、お前らが二度とスイザリアの土を踏めなくすることも出来るんだぞ?」
「面白れぇ、やってみろ。土を踏めなくする? ならオレはアンタが二度と立ち上がれないように叩きのめしてやってもいいんだぜ?」
柏木くん、あっさりヒートアップ。まるでチンピラの喧嘩です。
けど、こういう場合。単純暴力は、意外に簡単な解決法でもあります。
さすがに町中で刃傷沙汰はご法度でしょうけれど、売られた喧嘩を買えなければ、この先ずっと舐められます。この人が商人か、下級貴族かは知りませんけれど、町の外は法施行地外なのですから。
すると、その人は美奈の方を向きました。うん、美奈とエリスは暴力とは無縁の女の子、と見たんだね。あながち間違いじゃないですけど。
「まさか、彼女らに手を出そうなんて思ってないよな?」
既にクボタンを持ったショウくんが立ち上がる。うん、クボタンは喧嘩に際して効果的に使える護身具なんだよ? 暗器だから目立たないし、鈍器だからその傷痕も目立たないし。
そしてショウくんが立ち上がってくれれば、美奈はお姫様気分に浸れるし、良い事尽くめなんだよ?
「ケッ! 憶えてやがれ!」
……あれ? 終わり?
まぁ単なる強面の、商人だか貴族だかなんかは、怖くもなんともない。貴人の護衛って言っても、巡礼馬車に乗る時点で程度が知れているし。
だから美奈たちにとっては。
大して盛り上がりもしないイベントでしかなく、そのまま馬車の受付で代金を支払って割符を受け取ったんだよ。
(2,963文字:2018/08/09初稿 2019/03/31投稿予約 2019/05/16 03:00掲載 2019/05/16衍字修正)
・ 町中で刃傷沙汰はさすがに問題。そして想定される戦闘が、「チンピラとの喧嘩」の為、柏木宏くんとソニアさんは素手、松村雫さんは鏢、飯塚翔くんはクボタン、残りは非戦闘要員を装う、という形にしています。




